クルト・ヴァランダー警部シリーズ10作品の中の6作品目に当たるものです。
このシリーズは警察小説のジャンルに入るような形態のものですが、ミステリとしても大変良く出来た作品が書かれておりどれから読んでも楽しめると思います。
捜査チームの各刑事たちの個々のエピソードも、物語の彩を添えるという観点からはとても良く描かれ、ストーリーの厚みを持たせる役割は十分に果たしています。
残虐な殺人事件の犯人像がまるで掴めないヴァランダー警部たちですが、地道な捜査を繰り返し一歩ずつ犯人へ近づいていきます。
しかし、証拠を残さずミスリードを誘う犯人に迷わされ、時には悩み他の刑事の意見に耳を傾けながら個々の刑事の特徴を生かした捜査方法で
姿の見えない犯人に迫っていく、その過程がじっくりと描かれているのがこの物語の特徴です。
過酷な刑事たちの日常と生活の様子を見せながら、殺害の動機などまったく見えない五里霧中の中で社会的要因なども入れた
犯人側の視点も書かれていて、単なる残忍な殺人事件としないところがこの著者の良さです。
個々の刑事たちのエピソードも人間味溢れる事柄で、チームとしての繋がりがさらに深まる内容になっていて、シリーズとしての脂の乗った作品であると思います。
試行錯誤の末に始めに感じた違和感を信じて捜査を進めるヴァランダーたちイースタ警察のチームの活躍が楽しめる本作。
文庫本上・下の厚みのある内容ですが、物語の中に入り込み読み進むとそのボリュームも苦にもならず読み終えました。
一言一句が味のあるこの著者のミステリ、一読をお勧めします。
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