つひに５０歳の誕生日

つひに５０歳の誕生日を迎へた。

信長の愛した「敦盛」を知つたのは、小學生の頃、たぶん１１歳のことだつたと思ふ。
「人間五十年、化天のうちを較ぶれば、夢幻の如くなり。ひとたび生を得て滅せぬもののあるべきや」
「化天」の部分は「下天」といふこともあるが、この際それはどうでもよい。
小學生ながら、人生は五十年と決まつてゐるかのやうなものいひに違和感を覺えた。
しかし、當の信長が４９歳で亡くなり、上杉謙信も４９歳で亡くなつてゐることを知つた時、人間五十年といふのもあながちレトリックといふだけではないのかも知れないと思つたものだ。

１０歳。
家に友達を招いて、誕生日のお祝會をした。
父が私の手のひらに墨を塗つて、手形を取つたのを覺えてゐる。
いまはもう無くしてしまつたが、小さな手であつた。

２０歳。
大學に入學して初めて迎へた誕生日。
この年は、失戀だとか、父の死だとか、なんだかいろんなことがあつた。
ただ、前年に「二十歳の原點」や「二十歳のエチュード」などを讀んで感銘を受けてゐたので、「二十歳」に憧れを抱いてゐた。
自分も早く精神的に大人にならなくてはならない、さう自分に言ひ聞かせつつ、焦躁感にかられてゐた。

３０歳。
１０代の頃から、無意識のうちに「夭折」に憧れてゐた私。
３０歳になつた時に思つたのは、もはや「夭折」といふ言葉は似合はなくなつてしまつたといふこと。
私の中のヒーローのうちでは、唯一、中原中也がぎりぎり３０歳。
もう、格好良く死ぬことは出來ないと思つた。
自分のなかでは、３０歳になつてしまつたといふことが、なによりショックだつた。

４０歳。
時あたかも２０世紀最後の年。
３０歳の壁を越えて、さらに生き延びた私にとつて、４０歳はさしたることもなかつた。
ただ、ちやうど轉職を考へ實行した年でもあり、新しい會社で新しい役割を果すことに樂しみを見出さうと決意した年であつた。
三島由紀夫が４５歳で自決したことを我が身に擬へ、あと５年のうちに悔いのない人生の足掛りを作りたいと思つた。


以上、簡單にこれまでの節目を振り返つてみた。
もちろん、その時の自分が感じたままを書けるわけもなく、いまの私が當時の自分の感性を想像して書いてゐるに過ぎない。
現在の自分は、過去の自分を理解できるわけではない。
おそらく、無意識のうちに、過去の自分を美化したり貶しめたりしてゐることだらう。

さて、では、いまはどうか。

５０歳。
失業中。
いまや、何をしなくてはならないとか、何をしておきたいとか、そんなことすら思はなくなつた。
花は紅、柳は緑、天地自然のあるがまま、でよい。
自分は、どう足掻いたところで、自分以外の何者にもなれぬ。
だとするならば、格好つけたり、僞惡的に振る舞つてみても意味はない。
そんなことより、いまの自分を認めた上で、自分とうまく付き合ふはうがよほど現實的ではあるまいか。
とは云ひながら、そろそろ再就職しないと貯へがつきてしまふ。
なんとかせなアカンな、と思ふ５０歳なのであつた。




＜誕生日のエントリー＞

２００４年 はゾロ目の年。

２００５年 は三島の亡くなつた年齡。

２００６年 は三島の經驗出來なかつた年齡になつたことへの雜感。

２００７年 は「うつ」で會社を休んでゐた時期。

２００８年 は「うつ」明けで會社に出てゐた時期。

２００９年 はリストラ直前の時期。

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