京都が好き 写真が大好き by たにんこ

長く写真をやってると 
聞こえないものまで 
聞こえてくるんだな

「ひばりちゃんとやっちゃん」 7

2023年06月03日 03時38分27秒 | 猫 ネコ ねこ
「ひばりちゃんとやっちゃん」 7

帳場で話をした後 家に帰った。
帰ると直ぐ自分の部屋へ行き 結婚式の準備の報告を 来る訳も無いのに待っていた。
次の日家に 大女将と仲良しの仲居さんが尋ねて来て おれに用が有ると。
呼ばれて帳場に行くと 大女将が「やっちゃん これ」 と言い 何やら大層なものを風呂敷から出した。
見ると 手紙と菓子箱だった。
手紙の下には サイン色紙が有った。
大女将がおれのお袋に 経緯を説明してる。
帳場には おれの家の下場のおばちゃんや 仲居さんの妹やらで賑わっていたが
経緯の話が終わるや否や 「やっちゃん!凄い!」 の 大合唱が始まった。
サイン色紙を見ると やっちゃんへ・・・とのサインが。
手紙には 「楽しかったよ。また一緒に遊んでね」 と言うような事が 短く書かれていた。
菓子箱の中には おれがひばりちゃんに言った 好きな和菓子の「馬方羊羹・・・うまかたようかん」が
30個と大福が30個と 沢山沢山入っていた。
大女将は 「やっちゃんに 間違った通路を教えてしまい それで美空ひばりさんの貸し切りの
階を歩かせてしまって やっちゃんが美空ひばりさんのお母さんに怒鳴られて・・・ひばりさんの
お母さんからも 私に代理で謝ってと頼まれて」 と言う風に お袋たちにも話してる。
ただし ニコニコ顔だ。
美空ひばり と言えば 当時は絶大な人気で 歌う曲 出演する映画は 全部ヒットしていた。
日本国中 知らない人など居ないくらいの人気だった。
おれは その大スターが おれの住んでいる田舎に居る・・・と言う事など  考えも想像もつかないし。
ましてや おれが卓球をしに行っていた旅館に 幾ら有名な旅館だとて 
ひばりちゃんが泊ってるなど 想像なんかつかない。
何故来たかも その後聞かなかった。
ひばりちゃんと 一個だけ約束した事が有る。
ひばりちゃんに 学校での鼓笛隊の話と 武道を習っている話をした時だ。
「やっちゃん 良く聞いてね。諦めるのは良くないんだよ。努力すればきっと良い事が有るから。
約束して」 と言い聞かされ 指切りをした。
その後 ひばりちゃんの噂を TVやら雑誌やら等で見聞きし その都度困難を克服している
ひばりちゃんを見て来た。
美空ひばりと言う 日本が生んだ大スターが星になった時・・・おれは当然悲しかった。
けれど 指切り約束した事は その時からも今もおれの座右の銘になって
脈々と息づいている。

「ひばりちゃんとやっちゃん」 6

2023年06月03日 03時35分12秒 | 猫 ネコ ねこ
「ひばりちゃんとやっちゃん」 6

おれの目の前に TVで見ている 美空ひばりと言う芸能人が居る。
しかも たった今チュウされたから つまり婚約者が居る。
変な話し もしこれ以上何かが起きたら 下半身の穴と言う穴から
大小便が噴出しそうなくらい 固まっちゃってた。
「名前は?」 と聞かれた。
おれは丁寧に答えたつもりだ。
質問攻めに有った。
「この旅館で 何をしてたの?」
「何処から来たの?」
「私の歌で何が好き?」
「好きな子は居るの?」
「何が得意なの?」
まぁ それはそれは 質問の好きな人だなと感じたし
お陰で緊張はホグレ 大小便は出さずに済んだ。
ジュース飲もうか?!と言われ 飲みたいと言うと 頼んでくれた。
そのジュースを持って来た仲居さんが 大きな声で驚いてる。
びっくりして仲居さんを見たら さっきまで一緒に卓球をしていた 仲良しの仲居さんだった。
ひばりさんは おれの事を知ってるのか? と 仲居さんに尋ねると 仲居さんは
丁寧に説明してくれた。
ひばりさんは 「あなたは やっちゃんて呼ばれてるんだ・・・」 と言い
「じゃぁ私の事を 今から ひばりちゃんって言って」 と言われた。
小さい声で ひばりちゃん・・・と言うと 馬鹿みたいなでかい声で 可愛いと!
言われた。
ここに来て・・・と言われて見たら ひばりちゃんの隣を指を指す。
おれは ひばりちゃんの隣に座ると 「一緒にジュース飲もう!」と言われた。
頷いてテーブルの上のジュースを見ると・・・ジュースは一つだけで しかもストローが二本刺さってる。
おれは覚悟を決めた。
「超有名な 美空ひばりちゃんと 夕方になれば結婚式を挙げなければいけないんだ」
と 今では思い出しただけでも 笑ってしまうような事を その時は考えもしなかったし
当然だと思っていたんだ。
仲良しの仲居さんは もう目をまん丸くして見ている。
ひばりちゃんは顔を近づけて おれと一緒にストローでジュースを飲んだ。
ひばりちゃんの良い匂いと 緊張感で ジュースの味なんか知らない。
おれが 帳場に行く時間があまりにも遅いから 大女将が探しまくって ひばりちゃんの部屋に来た。
おれは お暇することにした。
大女将と仲居さんとおれと三人で 無言のまま帳場へと向かった。
帳場に着くと 料理長やら下場のおばちゃんやら 仲居さん達やらで 大勢人が居る。
帳場に座ると 大女将と仲良しの仲居さんが 口を揃えて
「やっちゃん 凄い!凄いと!」 と言い 大勢の人達からも言われた。