岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

小説、各記事にしても、生涯懸けても読み切れないくらいの量があるように作っていきます

11 新宿フォルテッシモ

2019年07月19日 12時20分00秒 | 新宿フォルテッシモ

 

 

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 寝不足状態のまま新宿へと向かう。
 気が重かった。浅田さんとの抜きの一件。そして従業員たちに、『ワールド』があと三ヶ月で潰れるという事を内緒にしなければならない。
 秘密を抱えるという事が、こんなに辛い事だとは思わなかった。
 先々の不安。金を得る事で少しは解消できるような気がした。だが、それと引き換えに俺は従業員を裏切る形になる。
 店に到着すると、他の従業員たちはいつもと同じように笑顔で挨拶をしてきた。
「神威さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「今日も客、入ってますね」
「そうだな」
「さて、今日も張り切りますか!」
 仕事にだいぶ慣れてきた湯上谷が両手を振り上げ、やる気満々な様子をアピールしていた。
 浅田さんとの件、島根だけには伝えておくか……。
 いや、そうなると今度は浅田さんを裏切る形になる。
 とにかく今は仕事に集中しよう。忙しさは気を紛らせてくれるはず。
 いつもよりINを入れに動く。ボーっとしていたくなかったのだ。すると従業員たちに「神威さんは奥でデーンと構えていて下さいよ。INとかは俺たちの仕事ですから」と頼もしい事を言ってくれる。複雑な心境だった。もうじきこの空間がなくなってしまう。
 みんなの食事休憩をひと通り回し、夜中の三時を過ぎる。店内は変わらず忙しかった。

 浅田さんは『一気ビンゴ』を誤魔化すと言っていたが、大丈夫なのか。店では『一気』が出ると、プリンターでプリントを取る決まりになっていた。だいたい『一気』のプリントは遅番だけで毎日百枚数十枚以上取る。多い時で『一気ビンゴ』は七回から八回ぐらい。少ない時で四、五回出た。俺はプリントされた『一気』をチェックしてみる。
 そう、確かに浅田さんの言う通り、ビンゴが一、二回増えたところで分からない……。
 その時店の電話が鳴った。浅田さんからだった。
「あ、神威君?」
「お疲れさまです。神威です」
「今、店はどう?」
「おかげさまで忙しいです」
「今『一気ビンゴ』は何個ぐらい出ている?」
「『一気』が現在八十三回。『一気ビンゴ』がその内四回ぐらいです」
「じゃあさ締める時、『一気ビンゴ』を五万で二個追加しといて。あとで五万円ずつ折半するから」
「分かりました……」
 こうして俺と浅田さんの抜きが始まった。

 何故か今日の俺は妙にイライラしていた。いつもより何倍も金をもらっているというのに……。
 今日も店は満席である。体調不良で湯上谷が急遽休み、本日の遅番は俺と大山と、まだ入って一週間の新人の持田の三名だけになった。この状態を三人で回すのは辛いかもしれないな。
 他の系列店へヘルプを頼むが、今日に限ってどこも忙しいらしく人を回せないと言われる。夜中の二時を過ぎたというのに、飯休憩すら回せない状況だった。
 持田は必死な形相でホール内を駆けずり回り、汗だくになっている。そろそろ休ませないと限界かもしれない。俺は持田を呼び寄せると千円札を渡し、「食事休憩に入って」と行かす事に決めた。
「でも、神威さんと大山さんの二人だけになってしまいますよ?」
「大丈夫だよ。俺たちだけで」
「分かりました。すぐ食べて、すぐ戻ってきます」
「いいよ、そんな気を使わなくても。気持ちだけで充分だ。ありがとう。ちゃんと通常通り四十分休んでくれ」
 俺と大山の二人で全十四卓に座る客のINとOUTをし、オマケにリストで各台の点数チェックまでしなければならない。悲鳴を上げるほど忙しかった。
 新人の持田が早めに食事を済ませ、ホールに出てくる。
「ちょっと時間、早くないか?」
「もう大丈夫です!」
「馬鹿野郎、変な気を使いやがって」
 口ではそう言っても新人の気持が嬉しかった。次は大山を休憩に回すか……。
「おい、大山。食事休憩入ってくれ。四十分、ちゃんと入っていいからな」
「あ、神威さん。今日、倉下さんと食事休憩の時、一緒に食べる約束をしているんですが、外へ食べに行ってもいいですか?」
「何でもいいから早く行って来いよ」
「すみません。分かりました」
 持田にはドリンクと灰皿交換を任せ、その間俺一人でINを受け持つ。ホール内を駆け足で走り回らないとさばききれない。一人で三人分の動きをしなければ、客の対応が間に合わなくなるぐらい忙しい。本当に他の店はヘルプを回せないぐらい忙しいのか? そんな猜疑心が芽生えてしまうぐらい、心に余裕がなかった。
 こういう時、時間が経つのだけは早く感じる。ひっきりなしに続くINとOUT。
「はい、四卓のお客さま、画面そのままで少々お待ち下さい。そのままで少々お待ち下さいっ!」
『一気』や『フォーカード』が出ればリストへダッシュし、プリントを取る。うっかり客がビンゴの『フォーカード』をダブルアップしてしまい、役の揃っているプリントが取れない場合、プレミアは無効になってしまう。俺も全身汗だくだった。
 大山はまだか? チラリと時計を見る。四時を回っていた……。
 確か、食事休憩に入れたのが二時半だったから、あの野郎、こんな時に一時間半も休憩している事になる。新人まで気を使って三十分で戻ってきているのに、一体何を考えてやがるんだ。
 俺は大山の行動に対し、苛立ちを感じた。
 ようやく大山が戻ってくる。俺は顔を見るなり怒鳴りつけた。
「おい、大山! オメーはこんな時に一時間半も飯行って、何を考えてんだよ?」
「す、すみません……」
「謝れなんて言ってねえだろうが、おいっ!」
「く、倉下さんとつい会話に夢中になってしまいまして……」
「状況を考えろよ、馬鹿野郎!」
 俺はイライラして大山の頭を引っ叩く。すると大山は不機嫌そうな表情になった。
「おい、おまえ、何だよ、その顔は?」
「分かりました…。自分、責任取って辞めますよ」
「あ? テメーこんな時に何を抜かしてんだ、おい?」
 怒られるような事をしたのは自分なのに、何を開き直っていやがんだ、このガキめ…。俺じゃなくても誰だって怒るだろう。
 ホールでは「入れてー!」と客が千円札を宙に上げながらヒラヒラさせている。持田も必死でINをしているが、一人では捌ききれない。
「おい、大山。早くホール行ってINしろよ、ボケ」
「いえ、自分、責任取って辞めさせていただきます」
「こんな時に何を言ってんだって、さっきから言っただろうが?」
「悪いのは自分なので辞めます」
 あまりに意固地な大山の胸倉をつかみあげ、俺は睨みを利かした。
「おい、小僧! オメー、本気で言ってんのかよ?」
「ええ、辞めさせていただきます」
 吉田の一件で俺は自分のクビを懸けてまで、大山や倉下を引きとめた。それなのにこいつはどういうつもりだ? 怒られるような事をしたのは自分なのに、妙に開き直っている。
「おまえな~」
「離して下さいよ。もう辞めるんだから関係ないでしょ?」
 その瞬間、俺は自然と頭突きをお見舞いしていた。「ゴツッ」という鈍い音がする。廊下に倒れこむ大山。両手で頭を抱えながら「ウワー」と客席の方向へ、ゴロゴロと転がっていく。
 さっきまで殺気立ちながら「早くINを入れろ」と言っていた客も、この様子に手を止め、転がる大山を黙って見つめていた。俺は大山の首根っこを猫のようにつかむと、奥の休憩室まで引きずり、椅子へ放り投げた。
「テメーみてえなクソ野郎はそこにいろ!」
 急いでホールに戻ると、客は何事もないかのように再びポーカーを始めていた。新人の持田だけが一人でひっきりなしに動き回っている。以前安沢へ吐いた台詞「どんな状態でも店は回っている」と言った事があるが、本当にそうだ。自分で言った言葉に痛感した。
 やる気のない大山をこれ以上相手にしてもしょうがない。俺は浅田さんへ電話を入れた。
「神威君? 今日はどう?」
「湯上谷も休みで、大山も辞めると言い出し、俺と新人の持田だけです。何とかヘルプを回してもらえませんか? お願いします」
「うん、分かった。何とかしてみるよ。一旦電話切るね」
 その甲斐あってか、三十分後には各店から一人ずつヘルプを二人もよこしてくれた。以前と同じ『チャンピョン』からは中村。『バースデー』からは因縁ある黒石が来てくれる。俺はヘトヘトになりながらも、持田に「一時間休憩入りな」と言った。
「神威さん、まだ飯も食べてないじゃないですか? 先に入って下さい」
「俺は大丈夫だって、本当に大変だったろ? ゆっくり休んできて」
「すみません、ありがとうございます」
 ちょうどその時、奥の通路から大山が頭を抑え、フラフラしながらリストへやってきた。
「何だ、おまえは?」
「殺すんなら殺して下さいよ!」
 大声を張り上げる大山。客は一斉にリストのほうへ振り向く。このクソガキ…。人が一杯いるからって、手を出されないとでも思っているのだろうか?
「おまえ、いい加減にせいよ、コラッ」
「殺すんなら殺して……」
 うるさいので右手で大山の顔面を鷲掴みにして黙らせる。そのまま壁に叩きつけると、俺は外まで連れて行き、放り投げた。
「おら、大山! テメーがこんな状況なのに飯休憩を一時間半も勝手に入り、俺がちょっと怒ったぐらいで開き直ってんだろうが。あんま舐めてんじゃねえぞ、おい。殺す殺すって簡単に抜かしてるけどよ。口も利けねえぐらいやってやろうか?」
「……」
「何黙ってんだよ、テメーは?」
 腹につま先で軽く蹴りを入れる。大山は両手で腹を抱えながら地面にのた打ち回る。俺はこんな奴と二年も一緒に仕事をしてきたと言うのか。情けない。そして悲しかった。
「今日でおまえはクビだ」
 俺は大山の私物を外へ放り投げると、『ワールド』の扉を閉めた。
 この日、浅田さんの指示で三回の『一気ビンゴ』を偽造した。

 大山がクビになった事について、島根も倉下もショックを隠せない様子だった。この際どう思われてもしょうがない。悪いのは大山なのだ。あいつは何で分かってくれなかったのだろう。正直悲しかった。あと三ヶ月で『ワールド』は終わる。
 その間、オーナーがもっと売り上げを上げろと台の設定をキツくするよう命令してきた。自分で億単位の金を溶かしておきながら、勝手な言い草だ。浅田さんもオーナー命令だからしょうがないと割り切り、台の設定をキツくする。それが分かり始めたのか客足は徐々に遠退いていく。
 俺と浅田さんは、毎日店の金を抜きまくった。少ない時でビンゴ一回分。多い時でビンゴ三回分。金額にすると五万から十五万ぐらいを毎日のように抜く。半分ずつ仕事が終わると分け合うので、給料とは別に一日辺り二万五千円から七万五千円の金が入ってきた。
 俺の『デズラ』が一万五千円。新規伝票を一日二枚分偽造し、六千円の金をプラスするから二万一千円。そこに浅田さんとの抜きの金額も加わってくるので、今まで真面目に稼いできた額とは雲泥の差になった。
 罪悪感に悩まされながらも、止まる事はできない。
 休みも取らず真面目に仕事へ打ち込んできた。その情熱すら失っている自分がいた。
 俺は休みの日になると、財布に二、三十万の金を入れ、夕方から朝方まで飲みまくった。財布の中の金が一晩で空になるまで様々な店を飲み歩いた。まったく意味のない無駄遣いである。
 しかし、そうする事で少しは気が紛れた。
 様々な飲み屋で金をふんだんに使う。かなりの数の女が擦り寄ってきて、俺は数え切れないほど飲み屋の女を抱いた。
 その内、店の状況を出勤前に聞き、暇だと休むようになる。それぐらい色々な女を抱く事に溺れた。
 金を気にせず使うという行為。非常に楽しかった。自分の中の金銭感覚がどんどん変わり、おかしくなっていると分かっていながら止まらなかった。
 急に店を休む俺に、浅田さんは「神威君、頼むよ。ちょっとは真面目に出てきてよ」と注意されるようになる。当たり前だ。浅田さんからしてみても、俺が出勤していて初めて抜きが成立するのだ。
 それでも一週間に二、三回を休むようになった俺。いくら無駄遣いしても、月に六十万円ほどの金が残った。
 正直、キャバクラやヘルスで金を使う事に飽きてきている。
 特に飲み屋の女は、どんなに綺麗事を抜かしたところで所詮金なのだ。その本音が余計に見えてしまうと、うんざりしながらも金を使う自分がいた。
 随分とくだらない男になったものだ。そう自分でも思う。
 そんな状況で、ラストの一ヶ月に突入した。浅田さんは、みんなに店が閉まる事を伝えてほしいと言った。
 こんな馬鹿げた金を稼げるチャンスも、あと一ヶ月。毎日休まず真面目に出ていたら、一体いくらぐらいの金額を稼いでいたというのだろう。
 俺は従業員を集め、今月で『ワールド』が閉まる事を伝えた。
 みんな、俺の話を聞いて呆然としていた。
「嘘だ……」
「俺、嫌ですよ」
「あと一ヶ月で閉める事は、もう決定してるんだ。すまない……」
 俺が深々と頭を下げると、みんな黙ってしまう。
「できればあと一ヶ月間…。店に残ってほしいが、別の仕事を探すのならそれはそれで構わない。最後まで付き合わなくてもいい。職の宛てがない奴は、俺が知り合いに聞いてみる。みんな、本当にすまない…。今までこんな俺についてきてくれて、本当にありがとう。みんなとこうして会え、一緒に働けて、俺はとても勉強になったし成長もできた。離れ離れになるのは辛いけど、またいつかみんなで一緒に食事でもできたらいいと思う」
 話を聞いている段階で、中には泣いている従業員もいた。非常に心苦しかった。
 そして従業員の半分は、この日で店を辞めていった。
 
 数年掛けて築き上げたものの崩壊……。
 俺は残りの日数をそんな気持ちで捉えながら、時間だけが過ぎていく。
 オーナー命令で台をキツくした事によって、『ワールド』はすっかり暇な店になっていた。それなのに「もっと客を入れろ」と無茶を言うオーナー。あまりにも阿呆らしく、反論する気力すら出てこない。どっちみちあと一週間で、この店は終わりを告げるのだ。
 夜になれば当たり前のように歌舞伎町へ来て、ずっと働いてきた。そして朝になれば仕事を終え、日が昇っている時間に眠る毎日。普通の一般な生活とは真逆な生活を送ってきた。
 そんな生活も、もう終わる……。
 最後の三ヶ月間で、俺は今までにないような金を抜き、そのほとんどをくだらない事で使い、発散させている。
 これからどうするか? まだ何も決めていない。
 そんな状態で『ワールド』最終日がやってきた。浅田さんと話し合い、客にはまだ店が閉まるという事を伝えていなかった。すっかり閑古鳥が鳴いている店である。告知したところでどうにもなるまい。店内には三名の客が静かにポーカーを打っている。随分寂れたものだ。
 入口のチャイムが鳴る。小倉さんだ。最後の最後でこの店一番の客が、来てくれた事が嬉しかった。
「いらっしゃいません、小倉さん」
「はいはい、どうも」
「お飲み物はどうされますか?」
「お茶」
「はい、かしこまりました」
 俺は小倉さんがゲームを打っている最中、頃合いを見計らって近づき、今日で『ワールド』が終わる事を告げる。
「小倉さん、申し訳ありません。実は『ワールド』も本日で終了してしまうんです……」
「そうか……。残念らね」
「すみません。小倉さんにはこの店のオープン当初から来ていただき、本当に心の底から感謝しています。ありがとうございました」
 小倉さんはマジマジと俺の顔を見て、ゆっくり口を開く。
「君はこのあとどうするんだね?」
「え、自分ですか?」
「うん、何かするって決まっているのかね?」
 ひょっとしてこれは、小倉さんからの誘いなのかもしれない。長年に渡り、この店で多くの金額を使ってきた小倉さん。文句なしに一番金を持っている常連客だろう。人柄も良く、いつだって物静かなおじいちゃん。こんな人に今後拾われたら、俺は幸せかもしれない……。
 終わりあれば、始まりもある。この人について行ったら俺は、どんな未来が待っているのだろうか?
 いや、散々この店で金を落としてくれた人に、まだ店が終わってからも世話になろうというのか? そんなの虫が良過ぎる。
 ちょっと前の俺ならまだ汚れていなかった。しかし今は、浅田さんと組んで店の金を抜き、従業員たちと結託して別に金を抜いてきた。随分とドス黒く薄汚れている。
 小倉さんは真剣な眼差しで俺を見ていた。
 このままこんな俺が身を委ねていいものだろうか? そうしたほうがいいというのだけは、何となくだけど分かる。だけどそれをしたら、もっと自分自身が嫌いになりそうだった。
 この人とは縁があれば、またいつかどこかで出会えるはず……。
 それまで俺は自分で、自分自身の道を探さなきゃいけないような気がした。
 歌舞伎町に来て、少し黒く染まり過ぎている俺。ひたむきだった頃に戻りたかった。
「しばらく休んでなかったので、ちょっとゆっくりしてみようと思っています」
 俺は静かにそう言った。
「そうか…。じゃあどこかの競馬場でまた会おう」
 小倉さんはそう言って寂しそうに笑った。

 長年勤めた『ワールド』。今、俺は店の入り口の前にいる。今日これで、ここに来るのも最後なのだ。そう思うと、感慨深いものがあった。
 両サイドには島根と倉下がいる。
「神威さん、このあとどうするんです?」
「まだ何も決まってないさ。島根は?」
「自分もですよ」
「倉下は?」
「自分は知り合いのゲーム屋で、世話になろうと思います」
「そうか。頑張れよ」
 この面子も今日で最後。今後よほどの事がない限り、集まる事はないだろう。
 俺はゆっくり手を差し出した。島根、倉下も手を差し出しガッチリと握手をする。
「またいつか、会おう……」
「お世話になりました、神威さん」
「ありがとうございました、神威さん」
 店の前でそう言いながら、笑顔で俺たちは別れた。
 浅田さんに電話を入れる。
「あ、神威君? 今どこ?」
「『ワールド』の前です」
「じゃあ、すぐそっちへ行くよ」
 一分もしないで浅田さんはやってきた。
「今まで本当にお世話になりました、浅田さん……」
「いや、こちらこそ。神威君、今までありがとう」
「いえ、こちらの台詞です。ありがとうございました」
 本当に色々な出来事があった。それでも俺は何事もなく、無事この通り生き残っている。仕事は失った。でも得たものは限りなく大きい。
 浅田さんともガッチリ握手をして、俺は西武新宿の駅へと向かう。
 さて、これからどうするか……。
 決まっている。少し休んで充電したら、また歌舞伎町へ戻ってくるだけの話だ。
 この先の未来など何も分からない。だからこそ俺は再び歌舞伎町へ……。
 俺は静かに微笑みながら、歌舞伎町の街並みを歩いた。

―了―

題名『新宿フォルテッシモ』 作者 岩上智一郎
執筆期間 2009年1月18日~2009年2月16日 原稿用紙440枚分
推敲 2009年11月3日 原稿用紙441枚

 

 

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