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今まで、宇宙についての話題を中心に展開してきましたが、今後は科学全般及び精神世界や歴史についても書き込んでいきます。

「レベル2マルチバース」その2

2014年05月12日 | 宇宙

 さて、次はさまざまなレベル1マルチバースが集まった無限集合を下の図1に示す。個々のレベル1マルチバースを比較すると、時空の次元や物理定数の値が異なっている場合もある。

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図1:レベル2マルチバース
インフレーション理論からは、レベル1よりもやや精巧な別種の並行宇宙の存在が浮かび上がってくる。私たちのレベル1マルチバース(私たちの宇宙とそれに隣接する空間領域)は泡のようなもので、これがより大きな、ほとんど空っぽの空間に埋め込まれているという考え方である。空間の中には別の泡があり、私たちの泡とは切リ離されている。雲の中の水滴のようなイメージである。こうした核ができる際、それぞれの泡では量子場が異なるため、他の泡とは異なった特性が生まれる。

 また最近注日のインフレーション理論の改良版の一つで、もともと空間は真空のエネルギーの高い状態にあり、いたるところでこの真空のエネルギーがカオティックに転げ落ちることで多くの宇宙が作られるとした「カオス的永久インフレーション理論」は、こうしたマルチバースの存在を予言している。

 この理論は、落下の遅い場所の空間はインフレーションを続けてどんどん体積も増えるので、全空間の真空のエネルギーが落下して消えることはない。したがって、大きな空間スケールで見ればインフレーションは永遠に続き、そこから常に新たな宇宙が作られ続けるとする理論である。これらマルチバースの集合体が「レベル2マルチバース」を形作ることになる。

 インフレーション理論はビッグバン理論を拡張したもので、宇宙がなぜこんなにも大きく、均一で平坦なのかなど、ビッグバン理論では未解決だった問題に決着をつける考え方である。宇宙誕生の際に空間が急激に広がったとすると、こうした問題に一挙に説明がつく。空間の急拡大は素粒子の理論などから予言され、これを支持する証拠も得られている。

 「カオス的永久」という形容は、非常に大きなスケールで生じる出来事を指している。空間は全体として永久に膨張を続けるが、その中のいくつかの領域は拡大をやめ、個別に「泡」のような構造を作る。発酵して膨らんだパン生地の中に気泡ができるのに似ている(図2参照)。こうして無数の泡ができ、それぞれがレベル1マルチバースの“タネ”になる。泡の大きさは無限で、物質によって満たされている。物質はインフレーションの原動力となったエネルギー場によって生じたものである。

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図2:泡の生成
ある種の量子(インフラトン)の場が空間の急激な膨張を引き起こす。空間の中では、ランダムなゆらぎが存在し、この量子場はなかなか消えずに残る。しかし、ある領域では量子場が弱まり、膨張が緩やかになる。こうした領域が泡になる。

 これらの泡は、地球から光の速度で旅しても永久にたどり着けないという意味で、“無限の彼方”にある。泡と泡の間の空間が急速に広がり、私たちがいかに速く旅しようとも追いつかないからだ。私たちの子孫も、他のレベル2マルチバースに住む「もう1人の自分」を見ることはできない。また同様の理由で、レベル1マルチバースでも膨張が加速しているなら、「もう1人の自分」を見ることはやはり不可能になるだろう(最近の観測結果は宇宙膨張の加速を裏付けている)。

 レベル2マルチバースはレベル1よりもずっと多様だ。それぞれの泡は初期条件が異なるだけでなく、常識的には不変に思える自然の本質までもが異なっている。

 現代の物理学では、時空の次元や基本粒子の性質、数々の物理定数などが物理法則に組み込まれているのではなく、「対称性の破れ」と呼ばれる過程の結果として生じたと考えるのが一般的である。例えば私たちの宇宙にはかつて9つの空間次元があり、それらは対等の関係にあったと考えられている。宇宙のごく初期に、うち3つの次元が宇宙とともに膨張し、いま私たちが見ているような3次元空間になった。残り6つの次元は現在では観測できない。これらがドーナツ形の位相構造として極微の世界にとどまっているか、9次元空間中の3次元の膜(ブレーン)にすべての物質が閉じ込められてしまったかのどちらかだ。

 このように、複数な次元の間に存在していた本来の対称性が破れた。カオス的インフレーションを引き起こした量子ゆらぎが原因で対称性が破れたのだが、このゆらぎが泡によって異なったとすれば、対称性の破れ方も異なった可能性がある。ある泡では空間が4次元となり、別の泡は3世代ではなく2世代のクォークしか含まず、またあるものは私たちの宇宙よりも大きな宇宙定数を持っているのかもしれない。

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図3:レベル2マルチバースが存在する証拠?
宇宙論研究者たちは私たちの宇宙の特性を精査した結果、レベル2マルチバースが存在すると推論している。根拠となる特性とは、自然界に働く力の強さ(上の左図)や観測される時空次元(上の右図)などである。これらは私たちの宇宙が誕生したときにランダムな過程によって確立したが、結果的には私たち生命が存在しうる値になっている。これはとリもなおさず私たちの宇宙とは異なる値をもつ別の宇宙の存在を示唆している。

 レベル2マルチバースの誕生をめぐっては、もう1つ別のシナリオも考えられる。個々の宇宙が生まれ、そして滅びていく循環過程によるという考え方である。スタインハートとテュロックが提唱するモデルによると、私たちの宇宙と文字通り平行な3次元のブレーンがもう1つあり、より高次元の世界の中でこれらが隔てられているにすぎないというものである。

 この並行宇宙は私たちの宇宙と相互作用しているので、実は別物とはいえない。しかし、これらブレーン宇宙の集合は1つのマルチバースといえ、おそらくカオス的インフレーションからできる宇宙と同様な多様性を備えているだろう。一方、ペリメター理論物理学研究所のスモーリン はこうしたブレーンではなく、ブラックホールを通じて新たな宇宙が発生し、やはり多様な特質を備えたレベル2マルチバースができるという考え方を提唱している。

 マルチバースの考え方が信頼を得るにつれて、物理現象の確率をどう計算するかという厄介な問題が無視できなくなってきた。この問題はレベル1マルチバースではまだ何とかしようがあるが、レベル2ではかなり深刻になり、レベル3、レベル4となると手がつけられなくなる。

 多数の観測者が互いに連結していない宇宙に分かれている場合、観測者たちに順番をつける自明な方法はない。ある統計的な重みづけ(数学では「測度」と呼ぶ)によって、 多数の宇宙から抽出するしかない。

 例えばタフツ大学のビレンキンらはレベル2マルチバースについてさまざまな宇宙論的パラメーターの確率分布を予測した。多数の宇宙が異なる膨張をし、その体積に比例して可能性が増えると考え、体積の大きな宇宙には統計的に大きな重みを与えた。しかし、無限に大きい宇宙が他よリ2倍の膨張をしたとしても、2 ×∞=∞だから、どちらが大きいかに客観的な意味はない。

 さらに、トーラス型の宇宙は体積は有限でも果てはないから、外の視点から見ても内から見ても、無限の体積を持つ周期的な宇宙と同じである。となると、小さな体積の宇宙に対する統計的重みを減らして本当にいいのだろうか? また、レベル2ではなくレベル1マルチバースを考えても、10の10^118乗メートルを超えるとハッブル体積の繰り返しが始まる(周期的ではなく、ランダムにではあるが)。

 私たちの宇宙は比較的単純で基本的な数理構造だと考えられるのだから、基本的な対称性の高い宇宙には大きな重みを付けるべきではないのか? さもないと私たちは偶然にも特別な宇宙に住んでいることになってしまう。測度を正しく把握するのはそう単純ではなさそうである。

 今の物理学者にできることは、選択効果を考慮に入れながら、何が観測されうるかの確率分布を計算することだけである。その計算結果は、私たちの存在と矛盾するような突飛なものではなく、ありふれたものであるはず?


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