日本列島はこの冬一番の寒波に襲われています。
だからというわけでもないのでしょうが、この真夏の物語を思い出してくださる方が続いています。
出版から半年もたった真冬にまだレヴューがいただけるというのは、著者としてはなんとも嬉しい
ことで、心が温まります。
きょうのレヴューは たくき さんからです。 ご自分のブログにUPしてくださったものを、こちらにも
転載させていただきました。 17番めのレヴューです。
緋野晴子著 「沙羅と明日香の夏」 を読んで
この本を読み終えたのはちょうどカレンダーが秋に変った頃だったと思います。僕
は決まっていた出張にあわせ物語をゆっくりと読み進んでゆき、最後のページをめく
ったのはちょうど舞台のある奥三河への入り口となる豊橋駅を列車で通過した直後
でした。
春に大きな災害が起こった直後であり、さらに言えば例年に無く季節のはっきりし
ない天候に、心も体も夏をそれと実感できず終わっていくのかと思いましたが、作者
の描いた奥三河の夏は確かに実感として残っていたようで、この奥に沙羅と明日香
のすごした土地があるのかと思うと、今、別かれたばかりの登場人物が愛しく懐しく
感じられました。
文体は全体に優しく静かで、ところどころに清冽な力強さを感じさせられました。一
行目から、最終となる240ページの最後の行まで、そして半ページほどの空白をあけ
ての「あとがき」も全てが、飾りすぎず丁寧に綴られた味の良い文章であり、おそらく
努めてそうしただろう平易な言葉選びと相まって若々しく清清しく聞こえました。読ん
でいて本当に気持ちが良かったです。
ストーリは日常のすぐそばにあるかもしれないことが題材になっていて、その点は
前作と同様だと思います。
我々が普段気付かずに過ごしているだけで少し目を凝らせば見え、手を伸ばせば
触れられる程度の距離にある日常の傍の非日常。主人公にとってそれは林道のち
ょっとしたわき道を行くことだったり、天文学の知識を持った青年と話をすることでし
た。それを自分に置き換えてみたらどうでしょう? ましてや、主人公と同世代の可
能性にあふれた若い読者であればなお、いつもと変らない毎日を少し変えてみる悪
戯心(または勇気?)が芽生えるかもしれません。
そして身近な僕たちの日常の世界のすぐとなりには、僕たちが想像もしたことの無
いような人生を歩んでいる人々がいること。なかには癒えない傷をもっている人も居
るかも知れない。普通なら背負いきれないような困難と格闘している人もいるかも知
れない。普通なのは自分なのか彼等なのか。そもそも普通とは何物なのか。その苦
労は大きいのか小さいのか。人は幸せでいたいとみな思だろうけど、ではどうなるこ
とが幸せなのか。
大人にとっては、きっと幾度と無く考えただろうこと。大人になってゆく子供がきっと
一度は考るだろうこと。そういったことを、もう一度(あるいは初めて)考えるきっかけ
に、この本はなりえると思います。
大人が手に取り、子供が思春期を向かえる頃までに手渡してやりたい。それが43
歳、二児の父である一読者の感想です。より多くの読者の手元に「沙羅と明日香の
夏」が届くことを願います。
描こうとしたこと、誰かの心に響けと願ったことが、確かに読んでくれた人に伝わった。
読んでくれた人の中にひと粒の種となって残ってくれれば、という願いが叶った。
そんな気がして喜びに胸が震えました。
たくきさん、素敵なレヴュー、ほんとうにありがとうございました。
たくき さんのブログはこちら
http://blogs.yahoo.co.jp/takuki_toyoshima 「たまには小説を書こう」 です。
ユーモアたっぷりの (時々たっぷりすぎて驚く) ショート小説・記事・コメント満載です。
ぜひ一度、お訪ねになってみてください。
「沙羅と明日香の夏」 緋野晴子著 (リトル・ガリヴァー社) 1,470円
* 全国書店でお求めいただけます。 (店頭にない場合は書店にご注文ください)
(確実に在庫がある書店 :
丸善&ジュンク堂・・・札幌店・旭川店・大宮ロフト店・千日前店・梅田ヒルトンプラザ店・鹿児島店)
* Amazon ・楽天 等ネット書店にもございます。
* 庶民の味方、図書館でリクエストして、購入していただくこともできます。
*** 内容紹介 ***
中学時代に <空気> という、捉えどころのないいじめに傷ついた沙羅と明日香。
高校生になっても、沙羅は生への意欲を失い、明日香は自己嫌悪に苛まれていた。
奥三河の田舎で過ごしたひと夏の経験 ・・・・・満点の星空、谷川の清流、ホタルの谷の思い出、アル
タイルや奇妙な三人組との出会い、湯谷での発見とハプニング、鳳来寺山の仏法僧、嵐の中の出来
事、御園の天文台から望む宇宙、そして・・・・・
「あたし、命の足跡残したいな」
命と生を見つめ、魂の再生に向かう、楽しく・切なく・発見に満ちた青春ストーリー。
中学生・高校生のみなさんはもちろん、かつて思春期と呼ばれる時代を経験してこられた大人の皆様にも、きっ
と共感していただけるものがあるだろう思います。 懐かしくも、ちょっぴり胸の痛いあの頃。 柔らかく、傷つきや
すく、生きることへの不安や、寒さや、妙に熱い塊を抱えていたあの頃を、楽しく思い出していただけることでしょう。