銀座平野屋には普段お客様の目にはふれないけれど、素敵なものが数々ございます。
それは江戸からの粋を伝える物であったり、先人の技や美を伝えるものであったり様々です。
その中で銀座平野屋には、先人の技が光る逸品もございます。
『櫛 鼈甲台秋草色紙蒔絵』永守作 大正時代 縦4.5×横9.5cm
鼈甲で櫛を制作し(鼈甲台といいます)その上から漆を塗り、金蒔絵や螺鈿蒔絵を施したものです。
大きさとしてはやや小ぶりで地味な部類ですが、
黒色に赤い色紙の図柄と螺鈿や金で秋草を配した図柄は、飾り櫛として大正期にはポピュラーなものだったようです。
今見てもなかなか凝った作品です。
おそらく、日本髪が全盛だった頃、華やかな飾り櫛として女性の髪を装っていたのでしょう。
「永守」の銘が。銘の下に、鼈甲の斑(ふ)が入っているのがよくわかります。
『櫛 鼈甲台桜ニ楓』 縦4.5×横9.5cm
こちらも鼈甲で櫛を制作しその上から漆を塗り、金蒔絵や色蒔絵、螺鈿蒔絵を施したものです。
上部と右にある桜が螺鈿蒔絵です
こちらも上の秋草色紙蒔絵同様に、小ぶりな大きさです。
黒色の地色に、赤や緑、縁取りの金を用いたこの飾り櫛は、パっと目を引くので、現代にも使えそうなモダンな感じがします。
飾り櫛にまつわる、先代社長のインタビュー記事があります。
「いま、ごらんになると小さなものでしょう。だいたいが地味なものが多かったんですが、
それにしても地味なものばかり残っちゃったんですよ。総体に、地味なものが多かったんです。
そりゃ、なかには大きい派手なものも、勿論、ありましたけれど、今日までに一つ売れ二つ売れ、
こんな地味なものだけになってしまいました。
まぁ取柄と言ったら、このうちの鼈甲台ということだけですよ。昔はこんなものがあったという参考品ですね」
銀座平野屋の主人は、飾り櫛のいくつかを陳列台にならべながら、咄々と語ってくれた。
(『江戸っ子』1976年第10号・昭和51年7月発行)
これで地味なのですね・・・。
日本髪を結うことが少なくなった現代、このような飾り櫛を目にする機会はなかなかありません。
当時の飾り櫛に見られる華やかさは、当時の女性の美意識と、
それに応えようとする職人の技術と粋を垣間見るものかもしれませんね。
この櫛のシリーズ、まだ続きます。