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【鉄人】電気自動車の将来と未来のクルマ社会を占う《前編》その5

2009-10-03 07:37:51 | 車・バイク




ハイブリッド車の低価格化の先駆けとなったのが、09年2月発売のホンダ「インサイト」だ。インサイトは、燃費性能を重視した1.3L SOHC4気筒ガソリンエンジンを搭載して、発進や加速に必要なトルクの不足をモーターで補完する、モーターアシストのパラレル方式ハイブリットシステムを採用している。仕組みはプリウスと比べると単純だが、低コストで軽量・コンパクトなのが優位点だ。

 バルブ可変機構を備えるエンジンは、減速時やモーター走行時にエンジンを休止させて、エンジンブレーキによる摩擦ロスを抑える。そして精密なエネルギーマネージメントによって、停車時や加速時、巡航時のそれぞれにおいて、エンジン出力とモーターアシストの組み合わせを最適に制御して、あらゆる走行状況で低燃費かつ軽快な走りを実現している。

通常はインサイトクラスのクルマなら、1.5L~1.8Lのエンジンの動力性能が必要だ。しかしエンジン排気量が大きくなれば、増加に応じた量の燃料を消費する。また同じ排気量のエンジンでも、燃費重視タイプや最高出力重視タイプの特性に設定できるが、インサイトは燃費が最適になる特性に設定している。排気量が小さいだけでなく、燃費重視の特性なので、当然、発進や加速、高速走行時のトルクが不足する。

それを補うのがモーターだ。モーターの特性として、回り始めの低回転で最大トルクを発生する。これは、エンジンが3000rpm前後で最大トルクを発生するのと正反対の特性で、モーターのトルクをエンジンのトルク不足分を組み合わせて、クルマ全体のエネルギー効率を高められる。

クルマが巡航速度に近づくとモーターのアシストはなくなり、エンジンだけの動力で走行する。この巡航速度域で効率が最適になるようにエンジンをセッティングしているので、燃費が良くなる。

そしてインサイトもプリウスと同様に、減速時に無駄に捨てていたエネルギーを回収する回生ブレーキ機構を備えている。動いているクルマを停止させるには、持っている運動エネルギーを放出させる必要がある。従来のクルマは、ブレーキの摩擦で運動エネルギーを熱エネルギーに変えて、その熱を空気中に発散させていた。

回生ブレーキはモーターを発電機として用いて、発電時に発生する抵抗力で減速を行う。今まで熱として無駄に捨てていた運動エネルギーの一部は、電気エネルギーに変換してバッテリーに貯められ、加速時のモーター駆動に再利用できる。この回収分が、低燃費につながる。

ほかにも信号待ちなどの一時停車中には、アイドリングストップで無駄な燃料消費を抑える。また、低速時にはバルブ制御でエンジンを休止して、プリウスよりも短時間だがモーターだけで走行する機能も備えている。

プリウスもインサイトも、リーズナブルな低価格で低燃費のハイブリッドを実現して、消費者から大きく注目された。ガソリンで走るため、充電ステーションや水素ステーションなどのインフラが整備されなくても、通常のクルマと同様に使える利便性は大きい。

ハイブリッド車が今後さらなる効率化を図っていけば、電気エネルギーを主体とした社会が実現するまでの主役となるだろう。後編では、もう一つの主役であるクリーンディーゼルと、電気エネルギーを主体とした将来の社会像について述べる。



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