仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

【ことば】 盥廻し(たらいまわし)

2009-03-28 00:00:16 | ことば
たらひまはし、といふとお役所仕事を思ひ出す。
「あ、それはあそこの窓口で云つて下さい」と云はれて、その窓口で用件を云ふと、その窓口では「いや、それはこちらではないので、あちらの窓口で聞いてみてください」とか。
さんざん、窓口めぐりとした揚げ句に最初の窓口へ。
ああ、フリダシに戻つてしまつた・・・なんて。

幸ひにして、私はかやうなことを經驗したことはない。
フリダシに戻る前にブチ切れて、窓口の職員に喧嘩を賣るからである。

それはさてをき、この言葉の語源は、といふと。

時は文久の頃、新撰組が京都に來たのが文久3年だから、幕末も幕末。
世の中、きな臭い空氣が流れてゐた時代のこと。
江戸は四谷に「盥屋久兵衞」といふ「たらひ屋」があつた。
このたらひ屋、先代まではいい仕事をしてゐたたらひ屋で、そのお蔭で手廣く商賣をしてゐた。

江戸は火事が多いので、火事になるとたらいは燃えてしまふ。
火事がおさまつたら、すすだらけになつた者はどうするか。
行水をする。
行水に必要なのは、さう、たらひなのであつた。
文久年間には江戸で火事が續いたため、「盥屋久兵衞」ではさらに商賣の手を擴げた。

ところが、手を擴げ過ぎた所爲で、受注に生産力が追付かなくなつたのである。
そこで久兵衞、どうしたかといふと、たらひ作りを下請けに出した。
それも、たらひ作りなどこれまでにしたことのない者、わんさとゐる浪人などに仕事を廻したから、たいへんだ。
粗惡なたらひが出囘り、「盥屋久兵衞」のもとにはクレームの嵐。
「こんな水漏れのするやうなたらいを、よくも賣り付けやがつたな、この野郎!」
盥屋の久兵衞、これに對して、
「いえいえ、この盥はわたしどもの仕事ではございません。私どものたらひでしたら、底のここんとこに久の字が入つてゐるのですが、このたらひにはそれがございません」
「たしかに賣つたのは手前どもですが、作つたのは何某でございますので、そちらへ文句を仰つてくださいまし」
かくて粗惡品の責任はそれを作つた下請の浪人へ。
浪人とはいへ武士は武士。
「なに、盥が水漏れすると。それがどうした。わしはこの盥を久兵衞に賣つたのだ。文句があれば久兵衞に云へ!」

このやうな出來事が相次ぎ、たうとう久兵衞は破産。
久兵衞、その後はどうなつたかといふと、足で盥を廻す見せ物で一世を風靡したとか。

これぞ、「盥廻し(たらひまはし)」の語原なのであつた、といふのは嘘である。

ほんたうの語源はこちら。

「盥廻し(たらいまわし)」 ~ 語源由來辭典




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