【昔の手帳から】 ５月２９日

【１９８０年】（１囘生）

公園で野球。 調子良好
夜、モギとスギモトが來る
エノサワとイチハラより手紙


木曜日。

５月２５日に失戀 して以來、殆ど部屋に閉ぢこもつてゐた。
アパートの住人で仲のよかつたヤマムラが、これはどうも樣子がをかしいと思つて、それとなく私の樣子を伺つてゐたらしい。
失戀の翌日に睡眠藥を買つて歸つて來た時に、さりげなく訊かれた。
「買ひ物？何買つて來たの？」
「あ、いや、眠れないんで睡眠藥を、ね」
私の部屋の廊下を挾んで向ひの部屋に、イトウさんといふ産大の６囘生が住んでゐた。
彼は私がこのアパートに來た時に荷物運びを手傳つてくれたほど、面倒見の良い人だつた。
この前日の２８日の夜、彼が私の部屋にやつて來た。
「ヤマムラが云ふとつたけど、自分、睡眠藥持つてるんやて？ボクもここんとこ眠られへんのやけど、それ貸してくれへん？」
さう云つて、なかば強引に睡眠藥を持つて行つてしまつた。
それ以來、私の睡眠藥は私の元に戻つては來なかつた。

この日、イトウさんが部屋に來た。
「眠れへん時はからだを動かすのが一番ええんやて。公園でキャッチボールでもせえへんか？」
２２日 以來、１週間ぶりにからだを動かした。
心とからだは、あたりまへだが連動してゐるらしい。
からだを動かしてゐるうちに、氣分が良くなつてきた。

前日の夜、モギに電話をして、ふられたことと睡眠藥を買つたことを話した。
誰かに助けを求めてゐたのだらう。
すると、この日の夜、モギがスギモトと一緒に部屋に現れた。
この２人は高校３年の同級生で、大學に入つてから、さらに親しくなつてゐた。
どうやらモギがスギモトに話をして、樣子を見に來たらしい。
スギモトが云つた。
「Ｈちやんにふられたんやて？まあええやん、世の中の半分は女なんやから、またええコが現れるて」
スギモトは ４月２０日 にダブルデートもどきで一緒に遊んだので、私の友人のなかではＨのことを知つてゐる唯一の男。
さらに續けて云つた。
「睡眠藥持つてゐるらしいな。もしそれで死ぬつもりやつたら、いまここで飮んでみ？苦しむ姿を看取つてやるで」
ありがとな、嬉しいわ。

エノサワは高校１年、３年と同級生。
イチハラは高校山岳部の同期。
タイミングよく手紙が來たのは、もしかすると私が苦境を綴る手紙を出したのかもしれない。

いまから思ふと、ヤマムラ、イトウさん、モギ、スギモト、エノサワ、イチハラ、みんなのお蔭で乘り切れたのだと思ふ。




【１９８１年】（２囘生）

Ｅ多田、Ｅ鴫原（answer）、體育
齋藤榮「イエス・キリストの謎」


金曜日。

１コマ目から３コマ目まですべて出席！
しかも、２コマ目の鴫原さんでは發表までしてゐる。ブラヴォー！

この年、齋藤榮はよく讀んだ。
ミステリーは３時間もあれば讀めたので、ちよつとしたヒマ潰しに良かつた。
老眼になると、なかなかさうもいかないのが悲しいけれど。

	イエス・キリストの謎 (徳間文庫)
	斎藤 栄
	徳間書店

【１９８２年】（３囘生）

交通費 ￥190＋￥190＝￥380


土曜日。

おそらく塾の交通費だと思はれる。
が、この年は土曜日は受け持つてゐなかつた筈なのだが・・・




【１９８３年】（４囘生）

中村紘子 ピアノリサイタル （Sym H）
ショパン ソナタNo.３
ベートーヴェン ソナタNo.17


日曜日。

中村紘子 といふと、當時はまだ３０代後半で、ブイブイいはせてゐた頃だ。
そのイメージが鮮烈なので、彼女がいまや６６歳にもなつているといふのが信じられない。
じつは彼女の演奏はこれまで實演はもちろんレコードやＣＤでも聽いたことがない。
この日のリサイタルに行つてたら、全盛期の中村紘子を記憶に留めておけたかもしれない。
さう思ふと行かなかつたのが殘念だ。