仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

【昔の手帳から】 2月24日 (80年:「二十歳の原点」讀了)

2012-02-24 00:01:00 | 昔の手帳から
【1980年】(浪人)

高野悦子 「二十歳の原點」 讀了
感激! 眞摯な、ひたむきな人生。

日曜日。

この年、私は小學校の同級生で私の初戀(片思ひ)の相手であるHと手紙のやりとりをしてゐた。
Hからの手紙に、この 「二十歳の原點」 を讀んだといふことが書かれてゐた。
好きな人が讀んだ本を私も讀んでみたいと思ひ、數日かけて少しづつ讀み進めてゐた。
前年の秋頃に讀んだと思つてゐたのだが、まさかこんな受驗シーズンまつ只なかだつたとは。
前日に早稻田(法)の入試があり、翌日には早稻田(一文)の入試がある。
もはや開き直りの境地だつたのだらう。
中學生の昔から、試驗期間になると本を讀みたくなつたものだが、現實逃避だつたのかも。

これは、1969年當時、立命館大學の學生だつた 高野悦子 の日記。
彼女は學生運動の挫折や失戀などを經驗して、この年の6月に自らの命を斷つてしまふのだが、二十歳を迎へたその日から自殺する前日までの半年ほどのことが記されてゐる。
當時盛んだつた學生運動への共感や疑問、周圍からの疎外感、アルバイト先の男との性交渉と失戀など、彼女が經驗したさまざまな出來事とそれに關する彼女の思ひが眞摯に綴られてゐた。
私はこれを讀んで、彼女のひたむきな人生に感動した。
彼女が自殺した20歳まであと半年しかないのに、自分はまだ大學にすら入れないでゐる。
そんな自分に情けなくなるとともに、何が何でも大學に入りたいと今更ながら思つたのだつた。
それも、出來ることなら、彼女が過した京都で學生生活を送りたかつた。

この日記には、高野悦子のお氣に入りだつたジャズ喫茶・ 「しあんくれーる」 が登場する。
彼女が折にふれて入り浸つてゐた店だ。
もし京都の大學に入學出來たら、すぐにでも行つてみたいと思つた。
そして、それが實現したのが、 ひと月半後の4月8日 であつた。

以下は、1969年6月23日午前2時30分以降に書かれた彼女の絶筆。
彼女は山が好きで、ワンダーフォーゲル部にも所屬してゐた。
これを書き殘した約24時間後の6月24日午前2時36分、彼女は山陰線上り貨物列車に飛び込んだ。

・・・・引用開始・・・・

旅に出よう
テントとシュラフの入ったザックをしょい
ポケットには一箱の煙草と笛をもち
旅に出よう

出発の日は雨が良い
霧のようにやわらかい春の雨の日がよい
萌え出でた若芽がしっとりとぬれながら

そして富士の山にあるという
原始林の中にゆこう
ゆっくりとあせることなく

大きな杉の古木にきたら
一層暗いその根本に腰をおろして休もう
そして独占の機械工場で作られた一箱の煙草を取り出して
暗い古樹の下で一本の煙草を喫おう

近代社会の臭いのする その煙を
古木よ おまえは何と感じるか

原始林の中にあるという湖をさがそう
そしてその岸辺にたたずんで
一本の煙草を喫おう
煙をすべて吐き出して
ザックのかたわらで静かに休もう

原始林の暗やみが包みこむ頃になったら
湖に小船をうかべよう

衣服を脱ぎすて
すべらかな肌をやみにつつみ
左手に笛をもって
湖の水面を暗やみの中に漂いながら
笛をふこう

小船の幽かなるうつろいのさざめきの中
中天より涼風を肌に流させながら
静かに眠ろう

そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう


・・・・引用終り・・・・


二十歳の原点 (新潮文庫)
高野 悦子
新潮社

ちなみに、今囘、これを書くに際して初めて知つたのだが、「二十歳の原點」はハタチではなくニジュッサイと讀むのだとか。
迂闊なことに30年以上もハタチだと思ひ込んでゐた。




【1981年】(1囘生)

10:30 モギの下宿
奈良・富雄
24:00過ぎ、歸宿。 途中、雪。

火曜日。

モギは高校の同級生で、同じ大學の學生。
彼の下宿に單車で迎へに行つたらしい。
この年の4月から、私とモギとカワムラの3人で枚方に新しく開かれる塾を運營していくことになつてゐたが、奈良・富雄はその本部。
たぶん、この日はその打ち合せとともに、本部の塾のお手傳ひをしたのだらう。

アパートに歸つたのが0時過ぎだといふことは、きつとモギの下宿で話し込んでゐたものと思はれる。
市街から岩倉まで單車で歸る途中、雪が降り始めたやうだ。
單車で走つてゐる時の雪は怖いものだが、私が住んでゐた岩倉といふところは市街が雨でも雪だつたりするので、タチが惡い。
「狐坂」 を越えると雪だとか、 「花園橋」 を渡ると雪だとかよく云はれたものだ。
そして、それは往々にして正しいので、返す言葉もない。
「地の果て・岩倉」などと云はれる所以である。






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