さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

オオゴマダラ

2012-02-14 10:30:10 | 


指宿での初めての冬はとんでもなく寒いものだった。と言ってもそれはこの地が寒いところというのでなく、列島全体、今年が観測史上1、2を争う寒い冬だったということだ。そんな中でも何か見られるものはないかと「フラワーパークかごしま」に行ってみた。ふと「蝶の館」という看板があるのに気付いた。何と農業用のビニールハウスで空を飛ぶ蝶にとっては狭すぎるくらいで、首都圏の昆虫園などとは比べようもないみすぼらしさだ。しかし一方、手作りの良さは感じられ、その努力の賜物であろうオオゴマダラがたくさんいた。

オオゴマダラは大きく派手で、動きものんびりゆったりしていていかにも熱帯の蝶という感じがする。我々に馴染みの蝶などせわしげに羽ばたき、右や左にひらひら動き回るものだが。またモンシロチョウなど触れるとべっとり鱗粉が付いたりするのだが、この蝶はそういう粉っぽさがない。白いところは鱗粉の層が薄いのか、半透明の膜のようで向こう側が透けて見えるほどだ。いろいろ写真を撮ったが、この逆光気味の時が幻想的な感じが出て一番美しい。



けばけばしい色彩ではないが、大きな白地全体に広がる黒模様はなかなか目立つ。これは警戒色で、毒をもっていることをわざと誇示しているとのことだ。動作が優雅なのもそのためという。ところで名前を漢字で書くと大胡麻斑で、ゴマのような斑点ということだ。しかしゴマにしてはこの模様は大きすぎる。ゴマフ(胡麻斑)アザラシなどそばかすを一面散らしたようだし、ゴマダラカミキリは黒地に小さめの白い点々で名前とよく合っているのだが。



見て回っていると産卵中の蝶がいた。葉の裏に丁寧に一つずつ産み付けている。どうも見たことがあったかなかったか判らないようなあまり特徴のないつる植物だが、熱帯植物でキョウチクトウ科のホウライカガミというのだそうだ。キョウチクトウはきれいな花でよく公園などに植えられているが、実はかなり危険な猛毒植物だ。枝を折って箸に使った子供が死んでしまったという伝説すらある。ホウライカガミも刈り草に紛れ込んで、それを食べたヤギを殺すほどの猛毒という。しかしオオゴマダラの幼虫は自らは解毒しながらその毒を体内に溜め込むのだそうだ。それを成虫になっても持ち続けるから天敵の鳥たちにとっては毒饅頭みたいなものだ。しかし鳥といえども一度食べてみないと学習できないはずで、同じように毒をもつアサギマダラにはしばしば嘴で突かれたような破れがある。あるいは遠く漂白するアサギマダラとちがってオオゴマダラは年中いるから、熱帯の鳥たちは白黒模様は危険という記憶をすでに遺伝子レベルに刷り込んでしまっているだろうか。ふと、クモはもしこうした毒蝶が網にかかったらどうするだろうかと気になった。



幼虫は黒地に白い線、赤い斑紋で角を生やしたなかなかサイケデリックな姿かたちなのだが、探しても見つからなかった。蛹になると金色の金属光沢に変身する。これも食べるなという合図だそうだ。この施設では、あたかも装飾品売り場か何かのようにずらりと並べて展示してあってなかなかの壮観だ。アゲハなどとは違い、お尻の一点でぶら下がる蛹だから容易に動かせるのだろう。



空になった蛹のうえに一匹がいた。羽化してやっと羽の伸びきったところのようだ。同じ色合いだが、やはりとてもみずみずしく初々しい感じがする。さなぎの殻は残念ながら金色でなく白く濁ったものだった。



ところで足の数だがよく見ると4本しかない。昆虫はその定義の一つが6本足なのだからこれはおかしい。しかし実は身近なアゲハやモンシロチョウは6本足だが、蝶全体では4本足のものの方が多いくらいなのだ。歩くのでなくつかまるだけなのだから6本もいらないのだろう。実際には前脚が退化しているのだそうだ。拡大して見ると目の斜め下に、白いひげ状のものがある。別の角度から見たら根棒状で、たぶんこれが前脚の痕跡だろう。こんな接写は自然状態ではまずできないが、昆虫園だと野性味を失うのかいくらでも近寄らせてくれる。

さてこうした施設だが、全国どこへ行ってもオオゴマダラばかりだ。なぜかと思ったら実はとても飼いやすいのだそうだ。もともと森林性のため狭い場所でも平気で、熱帯産だから季節を問わず繁殖する、また成虫の寿命も長く半年近く生き続けるのだそうだ。さらに万一逃げ出したとしても本土では生き残れないから生態系を乱したりしない。それに国産では最大級の大きさだし優雅に舞って見栄えもする。しかし私にはちょっと食傷気味で、こんな時期でなければわざわざカメラを向ける気にもならなかっただろう。ここにはきっと蝶大好きの職員さんがいるはずだから、もっといろいろな蝶を舞わせるよう努力されることを期待したい。