睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

Short Story:銀河飯店のBGMは店主の怒鳴り声

2019-08-10 17:31:44 | アート(画・書・創作)
工業団地のはずれにある大衆食堂のお昼どきは
いつも満員御礼の繁盛ぶりだった。
通りすがりに車の中から銀河飯店の看板を見たときは
店の佇まいにそぐわない店名にニヤリとした。

灰色の建材に囲まれた食堂は昔ながらの大衆食堂
そのもので、店の前の広い道路にはハザードをつけた
大型トラックが間隔を開けて数台停まっている。

肩で暖簾を分け引き戸に手を掛けたとき
いつもの店主の怒鳴り声が聞こえてきた。

「おまえ何やってんだよ早く皿だせ」

白いダボシャツに鉢巻き姿の細身の店主は
中華鍋を振りながら壁に向かって怒鳴っていた。
割烹着をきた奥さんとおぼしき同年配の女性は
無言で店主の横に皿を置く。

名物の焼きそばは麺が2玉はあろうかの大盛で
豚肉と野菜がふんだんに入っている。

「まったく愚図なんだから、早く持ってけっ」

店主の怒鳴り声に客は驚いた素振りも見せず
平然と食事をし、世間話に興じていた。
女性は従順ともふてぶてしさとも違う独特の
リズムで皿を持ちテーブルの間をすり抜けていく。

この食堂の昼どきは相席するのが当たり前のこと、
体格のいいトラックの運ちゃんや工業団地に勤める
油まみれの人と一緒に四角いテーブルを囲む。

彼等の注文は焼きそばと根菜たっぷりの豚汁に
副采の冷やっこを付けるのが定番にみえた。
豆腐の上にはおかかと白髪ネギが添えられ、
夏~秋は旬の根生姜と味噌がついてくる。

運ちゃんは根生姜をぽりぽりかじりながら
半丁の豆腐をあっというまにたいらげた。
この店の繁盛のほどが分かる気がした。

ぼくは運よく空いていた角の椅子に座り、
ソースの香り豊かな焼きそばを注文した。
量が多くても美味ければ食べられる、完食。

これがここで食べた最後の焼きそばになった。
銀河食堂と疎遠になったのは味のせいでも
客のガラの悪さでもない。

ガツンと食べたいときのぼくの定番の店であり
とても気に入っていたが、
ある日の胸が痛い出来事を境に足が遠のいた。



今日は書くネタがないのでショートストーリーにしてみた。
希望があればつづきを書くし、なければこのまま了とします。




最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (littleharbor)
2019-08-10 22:40:26
胸が痛い出来事・・・・ ?

生きていると、色々な事がある・・と思い返す今日この頃です
辛い事はなるべく忘れるようにしていますが
胸が痛い・・と言うのは微妙に違う気がします
心にしっかり刻まれて、何かの拍子に蘇り
そして、冷えた陽炎のように、心を揺らしますね

続き希望いたします💦
返信する
Unknown (suiren2009)
2019-08-11 06:27:13
おはようございます。
胸が痛いというのはいくら振り払ってもそのシーンが
脳に焼き付いてるということかな...。
ぼくの記憶スタイルがカット写真をパラパラとめくる
ようなものだから消去が難しい。

そこに立つと映画のワンシーンみたいに鮮明に
よみがえって涙腺崩壊なんてことがあるからさ、
自分を守るために避けるしかないってことだね。
返信する

コメントを投稿