プロコフィエフの日本滞在日記

1918年、ロシアの若き天才作曲家が、大正期のニッポンで過ごした日々

プロコフィエフ短編集その後

2009-01-17 | プロコフィエフ短編
またまた年が明けてしまいました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、ようやく皆さまによいお知らせをお伝えできる運びとなりました。3年がかりで仕込んできたプロコフィエフ短編集の翻訳を、今年こそお披露目できそうです。詳細は未定ですが、決まりしだいこのブログで発表いたしますので、今しばらくお待ちくださいませ!

プロコフィエフ短編集

2008-08-24 | プロコフィエフ短編
かねてからご紹介しているプロコフィエフの短編集ですが、本国ロシアでもあまり出回っていないようで、昨年サンクト・ペテルブルグの大型書店を訪ねた時も見つからず、「ロシアのアマゾン」OZONで検索しても見当たりません。原書をお持ちのロシア人研究者は、モスクワの出版社を直接訪ねて入手したもようです。いったいどこで売られているのでしょう??

この本のデザインがなかなか素敵。黒表紙に白い帯。変形のコンパクトサイズで、本というより手帳のよう。装丁とイラストを担当したデザイナー、アレクサンドル・ヴァーシン氏のサイトで、表紙のほか本文中のイラスト何点かが見られます。こちらをクリック!

≪本書のデータ≫
ISBN5-85285-640-1
Сергей Сергеевич Прокофьев. Рассказы
セルゲイ・セルゲイヴィチ・プロコフィエフ『短編集』
テキスト編纂:アラ・ブレタニツカヤ
編集:A.L. ブレタニツカヤ
挿絵:A.A.ヴァーシン
レイアウト・製版:E.A.ヴァロノワ
校正:N.N.アレクセーンコワ

用紙70×100/32
発行部数10000部
出版番号10677
契約価格
Издательский Дом Композитор
出版社『カンパジートル(作曲家)』
103006 モスクワ、K-6、サドーヴァヤ・トリウムファルナヤ通り、14-12

『二人の侯爵』

2008-05-31 | プロコフィエフ短編
プロコフィエフの短編小説、ラストに残った『二人の侯爵』をほぼ訳し終えました。彼の小説には「二人の男シリーズ」ともいうべき類似した系統があり、これもそのひとつ。そして例によって不条理です。「善良な人」が一人も出てこない。終わり方も唐突であっさりしたものです。

ところでロシア人研究者の方にうかがった話では、プロコフィエフとショスタコーヴィチのダーチャは、お隣同士だったそうですね。ショスタコーヴィチの子供たちが庭で遊んでいると、「うるさい、あっちいけ!」とプロコフィエフおじさんによく怒られたのだとか。その言い回しにそっくりのセリフが、この小説のなかに出てきます。

『紫外線の勝手』

2007-11-23 | プロコフィエフ短編
プロコフィエフの短編小説『紫外線の勝手』(仮題)をざっと翻訳。これまた荒唐無稽なお話です。なにしろエジプトのピラミッドが、アメリカ(おそらくニューヨーク)の摩天楼のどまんなかに現れるのですから! 内容的には、パリのエッフェル塔がバビロンの塔に引き寄せられて突如歩き出す『彷徨える塔』に非常に近いものがあり、この当時、作曲家が古代文明に並々ならぬ関心を抱いていたことがうかがわれます。

この作品は、日本に向かうシベリア鉄道の車中で書き始められ、完成したのはニューヨーク。文中、主人公のアメリカ人に対する痛烈なまでの皮肉が随所に散りばめられ、プロコフィエフのアメリカ観も垣間見られる一作となっています。

さて残すところあと一作。そして来年はプロコフィエフ来日90周年です!

『毒キノコのお話』

2007-09-14 | プロコフィエフ短編
夏休みの宿題として、ただいま『毒キノコのお話』を翻訳中。プロコフィエフの短編のなかでは最も長いお話ですが、文体は平易で、子供向けに書かれたもののようです。

少女ターニャは、いたずら盛りの5歳。赤い毒キノコを拾って家族に怒られても、まだ懲りません。数日後、チョウチョを追って迷いこんだ森で、再び赤いキノコを見つけます。するとどうでしょう。そのキノコは言葉を話し始めました。その「ベニテングダケ17号」に導かれ、ターニャは地中深くにあるキノコ帝国へ……。

ロシアの民話のような展開ですが、大団円のハッピーエンドでは終わらないのです、これが。子供の夢を平気で打ち砕く!(笑)。この突き放し方は、ほかの短編にも共通するものですが、さすがにこの作品では、ちょっぴり慰めが用意されています。

さて、このお話は4場面からなり、ターニャをはじめその家族、キノコたちなど個性的なキャラクターが登場します。ひょっとしたら音楽劇を想定していたのかもしれませんね。

翻訳再開!?

2007-04-07 | プロコフィエフ短編
ごぶさたしてました!プロコフィエフの小説の翻訳再開です。当初は日本滞在中に書かれたものだけを訳していたのですが、こんな貴重なものは全部訳すべきでは!?との見解に達し、残りの7編も訳すことになりそうなのです。

といっても、うち何編かは超短編。あっというまに1編終了です。象さんが主人公の、子供向けのお話。でも簡単なものから始めると、あとに手ごわいものが残るということ。あとがコワイです。

今年中の発表を目指していますので、みなさま忘れないで待っていてくださいね!

『許しがたい情熱』翻訳終了

2006-11-17 | プロコフィエフ短編
プロコフィエフが日本で書いた短編小説4作目『許しがたい情熱』をようやく訳し終えました。しかし、いいところでブツッと切れており、これが未完の作とは惜しいかぎり! 

というのも、この小説は4作のうち最も“音楽的”な作品なのです。とある楽器の音を描写する場面があるのですが、まるで実際に音が聞こえてくるかのよう。おそらくプロコフィエフは、具体的な曲のイメージを抱いてこのくだりを書いたにちがいありません。

さてこれから翻訳のお清書と修正にかかります。希望的観測としては、来年には、なんらかの形でみなさんにご披露できればと思っています。今しばらくお待ちくださいませ!

ひき続き翻訳中

2006-07-13 | プロコフィエフ短編
過日の先生とはまた別の、ロシア史研究家のN・Y先生に翻訳の終わった短編小説を読んでいただいたところ、「大変興味深い文学作品。傑作です」とのお言葉。なんとしてでも、なんらかの形で皆さんに読んでいただけるよう、善処したいものです!

さて、『許しがたい情熱』は、どうやら日本滞在中に書いた4作のうちでは、最もプロコフィエフ的な作品といえそうです。ちょっとひねくれた人間観察や音楽的な言い回し……。ネタバレになるのであまり書けませんが、これが未完の作とは惜しい限りです。

『許しがたい情熱』

2006-06-06 | プロコフィエフ短編
ただ今、プロコフィエフの短編小説『許しがたい情熱』(仮題)を翻訳中。4章からなるこの小説の第1章は、とある「古い町」での、僧院長と市民との会話から構成されています。これがまた、やっぱり手ごわい……!

第一にプロコフィエフの小説では、固有名詞が極端に少なく、時代も場所も定かではないのがクセモノです。そして第二に、先の読めなさすぎる展開。それも、「なるほど、こうきたか!」というたぐいのスリリングな展開ではなく、「なんでそうくるの?」と意表をつかれてしばし唖然とする、いわゆる「ハズシわざ」。なので、文章の前後関係から内容を確信する、という通常の翻訳作業が通用しないのです。

あえて映画にたとえると、『ゼロ・シティ』や『ハルムスの幻想』にちょっと肌合いが似てるかな。いずれにしても、革命直後という時代背景からすると、「アヴァンギャルド」の流れのなかに位置している作品ともいえましょう。

未完の作

2006-05-21 | プロコフィエフ短編
『誤解さまざま』の翻訳が終わり、日本滞在中に書いた最後の一作『許しがたい情熱』をこれから訳し始めるところです。この小説は「彼は言った…………」で終わっており、生前ついに完成することのなかった未完の作。プロコフィエフがどんな結末を用意していたのか、興味深いところです。

ところで、ロシア文学ご専門のN先生に翻訳済みの『ひきがえる』『彷徨える塔』を読んでいただいたところ、翻訳には及第点をいただけたのですが、「話の意味がよくわからない。何が言いたいのか??」とのご反応だったそう。

そうなのです! ことに『ひきがえる』はシュールでわかりづらいお話。ほかの作品にしても、大団円では終わらず、登場人物の落ち着き先がわからずじまいで、読者は「ん?」と放り出されるような一種独特の余韻があるのです。おまけに今回は未完の作とあっては、ゴールが見えず、またまた翻訳に手こずりそうです!