上半身が人間で、下半身は魚類。湖沼や海などの水域に棲み、陸上では生活しない。男性の人魚はマーマンといい、女性の人魚はマーメイドというが、人魚というと、女性の人魚を思い浮かべることが多い。
若い女性の姿をした人魚は悲恋の象徴である。人間と恋をすることもあるが、それがかなわぬままに悲劇に終わる。時には陸上の男を誘惑して水に誘い込み、溺死させることもある。
水は女性性によくなじむ性質をもつ。常に低きに流れる。すべての命に愛を与えて育てる。なくてはならないものだが、それゆえに馬鹿にされることがある。
古来より、人間は女性を侮蔑し、馬鹿にして殺した女性を水の中に捨ててきた。水の中にすむ人魚は、その女性の霊魂が帰って来た時の姿をも感じさせるのである。ゆえに人魚の恋は常に悲恋に終わるのだ。
水に流すということばがあるが、自分のやったことは水に流しても消えるわけではない。巡り巡って波のようにまた押し寄せてくる。男が馬鹿にして異界に葬った女は、いずれ、美しい人魚となって帰ってくる。そしてかつて愛した男に何かを訴えるのである。
しかしアンデルセンの童話では、人魚姫は泡になって消え、もう帰ってくることはない。
すべての恨みを捨て、何もいらないと言って人魚が消えていくとき、男は永遠に取り残される。そして人魚の夢ばかり追いかけるようになるのである。