Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『鳩の撃退法』佐藤正午のミステリ

2015-06-07 07:37:47 | ミステリ小説
                                 

映画「パルプ・フィクション」のように時系列をシャッフルした書き方と、作中
主人公(過去に直木賞を取った作家という男)が書き綴った小説風の文章が交互に読むものに示されるという構成になっています。

あった事実とあり得たであろう事実(主人公が書く虚構)が交差して、登場する人物も一見何の関係もなく脈絡の無さそうな話も読み進むうちに
バラバラのピースがピタッと嵌まるようにして一枚の絵が完成する、そのような手法で書かれた物語です。

単行本で上・下巻に分かれているボリュームですが途中退屈することなく読み進めます。忽然と消えた一家三人、偶然手にした偽札、デリヘル嬢の
送り迎えのドライバーをする元作家のだらしない男。彼が見聞きした出来事がバラバラの話しのような出来事が一本の線に繋がっていく訳ですが

主人公の男のだらしなさや会話の部分の面白さ、そして取り巻く彼の日常の世界の人々。しっかりと読み手の胸のうちに届くのは
なんといっても作者の筆の確かさです。長編にも係わらず中だるみも無く最後まで飽きることなく読み進むのは作者の文章の上手さにあります。

ピーターパンの本とサマセット・モームの劇場と漱石の虚美人草やらが出てくるが結局は漱石の「運命は丸い池を作る。池を巡るものはどこかで落ち合わねばならぬ」が
この本のすべてを表わしていることになっています。

消えた家族、干上がった池から現れた二人の死体、三千万を越える現金と偽札、シニカルで笑いも含んだ出来事がひとつの終息に向かう様を
主人公の行動と執筆した文章、記憶と回想で綴られた物語です。