頭が三つあるという犬の怪物。冥府の神ハデスに忠実な、地獄の番犬である。恐ろしい声で吠え、死者が冥府に降りるときは通すが、冥府から出ようとするときは必ずとらえ、肉のようにむさぼり食うという。
昔から犬はよく番犬として使われた。主人の家を守り、不審者の侵入を防ぐ役割である。その性格から、冥府の番犬という役割をも与えられたものであろう。黄泉路は一方通行だ。死者はもう戻って来てはならない。死はそれにふさわしい時期がくれば、完全に人間を支配し、それに逆らうことは許されない。
神の絶対支配の隠喩である。
人間は死に赴くとき、この世界には絶対にあらがうことのできない権力が存在することを、学ぶのである。
獰猛必殺のこの猛犬はしかし、何度か生きた人間に敗れたことがあるという。死に抗う人間は様々な方法でケルベロスをだまそうとしたのだ。だが、だれも、ケルベロスの主人である、死そのものには、かなわなかったという。