仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「Q&A」 恩田陸

2007-05-15 11:25:17 | 讀書録(ミステリ)
「Q&A」 恩田陸
お薦め度:☆☆☆+α /
2007年5月7日讀了


住宅街の一畫にある大型商業施設で何かが起つた。
その結果、69名が死亡し、116名が負傷した。

當初の情報では、火災が發生したといふ聯絡を受けて消防隊が出動したのだが、火の手は上がつてゐない。
商業施設の外に辛うじて避難できた客たちも何が起つたのか判らないまま。

いつたい、この商業施設で何が起つたのか?
Q&A形式のみで、物語を構築しやうとする、著者の革新的な「實驗小説」。

思ひ出すのは、芥川龍之介の「薮の中」。
あの作品には質問者は登場しないが、この作品で登場する質問者は明確な個性を持たず、語らせるために存在してゐると考へれば、「薮の中」と同じ手法だとも云へるだらう。

芥川が「薮の中」で描いたのは、ひとつの事實でも視點が異なれば違つたものに見えるといふことを通じて、絶對的な「眞實」といふものが果たして存在するのかといふ根源的な疑問であつた。
しかし、恩田陸の描かうとしたところは少し違つてゐるやうだ。
芥川の提起した疑問を突拔けて、體驗したといふことが情報になりうるのか、そもそも情報とは何か、といふ新たな根源的疑問を私たちに突付けてゐるやうに思へるのだ。

從つて、ことの必然として、「眞實」はわからない。
そのことに欲求不滿を持つ讀者もゐるだらう。
かくいふ、私もその一人だ。
でも、この小説はさういふものでしかありえないのだ、きつと。



Q&A

幻冬舎

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<參考>
地獄変・邪宗門・好色・薮の中 他七篇

岩波書店

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