さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ハナミョウガ

2012-06-10 10:01:33 | 花草木


雑木林の薄暗い中にずいぶん派手な赤い花が咲いていた。なにやら異次元のものが間違えて出てきてしまったかのような違和感がある。これはきっと園芸用の熱帯植物が捨てられたか逃げ出したかしたのだと一瞬思った。しかしそうではなく、関東以西の暖地の山地にもともと分布しているハナミョウガだった。



色だけでなく形もなにやら普通でない。一番外側の赤い鞘のような部分は当然萼だろう。するとその次の嘴を大きく開けたような部分は花弁ということになる。だとするとさらにその内側の白くて紅色の筋の入ったきれいなよだれ掛けのようなものは何だろう。どう見てもこれは花びらの感じなのだが。

じつはこれは2本の雄しべが変形し合体したものだそうだ。まあ八重咲きの花と言うのは内側の花びらはすべて雄しべが変形したものだから不思議ではない。しかしここまできれいに形を変えるとは驚きだ。雄しべは6本だそうだがまともなのは1本きり、それが白い柱のように立ち上がっている。その先に大き目の箱のような葯が付いている。



真横から見る。葯は蛍光灯スタンドのようで、これなら虫が花の中に首を突っ込んだらその背中に花粉がたっぷり付きそうだ。半透明のコードのような雌しべが上に伸びて、葯の間を通ってその先に少し突き出ている。



真正面から見るとかなり細長い花だ。ふと長い首の草食恐竜を連想する。花が開く時は上側の花弁だけ残して全体がまず前に倒れ、それから雄しべが再び首をもたげて上側の花弁の中に納まるようだ。



棍棒のような蕾が立ち並ぶ様子は花よりきれいなくらいだ。この姿を見たのはもう1月ほども前だった。花は下のほうから順々に咲いていく。そして6月初め頃にはもうだいたい上まで咲ききってしまっていた。



ハナミョウガは薄暗く湿った雑木林の縁のいくらか明るいところに多い。葉は小さいうちはランの仲間みたいで、大きく立ち上がってくるとカンナに似ている。屋久島ではそこら中にクマタケランやアオノクマタケランがあったが、それらと区別が付かないくらいだ。花も大きさや派手さはずいぶん違うが、形はよく似ている。秋に赤くきれいな丸い果実が鈴なりに生るのもそっくりだ。これらはショウガ科のハナミョウガ属のごく近い仲間だった。

ハナミョウガの名は、葉の感じがミョウガに似て花がきれいだからだそうだ。しかしミョウガは同じショウガ科ではあってもショウガ属でいささか遠縁になる。名前の似たものとしてヤブミョウガがあり、東京近郊の山地では普通なので馴染みの人も多いだろう。しかしそちらはツユクサ科で、葉の感じは似ているが花は全く違う。

ところで私が子供時代を過ごした静岡の家の庭にはすばらしい香りの純白の花があって、皆がハナミョウガと呼んでいた。葉の感じはミョウガそっくりだし花も極めて印象的だから、誰言うとなくその名になったとしても無理はない。私もハナミョウガと聞くとまずそちらを思い出してしまう。これは同じショウガ科だがシュクシャ属のハナシュクシャ(花縮紗)、通称ジンジャーリリーだそうだ。私はその香りが好きで、東京暮らしが落ち着くと根茎の一切れを掘り取ってきて植えた。屋久島に移住する時にも持っていき、そして昨年、再移住した指宿にも持ってきた。今年の夏にはまたあの懐かしい香りを楽しめるだろう。実家はもう跡形もなく、この花だけが唯一の形見のようになっている。

コメントを投稿