天高群星近

☆天高く群星近し☆☆☆☆☆

城南宮の秋

2007年10月18日 | 日記・紀行

城南宮の秋

春にこの宮の梅を訪れてから、もう半年以上の時間が過ぎた。

午後の早くに訪れたせいか境内は比較的に閑散としていた。この十日ほど実に秋らしい美しい日が続いている。近頃は里山でも、相当に奥に入っても、野生する秋の七草の姿を眺めることはなかなかできない。しかし、少なくともこの城南宮では、源氏物語にゆかりのある植物が収集されて植えられているから、日本の秋を代表する花々をまとめて観賞するのには都合がいい。それを思い出してさわやかな風に誘われるように行く。

境内の向こうの空には美しい青空が広がっていた。カメラを取り出そうとすると、鳥居の奥のお守り売り場に冠をつけた若い巫女さんの座っているのが見えた。それで無断で写真を撮らせてもらう。私のカメラアングルに気づいた彼女は少し恥ずかしげに横を向く。一人は柱に姿を隠した。

拝殿のあたり一帯も閑散としていたので、普段ではゆっくりとは眺められない神社建築の細部の美しさも念入りに眺めた。そして、賽銭箱に小銭を投げ入れ、帽子を脱いで本殿の神々に敬意を表す。

守り札売り場の前をもどって横切るとき、さっきの金色の冠を被った平安衣装の若い巫女さんに、「写真を撮らしてもらった、ありがとう」と言うと、彼女はにこやかに微笑みを返してくれた。

この春に訪れたときのような華やかさは今の庭園にはない。あの時は梅や桃の花盛りにちょうど出会ったのだ。しかしまだ紅葉にも早い境内には彩りは少ない。ただ、紫苑の花の周りを黄色と白の蝶々が春でもないのに戯れていたぐらいだった。

参道を横切って離宮の庭の入口に近づくと、そこにも若い巫女さんが座っていた。その横手に冊子や短冊が並べられて売られている。その中に、源氏物語にゆかりのある草木を解説した小冊子があった。いつか源氏物語を読むにも何か参考になるかとも思い、一冊買っておくことにした。

この庭で見た今年の秋の花のいくつかを記録しておこうと思う。竜胆はただ一輪だけ、茎の先に小さなつぼみを付けていただけである。もう少し群生するように植えてあれば、地上の竜胆たちに秋空の青を集めたように眺められるのに。その近くに、あの偉大な作家の名をいただいた紫式部も小さな実をつけている。

藤袴もきれいに咲いていた。よい香りがするそうだけれども、においを嗅いでみるのを忘れていた。紫の桔梗も咲いている。

人影もほとんどない庭をゆっくりと歩く。この春と同じように、池には、茶亭の軒を水面に映したその影の下を緋鯉ものんびりと泳いでいる。

千年ばかり前に白河上皇の別荘として造営されたこの離宮の、往年の山紫水明の面影も、今は国道や高速道路に囲まれた小さなこの一角だけに、かろうじてわずかに留められているだけである。

再び参宮道にもどってこの神苑を出るとき、さきほど小冊子を買った巫女姿の娘さんの、居眠りをする後ろ姿が見えた。

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2007年10月04日 | 日記・紀行

久しぶりに散歩に出る。今年はいつまでも暑かった。いや、十月も半ばに入ろうとする今日ですらまだ暑い。それでも高い青空には秋の気配を感じさせる風が吹き、地上の稲田では稲穂はほとんど刈り取られてしまった。仲間に置き去りにされたように所々に曼珠沙華が寂しげに咲いている。

重々しく垂れていた稲穂たちが、お百姓さんたちに残酷にも刈り取られてしまったあとに、彼らに代わって畑に彩りを添えているのはコスモスである。彼女は秋桜とも書く。そんな日本名も悪くはないけれど、原語の意味を生かしたよいネーミングはないものだろうか。宇宙の秩序を連想させるような哲学的にしてなおチャーミングな名前でこの花を呼ぶことができれば、哲学愛好家としてはうれしいけれど、まあ、コスモスのままでもいいか。

去りゆく彼岸花は別名、曼珠沙華。この花がサンスクリット語では「天上の花」を意味するらしいことは昨年に初めて知ったばかりである。その妖しげな赤はいかにも毒にも薬にもなるこの花らしい。

この花が日本の歴史にはじめて登場するのはいつの頃だろう。西行などの歌集にはこの花は登場しないようであるから、当時にはインドからもまだ移植されてはいなかったようだ。しかし、仏教の方はとっくの昔にこの極東の日本にも伝来しているのに、どうして、仏教を代表するようなこの花が一緒に持ち込まれなかったのだろうか。西行たちが生きた平安や鎌倉の時代に彼岸花が咲いていれば彼らが詠み落とすはずはない。調べればわかるのだろうけれども、そこまで関心はない。また何かのついでに知るきっかけもあると思う。

         

それにしても本当に和歌に合い、日本の秋の風情をよく象徴するのは、やはり秋の七草である。萩、ススキ、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗などのような、淡泊な色彩の花々が日本の秋の夕暮れにはよく似合う。その一つにもこの秋は出会えるだろうか。初秋であればとにかく、晩秋にまで咲き残っているとすれば、彼岸花は少し毒々しすぎるようにも思う。

 

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