緋野晴子の部屋

「たった一つの抱擁」「沙羅と明日香の夏」「青い鳥のロンド」「時鳥たちの宴」のご紹介と、小説書きの独り言を綴っています。

映画 「ノルウェイの森」

2011-01-31 22:44:15 | 空蝉
あ~、経理の仕事がやっと片付きました。 (肩コリコリ)
あとは2月に提出するだけ。まだ休みが2日残っていて嬉しい♪私です。
今のうちに記事の一つも書いておかなくちゃ。 ということで、さて、きょうは何を書きましょうか?

そうそう、経理をサボって映画「ノルウェイの森」を観ました。
だめですね。 やっぱり、小説を映画にするっていうのはだめだなあと思いました。
小説を映画化したもので映画のほうがいいと思えたものはまだありませんが、中でもこれは良くない方じゃないでしょうか。
と言っても、役者さんの演技とか場面の撮り方のせいではないと思うのです。人物の個性はよく表現されていましたし映像自体は良かったように思います。
そうではなくて、原作の描かんとするものが画面には収まりきらなかったのではないかと感じました。

実は私は原作を読んでいません。読んでいない私が見ると、この映画は腑に落ちない所が多いのです。
「ゲド戦記」を観た時の失望ほどではありませんが、それに似たものがありました。

この作品にはいくつかの不可解な愛が描かれています。
最愛の恋人に対して性的に反応できなかったR子。にもかかわらず、友人だった主人公のA男とはうまくいく。それでも自殺した恋人を忘れられずに死者を求め続ける彼女にとって、愛とはどういうものだったのか?

A男は、自殺した親友の彼女だったR子を愛するようになったのですが、それはどういう愛だったのでしょう?
不意に取り残された者同士の心の傷の共鳴? 恋人を失ったR子への同情が愛に変わった?
それとも、亡き親友の彼女だったということに何か特別な心因があったのか?
A男は映画の中で何度も「A君は優しい人でしょ」と女性たちから言われます。彼は優しいのでR子を愛し、彼は優しいのでM子を理解しようとし、やがて愛を感じる。彼は優しいので唐突に「抱いて」という女性S子も拒まない。そして愛に迷う。
「僕は今、どこにいるんだろう?」というA男の最後の台詞は効いていました。

最後のS子の行動は、過去の愛に何かあったのだろうとは想像させますが、なぜA男に「抱いて」になるのか、まったく不可解なままで、あまりに唐突すぎます。

また、どんな女性にも心を渡すことはせず、次々と新しい女性と関係するB男。彼も不可解な男性です。そんなB男を、それでも愛さずにはいられないK子の愛も、また不可解。

男女の愛は不可解なもの、そんなこともあるさと言ってしまえばそれまでですが、しかし、それではあまりに上滑りな作品ということになってしまいます。読む者がそれぞれの愛を考える手がかりになる事柄が、原作にはきっと何か表現されていたはずだと思うのです。それが映画の中には見つかりませんでした。
何かがごっそり抜け落ちてしまっているような気がするのです。R子の恋人はなぜ自殺したのか? 幼馴染でいつも一緒だったその恋人とR子とA男、三人の心理的関係はどうだったのか、愛以外の要因が何かあったのではないか? そのあたりが見えてこないと、どうも全体がはっきりしないように思います。
 
白黒の雪の森をさまようR子の姿は彼女の心の世界をよく表現していると思いました。「ノルウェイの森」のイメージに合っている気はしましたが、でも、それだけではこのタイトルにした理由が今一はっきりしません。

もっと奥に何かありそうなのに、大事な所に手の届かない歯がゆさばかりを感じる映画でした。

やはり、小説は「小説」という表現分野でしか十分に成立し得ない芸術なのではないでしょうか。 
そんなことを思いました。それとも、私の鑑賞力の無さのせいかもしれませんが・・・。

などと書いていましたら、早、半日が過ぎてしまいました。お休みは明日までです。せっせと遊ばなくっちゃ。 
外は朝から ちらほら雪世界。熱いお茶でも飲みながら今からビデオで「ロスト」を観ます。 では、また。

                              
                              ( A男のような優しさを持った男性は恐い 緋野 ) 


遠きにありて思う町・・・金沢

2011-01-15 14:09:58 | 空蝉
 かねてより一度訪ねてみたいと思っていた雪の金沢に、ようやく行く機会を得ました。

 初日は予想外の雨(氷雨)にがっかりしましたが、あくる日はホテルを一歩出ると、それはそれはもうみごとな
雪の世界に変わっていて、思わず感嘆の溜息をつきました。 20センチ以上もの積雪です。
野外に止められていた車はすっかり雪に覆われ、まあるく、かわいく、大きな雪見大福のようになっていました。 
 コートにブーツにマフラー、手袋、帽子に包まれ、傘までさして、いざ出発です。 
雪というものは雨と違って、歩きながら払い落とせばいいから楽だと思っていましたら、あにはからんや、コートの毛にしっかりとしがみ付いて簡単には落ちないのですね。 
時々通りの軒下を借りてしっかり払い落としてから歩かないと、雪だるまになってしまいそうでした。
道々には、雪掻きをする人の姿が見られました。
「たいへんですね」 と声をかけると、
「ああ、もう、冬はこんなもんで・・・気をつけて行ってね」
気楽な観光客に対して温かいお言葉をいただきました。 
この方たちのお陰で私たちはどんなに歩きやすかったことか、雪掻きの皆様、ありがとうございました。

 金沢という町は歴史や文化を留めるものが所狭しと集まっているところです。1日半ではすべては回りきれませんでしたが、移動に時間をとられない分、かなりの観光ができました。 以下のとおりです。

   一日め(処々に雪残るも雨)

歴史博物館 (面白くて時間を取りすぎてしまいました)

中村記念美術館 (雪庭を眺めながらのお抹茶が嬉しかったです)

21世紀美術館 (作品よりガラス張りの美術館が素晴らしい)

兼六園 (文句無く美しい。そしてこんなに広かったとは・・・雨の日で残念)

金沢城公園 (菱櫓と五十軒長屋は思いの外みごとでした。 融け残った雪原にカラスの群れ)

尾山神社 (利家とまつを祭る。 ギヤマンの神門が珍しい)

ひがし茶屋街 (ようやく雨も止み、灯点し頃の濡れた石畳と茶屋の佇まいは、何とも言えない風情です)

主計町 (女川と言われ、かつては友禅流しをした川に沿った茶屋街で、かなり格式の高そうな料亭が並んでい      
      ます。 ここも美しい。 夜景は特に)

近江町市場 (ここでキトキトの魚を食べる予定が、雨の観光で冷えすぎてその気になれず、ホテルに戻ってホッ
        トなコース料理を、ということに。 ホテルで2割引券をもらったのが主な理由かもしれませんが)

   二日め(雪)

武家屋敷の佇まいが残る長町へ

土塀の通り (武家屋敷らしい土塀が連なり、こもがけ された姿が北国の風情)

前田土佐守資料館 (利家とまつの次男・利政が家祖。 現在の当主は13代目とか。 会ってみたかったです)

老舗資料館 (加賀藩時代の薬屋を復元した建物。 茶室や風流な庭もあり、豊かな商家の生活が窺えます)

野村家 (千二百石取りの武家屋敷。水の流れる風雅な庭園、内庭、坪庭、離れの茶室もあり、洒落た造り。
      個人の住まいとして規模もちょうどいいです。 ここに住みたい!)

高田家跡 (屋敷はすでになく門口のみ。 右は厩、左の端に門番兼、馬の世話をする人の部屋。 火の気のな
       い板敷に藁だけ。それでもいちおう武士ですが、上下の差は歴然です)

足軽資料館 (足軽になると小さくても一戸建て。狭い3部屋に大勢の家族で屋根裏の物置にも寝ていたとか)

長町友禅館 (友禅の染め上がる過程を丁寧に説明していただきました。 加賀では婚礼の時、友禅の大幕で
        三方を囲い、花嫁の間を作ります。 目も眩みそうな華やかな間で、かつての花嫁も写真を撮って
        もらいました。 記念にハンカチを一枚購入)

どうです? 盛りだくさんでしょう? 雪の中を歩いて、これだけのものが慌てずゆっくり見て回れました。
また観光スポットだけでなく、街全体が落ち着いていて、いい雰囲気です。

 帰りの電車に乗る前に、駅正面の 「台場」 で食事をしました。高そうに思えて、3000円を越すようなら止めておこうと話しながら行ったのですが、これが安かった! 
お刺身の5種盛りに、ダシのしっかりしたなめこのお味噌汁、半端でない味と具の煮物、茶碗蒸し、漬物がついて1380円! 
そのお刺身がほんとに美味しくて、たっぷりあって、キトキトの寒鰤をついにいただきました。 
夫はお刺身の代わりに海鮮丼とミニ蕎麦と天婦羅、あとは私のといっしょで 1480円! 
え~!ほんとにいいの?という感じでした。東海地方ではありえません。これだけでも金沢は素晴らしい。

 最後に、どうしても触れておきたいのは、あの「火の魚」の作者、室生犀星さんです。 
彼が「小景異情」で詠ったふるさとは、ここ金沢だったのです。

               ふるさとは遠きにありて思ふもの
               そして悲しくうたふもの
               よしや
               うらぶれて異土の乞食となるとても
               帰るところにあるまじや
               ひとり都のゆふぐれに
               ふるさとおもひ涙ぐむ
               そのこころもて
               遠きみやこにかへらばや
               遠きみやこにかへらばや


犀星さんは加賀藩士の家の主とその女中との間に生まれ、生後ほどなく雨宝院住職・室生真乗と内縁関係にあった赤井ハツにもらわれました。それから室生家の養継子となって室生姓を名乗ることになりましたが、両親の愛を受けることなく、男川と呼ばれる犀川のほとりにハツと住んで、そこで成長しました。 犀星という名に込めた彼の思いが伝わってくるような気がしますね。                
 私が金沢に行くことはもう二度とないと思いますが、町良し、人良し、文化良し、おまけに食べ物良くて雪麗し。
寒さと温かさが同居しているような犀星さんの白いふるさとは、私にとっても、遠きにありて思ふ町・忘れられない町となりました。


                                 ( 目を閉じると雪景色が見える 緋野 )


あけまして、おめでとうございます

2011-01-01 13:27:06 | 空蝉
新しい年が、今、幕を開けました。

昨年は、私にとっても、日本中の多くの方々にとっても、世界にとっても、困難の多い年だったように思います。

2011年は、人びとが明るい未来に向かって力強い一歩を踏み出せる年となりますように。

うなだれていた人は頭を上げ、へたりこんでいた人は立ち上がり、立ち尽くしていた人は歩きだす、・・・・・

みんなが少しずつ力を出し合って、元気な自分、元気な日本、元気な世界に向かって歩き出しましょう。

今年もよろしくお願いいたします。         
                                  緋野