さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ヒメアカタテハ

2012-06-15 09:53:40 | 


蝶といえば昔はモンシロチョウか、あるいは黄色か黒のアゲハばかりを目にしたような気がする。しかし最近はオレンジ色のずっと派手な蝶をよく見かける。そのうち大柄の方はツマグロヒョウモン、一回り小さいのはたいていヒメアカタテハだ。どちらも暖地性なのだが、近年の温暖化のためか日本中でどんどん増えて市街地でも普通種になってしまっている。

ヒメアカタテハは南極を除く全ての大陸に分布していて、蝶としては最も分布の広い種類だそうだ。また移動性が強く寒冷地にも夏には侵入して発生を繰り返すという。もちろん渡りと違って戻ることはしないから冬になると死滅し、翌年また新たにやってくるのだそうだ。分布が広いのは幼虫の食草がキク科のヨモギなどであることも要因になっていると思う。キク科は植物の中で最も進化した種類で世界中で繁茂している。

ヒメアカタテハはモンシロチョウより一回りほど大きく、ひらひらではなくすーと滑るように飛ぶ。すばしっこくてなかなか近寄らせてくれないが、この時はお腹が空いていたのか食事に夢中でじっくり見ることができた。



この柄はなかなかのものだと思う。目玉模様に波模様、複雑な筋模様といろいろ取り混ぜてある。色使いも渋い茶色と白の濃淡を基調に、鮮やかな朱色、黒、青まで散らしてある。派手さにおいて日本の蝶の中で首位を競うほどではないか。ではどうしてこうなったのだろう。この蝶は日差しの中を花から花へ飛び回るからこの方が逆に保護色になるのだろうか。それとも動きが早いから細かい柄が目くらましになるのか。たぶんそんなことも少しはあるだろうが、これほどまでになった本当の理由は到底判りそうにない。



表側の模様は裏よりも粗い。オレンジ色の濃さは個体によって差があり、少し褪せたような薄めのものもよく見る。羽根の先が黒いのはツマグロヒョウモンの雌と同じだ。ツマグロヒョウモンは毒蝶であるカバマダラに擬態したとされているが、ヒメアカタテハも同じだろうか。いやいやこちらは世界各地に分布しているのだからそんな亜熱帯の蝶に似ても仕方ないだろう。敵のほとんどは大本の毒蝶を知らないのだから。しかしもしかしたらヒメアカタテハはカバマダラと同じ地域で進化し、この模様を獲得してから各地に広がったのかもしれない。



ぐっと近くで見てずいぶん毛深いのに驚く。これは保温のためだろうか。あるいは体のでこぼこをならして飛ぶ時の空気抵抗を減らすような効果があるのかもしれない。

また口には真ん中に筋が通っている。口はストローとも言われるので丸い管かと思うと、実際の断面は上下に押しつぶされた扁平な形だ。そもそもこれは顎で、それが細長く紐のように伸びたものだ。顎だから当然左右一対なわけで、実際羽化直後は別々の2本の紐になっていて後でそれらがくっつくのだそうだ。その跡が真ん中の筋になって残っているのだ。ではどうしてストローになるかというと、紐はそれぞれ向かい合わせ側がへこんで樋のようになっていて、それらがくっつくから中心に空洞ができるというわけだ。蝶の口がストローというのは子供でも知っている当たり前のことだが、その奥にはこうしたからくりがあったのだった。

ふとストローということでゾウの鼻のことを思い出した。ゾウも鼻をストローのようにして水を吸い込む。ところが蝶と違ってそれは鼻に溜めるだけでそのまま飲み込むわけではない。溜めた後鼻の先を口に入れて口中に吐き出してそれからやっと飲めるのだ。一般に哺乳動物は鼻から肺に行く経路と、口から胃に行く経路はほとんど別々になっているからこうせざるを得ない。ところがヒトだけは例外で、二つの経路は口の奥からのどの途中まで一緒になっている。それは声帯を発達させるためで、そうして豊かな言語を獲得できたということだそうだ。しかし一方むせるという副作用も生じてしまった。ところでこの仕組みを逆用して、訓練すると鼻から水を飲む芸当ができたりするのだそうだ。いつか鼻を長く伸ばして手を使わなくても水を飲めるよう進化するかもしれない。

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