仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「語り女たち」 北村薫

2007-06-13 17:41:55 | 讀書録(一般)
「語り女たち」 北村薫
お薦め度:☆☆☆+α /
2007年6月12日讀了


17の掌篇で構成されてゐる。
「彼」がさまざまな女たちから物語を聞くといふ結構。

17もの世界を次々に讀んでいくのは、しんどい。
それぞれの物語の喚起するイメージがそれぞれの世界を形作り、讀者はその世界に放り出されて、その世界をさすらふのだ。
短いものでは、わづかに數ページ。
それなのに、イメージは讀む者のこころの中で廣がつてゆく。

新潮文庫の帶に作者の言葉が書かれてゐた。
「体験したり、人づてに聞いたりした、比較的単純なことを、飾り気なく話していくのが物語の原点でしょう。『語り女たち』は、物語の懐かしい故郷に帰り、その山裾や川べりや辻を歩くつもりで書きました。(後略)」
作者の言葉として素直に聞いておくべきか、私にはよくわからない。
といふのも、この言葉を讀むと、いかにも素朴な物語が書かれてゐるやうに思へるのだが、實際にはそんなことはない。
もちろん、數ページから精々10數ページの物語たちなので、複雜な話はない。
しかし、そこで描き出される世界は決して「素朴」なものではない。
そして、恐ろしいことに、讀者によつて、その紡ぎ出されるイメージはかなり異なるのではないだらうか。

17の掌篇。
讀む者にとつて、これはひとつのチャレンジだ。
あなたは、これらの物語を讀んで、どのやうな世界に身を浸したのであらうか。
人それぞれにその人の人生があるやうに、人それぞれに喚起するイメージは違つてゐるのではないだらうか。

私の好きなもの。
順番はつけにくいが、最後の「梅の木」、これはどうしても外せない。
そして「夏の日々」、これも外せない。
あとは、ほぼ横一線で、「眠れる森」、「Ambarvalia あむばるわりあ」、「笑顏」。
ベスト5を選べと云はれたとしたら、私はかなり迷つた末にこれらを選ぶだらう。
しかし、次に讀んだ時には別の作品をベスト5に選ぶだらうことも、ありうる。

私個人にとつては、この本は恐ろしい本だ。
この本は讀者を選ぶかもしれない。
さういふ恐れから、敢て「お薦め度」は星3つプラスアルファとしておいた。
決して萬人向けの作品ではないが、素晴らしい(恐ろしい)作品であることは確かである。
ちなみに、私はこの本を讀むのに8日かかつてしまつた。



語り女たち

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2 コメント

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こんにちは (ボー・BJ・ジングルズ)
2007-07-15 16:23:47
さきほどはコメントありがとうございました。
この作品は、1編ずつ時間をかけて読むほうがいいのかもしれません。
その話ごとに味わう時間がゆっくり取れて。
私は一度に数編読んでいたので、次回目を通すことがあれば、もっとゆっくり味わってみようと思います。
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ボー・BJ・ジングルズさん (仙丈)
2007-07-15 22:31:49
さうですね。
一氣に讀むにはもつたいないかもしれません。
それぞれの作品のイメージが膨らみますので・・・
私の場合は、事情があつて、一氣に讀める状態ではなかつたのが幸ひしました。

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