せっとせとになってる(ミラー!)

海馬社長を永遠に崇拝しながら、ボッチヲタ生活を送る
昔のよろずサイトのノリで雑食二次ヲタな日々(たまに三次)

腐 【磯海駄文基本形B】 R15?

2020-09-29 08:06:43 | 遊戯王(腐):駄文

薄い壁の向こうから、酔っ払いの喧嘩や女たちの甲高い声が響く。

カーテンのない窓から、下品な色のネオンがチカチカと明滅する。

クラクションとサイレンは、やかましく一晩中鳴り続けた。

「あの頃」過ごした夜を思い出す男とは対照的に、まるで少年は部屋の外の事など、何も気にしてはいないようだった。

 

「寒いな」

「そうですか?」

「チッ。全室一括で空調が設定されているのか」

「管理人に設定温度を直させましょうか」

「別に、いい…」

 

今回の旅は多少リスキーなものゆえ、仕事に関するものはほとんど置いてきた。

代わりに持ち込んだのは、市場で見つけた中古のジャンク品のゲームソフトだ。

少年は日頃の多忙を忘れて、ゲームに夢中になっている。

備え付けのテレビは画質音質ともに荒く、乱れた画面がノイズとともに激しくフラッシュする。

これでは外の様子に関心など生じないだろうと、男は妙に納得した。

そして、大人びて見える少年があくまでまだ年相応の子供だという事も、同時に思った。

 

男の胸の奥を、乾いて焼け焦げた空気が吹き抜ける。

少しそうして懐かしい感覚に浸っていようと、男は部屋の隅の暗闇に佇んでいた。

そのまま一晩立っているつもりだった。あくまで己の職責を全うするつもりで。

ところが少年は、気まぐれに男を呼びつける。

それから、こうゾンザイに言い放つのだった。

「オレがこうして休んでいるんだ。お前だけ生真面目だとリラックスできない」

「お言葉ながら、私の役目はあくまで厳重な警護です」

「そんなもの、外の連中に任せておけばいい」

「では、失礼して…」

 

「タバコを吸ってもよろしいですか?」

面倒くさそうに、少年は横顔で小さく頷くだけ。

内心にさざめく感情を、すっかり身に沁みついた平身低頭な態度で見事に隠して。

男はいそいそと、取り出したタバコに火をつけた。

タールを多く含んだ黒い煙を深く吸い込んで、吐き出す。

これでまた、冷静な感情を取り戻せるだろうと男は思った。

 

(毎日、暑く不快な夜だった)

(俺だけじゃない。あの街にいた人間はみな、誰よりも生きていたようにも、死んでいたようでも、ある…)

それにしても。

そんなにこの部屋は寒いだろうか?

男は首筋にまとわりつく汗をぬぐいながら、ふと疑問を抱いた。

 

「どうにも寒いな」

少年の声が、ゲーム音に交じって狭い室内に響く。

「ではやはり、管理人に…」

「いやいい。それよりお前、こっちへ来い」

少年によって散らかされたベッドに歩み寄ると、だらしなく寝転がった彼は、もうゲームには飽き始めているようだった。

 

突然伸びてきた細く白い腕が、男の日焼けした太い腕に巻きつく。

「ソレ、オレも吸ってみていいかな」

「駄目ですよ、未成年でしょう」

「はは。よく言う。ありったけ法を破ってきたくせに」

「…当時は戦時下で、無政府状態でしたから」

「無政府状態…か。悪くない言葉だ」

そんな事より、いいだろう?と。少年が火のついたタバコに手を伸ばそうとするのを、男はやんわりと制止する。

すると少年はわざとらしく、拗ねたような表情を一瞬作って見せた。

 

「ああ、つまらない」

「日本の快適なマイホームのようなわけにはいきませんよ」

「ゲームもクソゲーばかりだし」

「私には違いが分かりませんが…」

「だけどどうも眠る気になれないんだ」

「環境の変化か、光の刺激のせいのでは…?」

 

少年に奪われないようにして、男はまたタバコを、手早く一吸いした。

昔から。戦地にいた頃から、ずっとその銘柄だけを愛用している。

馴染みのニオイで肺を満たす度に、冷静さを取り戻せているつもりでいた。

が、…しかし実際はそうではなかったようだ。

 

「寒い」

「ですから、冷房を弱めてもらえば…」

「このベッドも良くない」

「すみません。次はしっかり調査させます…」

「この枕も良くない。だから眠れないのかも知れない」

「…申し訳ありません」

ずっとゲームをしていて寝ようとすらしていなかったのに、などと反論する気も起こらない。

 

「オレの世話は貴様の仕事だぞ?ちゃんと見ていたか?

枕の具合が悪いから、タオルを重ねてみたり、ずっと涙ぐましい努力をしていたのだ。

そんな事を、このオレにさせるな!」

「はい…申し訳ありませんでした」

恭しく頭を垂れた。サングラス越しに上目遣いで少年を見る男の目は、その実は決して誰にも知られる事はないわけだが…、

その瞳は、熱した鉄のような鈍い光を、じっと湛えていた。

 

本当は、冷静などではなかったのだ。

今、男の胸に吹くのは、ガレキだらけの焼け焦げた荒野を吹く風ではない。

脳裏に繰り返し繰り返し立ち上ってくる、蒸し暑い夜の記憶。

どれほどの娼婦を抱いてきたかなど、男は数えてもいないが。

彼女たちに共通した独特の影のようなものを、無意識に少年に重ねていた。

どうしても、重なって見えて仕方がなかったのだ。

 

少年は幼いが、男が生涯仕えると決めた絶対的主である。

傑出した才能と野心とエネルギーに溢れ、高潔で、高慢で。見た事もないほど純粋な人間。

たまに腹の内で皮肉を言おうとも、男は心の底から少年を尊敬していた。

少年の過去にまつわる良からぬ噂を耳にした事はあっても、自分自身がそうした目で彼を見る事はないと、自信をもって確信していた。

 

それがどうだ。

今、男は確かに、「そうした目」で少年を見ている。

一体何故なのか? …答えは簡単だった。

少年自身が意図して、そのように見せているのだ。

 

 

誘われている。

「本当にひどいんだ、この枕。工場で余った緩衝材じゃないのか」

「さすがにそんな事はないと思いますが…」

「オレは様々な枕を試したから、質が分かるんだ。…くく」

子供じみた我儘のアンバランスのせいで、自嘲めいた笑いの意味に気付くのに、少し遅れてしまった。

そこには不思議と卑屈さはなく、諦めを通り越したような… 沼のように深い何かがあった。

 

誘われている。

そう理解した男は、吸い残しのタバコをさっと床に捨て、靴底で踏みつけた。

「あなたと張り合いたいところですが、私は…よく考えると枕のない場所も多かったですね」

「ふん、…野人め」

少年は随分と嬉しそうにはしゃいだ。

 

「ほら、枕シロウトのお前でもコイツがダメだってのは分かるだろう?」

「ええ…。はい、そんな気もします…」

「試してみろ。 …ああ、ものが邪魔だな。なんだってこんなに狭いんだ」

ベッドに散らかったゲームソフトや衣服やお菓子や飲み物や、例の涙ぐましいタオルとやらを、乱暴に床に投げ捨てる、少年。

子供っぽいそうした所作も喋り方も、彼は全て計算して行っている。

男は全て理解した。それでも少しも冷静さなど取り戻せなかったし、既に取り戻すつもりもなくなっていた。

 

「確かに変な質感ですね…。ちゃんと洗濯されているのかどうか…」

「だろう?お前のせいだ。お前が前もって調べないのが悪い」

「今度は必ず、もっとちゃんとしたホテルを取るように」

「お前が…悪いんだ。お前がもっとちゃんと…してくれないと…」

少年の腕が男の身体にするりと絡みつき、そのまま滑り込むように、滑らかな肌が密着してくる。

胸にすっぽり収まってしまう華奢な体は、触れると少しヒンヤリとしていた。

寒いと言っていたのは本当だったのかと思い、男は少年にひどい事をしたと、より強い罪悪感に襲われた。胸が痛んだ。

 

「は あ… いい。こっちの方が…」

男の耳元で、ぞっとするほど艶めかしい少年の囁きが漏れる。

「なあ野人。オレにも教えてくれよ。オレの知らないお前のこと…無政府状態?ってやつを」

 

ずっとつまらないんだ。

寒いんだ。心が。

眠れないし、ベッドも枕も合わない。

本当にこの世界は退屈でつまらない。

だけどお前は、きっと違う。…

 

「ああ…すごく熱い…。 気持ちいい…」

その後は、もう止まれるはずもなかった。

 

 

…堕ちる直前、最後に男はカーテンのない窓ガラスを見た。

せせこましい真似をする自分にわずかに抵抗はあったが、過酷な戦地の昼と夜を生き抜いてきた知恵と自負も、同時にそこにはあった。

やかましいネオン街の虚空に、密かに抱き合う2人の姿がうっすら映っている。

きっとこの少年は、欲しいものを得られた満足感で、悪魔のようにいやらしく笑っているだろう、と。男はそう思っていた。それを見てやろうというつもりでいた。

 

しかし男が窓ガラスの中に見たのは、全く予想と異なるものだったのだ。

既にもう頭がどうにかなってしまっていた可能性も、否定できないのの…。

男の肩口に静かに頬を寄せた少年の顔は、まるで親鳥の庇護を求めるヒナのようで。

今にも泣き出しそうにさえ見えた。儚く切なげな風情に、長い睫毛がそっと伏せられていた。

これもまた彼の計算だろうか?それとも…計算ではないのだろうか?…

少しだけ考えてはみたが、結局のところ、どちらでも一向に構わないのだ。

既に男の心は、少年に完全に捕らえられてしまったからだ。

 

 

テレビを消したせいで、外の騒ぎが相変わらずうるさい。

最後まで男の耳の奥にこびりつく、サイレン音。

ほとんど寝ぬうちに、黄色い太陽がビルの向こうを照らし始めた。

男にとっては昨日までとは違う、新しい朝の訪れでもあった。

 

そして一方の少年は、また新たな「奴隷」を得た。

最も新しく、最も優れた、彼が一番欲しがっていた奴隷だった。

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