仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「憑神」 浅田次郎

2007-05-15 10:53:43 | 讀書録(一般)
「憑神」 浅田次郎
お薦め度:☆☆☆☆ /
2007年5月4日讀了


主人公の別所彦四郎は、御徒士組に屬する別所家の次男坊。
文武に秀でたところを見込まれて、小十人組組頭の井上家に壻入りした。
ところが、子供が出來ると用濟とばかりに、難癖をつけられて離縁されてしまふ。
つまり、「種馬」として使はれたわけだ。

別所家は兄の左兵衞が繼いでゐるので、彦四郎は出戻りの部屋住み、つまりは無駄飯食らひといふことになる。
如何に才能や實力があらうとも、次男は他家の養子になるしか道がないのが江戸時代。
それなのに、壻入り先から離縁されたとあつては、もはや出世の望みは斷たれたも同然。

鬱勃たる心境で、出世拂ひでほんの少しばかりの酒を飮むのが日課となつてゐる彦四郎。
或る晩、醉つ拂つた揚げ句に足を滑らせ、土手から轉げ落ちた彦四郎の前に小さな祠があつた。
醉ひも手傳つて、その祠で出世の神頼みをした彦四郎であつたが・・・
なんと、その神とは貧乏神だつたのだ。

貧乏神、疫病神と來て、最後は死神。
彦四郎は、はたして武士としての本懷を遂げることが出來るのか。
ユーモア溢れるタッチで描かれた、かなり眞面目なお話である。

武士としては使ひ物にならないが、修驗者としてはたいしたものといふ村田小文吾。
出世拂ひで蕎麥と酒を出してくれる蕎麥屋の親爺。
彦四郎と小文吾が不氣味な話をしてゐても、一向に動じる氣配のない、茶店の亭主。
魅力的な人物が登場して、物語を彩つてゐる。

勝海舟や榎本武揚なども登場し、幕末の變革期におのれの武士道を貫き通さうとする彦四郎。
損得勘定を考へず、なすべきことをなさうとする姿勢は、あの新撰組に通じるのではなからうか。

淺田次郎の幕末に對する思ひ入れが熱く傳はつてくる作品である。



憑神

新潮社

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