父が病を得てから実家は玄関に鍵をかけるようになった。例年なら熱帯夜が続く真夏は網戸で寝ていたのに、その年はエアコンを入れ雨戸まで閉めきって床についている。オヤジは「わしの身体がいうこときかんから」が口癖になり、目でモノを云うようになった。気骨ばりばりの火の玉のようなオヤジが家を守れない。風に立つライオンも、老いさばらえ、朽ち果てる、見つめる私もせつないが、誰もが必ず、通る道。実家のすぐ近くで自殺が . . . 本文を読む
20代の後半まで、演歌はキライだった。某電気メーカーの「音響」に籍を置きジャズに明け暮れた時代、稀に心を捉える演歌に出会いその作詞家に私淑に近い思い入れを抱くこともあったが、あくまでも音楽としてじゃなく「詩」の範疇として演歌を見ていた。淡谷のりこさんじゃないけど、あれは音楽ではないと・・・。私のエポックメイキングにもなった演歌は、友人の家で無理やり聴かせられた、美空ひばりの「津軽はふるさと」が最初 . . . 本文を読む
動物写真家・星野道夫氏の命日が近い。(1996/08/08シベリアにて没/享年44歳)彼の写真との出会いは知人にもらった1冊の写真集だった。1991年に発刊された「Alaska風のような物語」のベージをめくったその瞬間彼の写真のとりこになった。写真もそうだが、日夜自然と対峙する彼にしか書けないあの緊迫した文章の見事さ。その彼も逝ってしまった。深夜のテントでヒグマに襲われた彼は、腹に喰らいつかれたま . . . 本文を読む
家族だけが釜の前に立つ重い戸が開き係員の白い手袋がストレッチャーのハンドルをつかみ手前に引いたレールをすべる軽い金属音と胸のきしみが耳の奥でごうごうと鳴った人の形と分かるそのままで骨は横たわっていた白くて太い偉丈夫な骨だこれが、オヤジのなれの果て白血病の黒斑が浮き出たガサガサの皮膚や鳥の足みたいに痩せ細った手足が黄泉の業火に焼き尽くされ白くもろく美しい骨になった骨壷に納められたオヤジの骨はいま菩提 . . . 本文を読む
山頭火(さんとうか) 1982/12/03~1940/10/11 山口県防府市 姓名は種田正一明治37年早稲田大学中退、大正2年荻原井泉水に師事、「層雲」に初出句。明治14年に出家し、九州、四国、中国などを托鉢、その行乞放浪の生活を淡々と句に顕した。昭和15年5月、一代句集「草木塔」刊行、同年10月11日死去。連休前夜から「種田山頭火」に没するなり。ぬくたい生活をすればするほど山頭火...。粗末を . . . 本文を読む