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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

チルゼパチドは肥満関連 HFpEF の急性増悪を半減させる。

2025-02-13 21:07:16 | 循環器
左室駆出率の保たれた心不全に対するチルゼパチドの効果
N Engl J Med 2025; 392: 427-437

背景
左室駆出率が保たれている心不全 (heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF) 患者の大多数は肥満でもあり、内臓脂肪は心不全の発症と進行に寄与している。脂肪細胞量の増加は全身性の炎症を誘発し、この炎症は心外膜脂肪組織の炎症性変化を通じて心筋に伝達される可能性がある。心不全(特に HFpEF)のリスクは、体格指数(body mass index: BMI)が上昇するにつれて増加する。減量介入(胃バイパス手術やグルカゴン様ペプチド-1[glucagon-like peptide 1: GLP-1]受容体作動薬による治療など)は、全身性の炎症を改善し、心外膜脂肪量を減少させ、心不全の発症リスクを低下させ、HFpEF における心不全症状を緩和する。

肥満の HFpEF 患者を対象にセマグルチド (semaglutide) の効果を評価した 2 つの試験では、GLP-1 受容体作動薬が症状を軽減するだけでなく、心不全の主要な有害転帰のリスクを低下させる可能性が示された。この 2 つの試験では、体重が 8~9%減少し、健康状態や運動耐容能が改善し、心不全悪化のリスクが低下する可能性が示された。チルゼパチド (tirzepatide) はグルコース依存性インスリン分泌刺激性ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide: GIP)とGLP-1受容体の長時間作用型アゴニストであり、肥満患者において 12〜21%の体重減少をもたらす。しかし、肥満の HFpEF 患者における効果についてはデータが必要である。我々は、心不全イベントの悪化、健康状態、機能的能力に対するチルゼパチドの効果を検討するために長期試験を行った。

方法
この国際二重盲検無作為化プラセボ対照試験では、左室駆出率が 50%以上で、BMI が 30 以上の心不全患者 731 例を 1:1の割合で無作為に割り付け、チルゼパチド(最大 15 mg を週 1 回皮下投与)とプラセボを少なくとも 52 週間投与した。2 つの主要エンドポイントは、心血管系の原因による判定死亡または心不全イベントの悪化(time to first time event 解析で評価)と Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire clinical summary score(KCCQ-CSS;スコアは 0 から 100 まであり、スコアが高いほど QOL が良好であることを示す)のベースラインから 52 週までの変化の複合であった。

結果
合計 364 例がチルゼパチド群に、367 例がプラセボ群に割り付けられた。追跡期間の中央値は 104 週であった。

表 1. ベースラインの患者背景
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2410027#t1

心血管系の原因による死亡または心不全の悪化が判定されたのは、チルゼパチド群で 36 例(9.9%)、プラセボ群で 56 例(15.3%)であった(ハザード比 0.62;95%信頼区間[confidence interval: CI], 0.41~0.95;P = 0.026)。

図 1. 心血管死または心不全の増悪の複合アウトカムの累積発生率
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2410027#f1

心不全イベントの悪化は、チルゼパチド群で 29 例(8.0%)、プラセボ群で 52 例(14.2%)に発生し(ハザード比 0.54;95%CI, 0.34~0.85)、心血管系の原因による判定死亡は、それぞれ 8 例(2.2%)、5 例(1.4%)に発生した(ハザード比 1.58;95%CI, 0.52~4.83)。

表 2. 主要および副次アウトカム
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2410027#t2

52 週時点の KCCQ-CSS の平均(±SD)変化は、プラセボ群の 12.7±1.3 に対し、チルゼパチド群で 19.5±1.2 であった(群間差、6.9;95%CI, 3.3~10.6;P <0.001)。

図 2. KCCQ-CSS の変化
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2410027#f3

試験薬の投与中止に至った有害事象(主に消化器系)は、チルゼパチド群で 23 例(6.3%)、プラセボ群で 5 例(1.4%)に発現した。

議論
SUMMIT 試験は、心血管系の原因による死亡と心不全の悪化イベントを、当初は機能的評価を含む複合エンドポイントの一部として評価し、後に単独の主要複合エンドポイントとして評価することにより、心不全の主要有害転帰に対するチルゼパチドの長期効果を前向きに評価するようにデザインされた。中央値 2 年間で、チルゼパチドはプラセボよりも主要複合エンドポイントイベントのリスクが低いことが観察された。この効果は、健康状態(KCCQ-CSS で評価)と運動耐容能(6 分間歩行距離で評価)の改善、体重と全身性炎症のマーカーである高感度 CRP 値の減少によって並行して認められた。これらの結果は、HFpEF 患者におけるセマグルチドの効果に関するメタアナリシスで報告されたものと同様であった。

以前の試験とは異なり、SUMMIT 試験では患者の組み入れ基準にナトリウム利尿ペプチド高値を入れなかった。なぜなら、肥満が原因の HFpEF 患者の多くでは、心充満圧が上昇し、機能障害がかなりあるにもかかわらず、これらのペプチドが有意に上昇することはないからである。 SUMMIT 試験におけるベースライン時の NT-proBNP 値の中央値は 200 pg/ml 未満であったが、患者は健康状態や運動耐容能に著明な制限があり、半数近くが過去 12 ヵ月以内に入院や点滴治療に至る心不全の悪化を経験していた。セマグルチドの肥満関連 HFpEF に対する効果を評価した STEP-HFpEF 試験に登録された患者は、ベースラインの NT-proBNP 値が SUMMIT 試験の患者の 2 倍であったが、SUMMIT 試験の方が心不全イベントを発症した患者の割合が高かった。2 つの主要エンドポイントに対するチルゼパチドの効果は、NT-proBNP 値が 200 pg/ml 未満の患者では減弱していないように思われた(図 3)。

図 3. 主要アウトカムについてのサブグループ解析
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2410027?logout=true#f3

これらの所見を総合すると、治療開始にはナトリウム利尿ペプチドの著明な上昇が必要であるため、肥満関連 HFpEF 患者の多くはチルゼパチドの恩恵から除外される可能性があることが示唆される。

胃腸症状はチルゼパチドでよくみられたが、一般に時間とともに消失し、治療中止に至った患者はわずか 4%であった。重篤な有害事象は両群で同程度の頻度で発生した。心血管系の原因による死亡と原因不明の死亡(HFpEF を対象とした他の試験のデザインとは対照的に、これらは心血管系の原因による死亡として一括りにされた)はチルゼパチド群で 10 例、プラセボ群で 5 例にみられたが、これらの死亡のうち心不全の悪化が先行したのは 4 例のみであり、HFpEF 患者における心血管系の原因による死亡は心不全の進行を反映していない可能性があるという前提に一致する所見であった。主要評価項目のうち、死因不明を除外した複合エンドポイントの解析結果は、報告された治療効果と一致していた。注目すべきは、長期転帰を評価した試験において、GLP-1 受容体作動薬による治療を受けた糖尿病または肥満の患者では、心血管系の原因による死亡およびあらゆる原因による死亡のリスクが減少していたことである。

チルゼパチドの効果は、おそらく脂肪量を減少させ、HFpEF の病態の根底にあると思われる血漿量の増加と炎症反応を減少させるチルゼパチドの能力に関連している。チルゼパチドを投与された患者では、セマグルチドを用いた試験で観察されたように、高感度 CRP 値が低下した。

チルゼパチドの効果は、おそらく脂肪量を減少させ、駆出率が維持された心不全の病態の根底にあると思われる、結果として生じる血漿量の膨張と炎症反応を減少させる能力に関連している。体重減少とは無関係に、GLP-1 受容体を刺激すると、脂肪細胞の炎症の状態を逆転させ、心筋の微小血管を減少させ、線維化を引き起こす脂肪細胞の能力を低下させる可能性がある。GIP 受容体は心外膜脂肪細胞に豊富であり、GLP-1 受容体作動薬に GIP 受容体作動薬を加えると、体重がさらに減少するだけでなく、隣接する心臓組織における炎症も抑制される可能性がある。チルゼパチドの収縮期血圧低下作用と心拍数増加作用は、HFpEF 患者における有益な効果に寄与している可能性がある。

本試験の重要な限界は、適格基準として BMI を 30 以上と規定したことである。しかし、HFpEF 患者の多くは、BMI は 30 未満であるが、過剰な内臓脂肪の指標としてより信頼性の高いウエスト-身長比の異常(すなわち、0.5 以上)を有している。

この試験では、駆出率が保たれ、肥満があり、機能障害を有する心不全患者において、週 1 回のチルゼパチド投与が中央値で 2 年間継続することにより、心不全イベントの悪化または心血管系の原因による死亡の複合リスクを減少させ、同時に健康状態を改善した。

元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2410027

心膜炎

2024-10-30 10:26:28 | 循環器

心膜炎についての総説

JAMA 2015; 314: 1498-1506

心膜炎の原因には感染性(細菌、ウイルス)と非感染性(全身性炎症症候群、癌、 心臓外傷後症候群)がある。発展途上国では結核が原因になることが多いが、先進国では原因の5%未満である。先進国では 80-90%が特発性で、ウイルス感染が原因だろうと考えられている。

心膜炎の診断は胸痛、心膜摩擦音、心電図所見、心嚢水の貯留を含む臨床所見に基づく。

38℃以上の発熱、亜急性の経過、大量の心嚢水貯留またはタンポナーデ、NSAIDs 無効は予後不良の予測因子であり、入院を検討するべきである。

北米および欧州においては、特発性あるいはウイルス性の心膜炎はほとんどの場合で NSAIDs で治療される。コルヒチンを併用すると症状緩和に有効で、再発の頻度をおよそ 50%低下させる。NSAIDs およびコルヒチンが無効の場合や禁忌である場合は、第二選択の治療として糖質コルチコイドを投与する。予防的治療を行わない場合は 30%で再発する。

元論文

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2456172


両側腎動脈狭窄の患者に ACE 阻害薬を投与すると一過性の低血圧後に反跳性の高血圧を来すことがある。

2024-08-30 12:18:03 | 循環器
アンジオテンシン変換酵素阻害薬による重度の高血圧:腎動脈狭窄の珍しい特徴
Hypertension 2009; 54: e17-e18

アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme: ACE)阻害薬は高血圧、心不全、腎疾患の治療に頻繁に使用されるが、腎動脈狭窄(renal artery stenosis)患者では急性腎不全を引き起こす可能性がある。我々は、進行した慢性腎臓病(chonic kidney disease: CKD)と RAS を持つ患者における ACE 阻害薬の新しい副作用について報告する。

我々は、CKD と両側腎動脈狭窄を持つ 3 人の患者において、ACE 阻害薬のラミプリル(ramipril)の開始または用量調整中に 4 回の重度の高血圧を観察した (表 1)。

表 1. 患者背景
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.109.137745?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed#TBL1

いずれの症例においても CKD の原因は、動脈硬化性腎血管疾患だった。また、血行動態的に有意な腎動脈狭窄については、3 患者においてドップラー超音波と腎血管造影で、2 患者においては磁気共鳴血管造影で証明されている。自動振動測定装置(Dinamap Proシリーズ, GE Healthcare)を使用した血圧測定では、ラミプリル投与後に一時的な低血圧または相対的な低血圧を認め、その後に反跳性に重度の高血圧が観察された(図 1)。

図 1. ラミプリル投与後の血圧低下と反跳性の高血圧
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.109.137745?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed#FIG1

この現象は、患者 1 ではラミプリルを 7.5 mg から 10.0 mg に増量した後に、患者 2 では 10.0 mg のラミプリル追加時に、患者 3 では 5.0 mg のラミプリル追加時に発生した。アンジオテンシン受容体拮抗薬を服用していたのは患者 2 のみだった。各症例でラミプリルを中止すると、血圧が低下し、降圧療法の必要性が減少した(図 2)。

図 2. 1 日の平均血圧はラミプリル開始後に悪化し、中止後に改善した。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.109.137745?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed#FIG2

患者 1 では、ACE 阻害薬を再投与した際に重度の高血圧が再発した。このエピソードでは、血圧 240/120 mmHg で高血圧性脳症と全身性発作を併発した。ラミプリル中止 2 日後、患者の収縮期血圧は単剤の降圧薬で 120-130 mmHg の範囲だった。

高血圧悪化の他の原因は除外された。維持透析中の 2 人の患者は、臨床検査で体液量が正常と考えられた。これらの患者の透析記録を確認しても、追加の限外濾過の指示はなく、体液過剰ではなかったと考えられる。3 人目の患者は毎日体重を測定し、ラミプリル開始後数日間で高血圧が悪化したにもかかわらず、体重は 1.2 kg 減少した。いずれの患者も、対象期間中に輸液は行われていない。ラミプリルの開始または用量調整中、他の降圧薬や組換えエリスロポエチンの用量は一定だった。

我々は、両側腎動脈狭窄と CKDがある場合に ACE 阻害薬療法に続発する重度の高血圧について述べる。メカニズムは不明だが、輸入細動脈が慢性的に閉塞している状況下で、ACE 阻害薬を投与すると糸球体内圧がさらに低下し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化をもたらす。その結果、反跳性の高レニン血症と高血圧を引き起こしたと我々は推測している。この仮説は、観察されたエピソード中の血漿レニン濃度の測定によって裏付けられる可能性がある。興味深いことに、患者 3 では、ACE 阻害薬投与後に高血圧発作と同時に急性腎不全を引き起こした。これらは、糸球体内圧の低下という同じプロセスによって媒介されると考えられ、ACE 阻害薬の副作用である可能性がある。臨床医は、腎動脈狭窄が知られているまたは疑われる患者を治療する際にこのことを認識しておく必要がある。

Edmond M. Cronin
Sean F. Leavey
John Francis Walker
腎臓内科
ウォーターフォード地域病院
ウォーターフォード、アイルランド

心膜炎

2024-06-19 10:32:51 | 循環器

心膜炎についての総説

JAMA 2015; 314: 1498-1506

心膜炎の原因には感染性(細菌、ウイルス)と非感染性(全身性炎症症候群、癌、 心臓外傷後症候群)がある。発展途上国では結核が原因になることが多いが、先進国では原因の5%未満である。先進国では 80-90%が特発性で、ウイルス感染が原因だろうと考えられている。

心膜炎の診断は胸痛、心膜摩擦音、心電図所見、心嚢水の貯留を含む臨床所見に基づく。

38℃以上の発熱、亜急性の経過、大量の心嚢水貯留またはタンポナーデ、NSAIDs 無効は予後不良の予測因子であり、入院を検討するべきである。

北米および欧州においては、特発性あるいはウイルス性の心膜炎はほとんどの場合で NSAIDs で治療される。コルヒチンを併用すると症状緩和に有効で、再発の頻度をおよそ 50%低下させる。NSAIDs およびコルヒチンが無効の場合や禁忌である場合は、第二選択の治療として糖質コルチコイドを投与する。予防的治療を行わない場合は 30%で再発する。

 

元論文

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2456172


徐脈の評価と治療

2024-06-19 10:29:25 | 循環器

徐脈の評価と管理

Trends Cardiovasc Med 2019; 30: 265-272

徐脈はしばしば遭遇する不整脈である。徐脈は一般に心拍数 50-60 /分未満と定義され、若いアスリートや健常な高齢者でも認めることがある。徐脈の原因は洞房結節、房室結節または刺激伝導系の異常である。徐脈が病的なものか否かは心拍数のみでは区別できず、症状の有無が重要である。心拍数が低いとか、心拍が何秒間か停止していたということだけでは治療の適応にはならない。

2018年の ACC/AHA/HRS による徐脈と伝導遅延についてのガイドラインは、それまでのガイドラインがペースメーカー留置の推奨について多くの紙幅が割かれていたのに対し、徐脈の評価と管理に力点が置かれるようになった。

徐脈の一般的な症状としては、失神、めまい、ふらつき、倦怠感、労作時呼吸困難、脳の低灌流による混乱がある。

 

1. 診察と検査

徐脈の患者を診たときには、修正可能な原因がないか、注意深く経過を確認し、身体診察を行う。また、薬剤歴を確認するべきである。

問診と身体診察を行ったら、12誘導心電図を行う。洞不全症候群や房室ブロック、脚ブロックが見つかるかもしれない。

心電図モニターはより長い期間心電図波形を確認できるので、徐脈の原因特定あるいは症状が心電図変化で説明できるものかを確認するのに有用である。

運動負荷心電図は虚血性心疾患の患者では勧められないが、運動に関連して一過的に症状が出現する患者や、無症候性の2度房室ブロック、変時性不全 (chronotropic incompetence; 運動時に反応性の心拍数の増加を認めないこと) の患者では検討しても良い。

徐脈患者における器質的な心疾患の検索は、臨床的に何が疑われて、その検査前確率はどれくらいかをよく考えて行う。

2018年の徐脈のガイドラインでは、新規に出現した左脚ブロック、Mobitz II 型房室ブロック、高度房室ブロックあるいは完全房室ブロックの患者では class I の推奨として経胸壁心臓超音波を行うべきとしている。

より高度で疾患特異的な画像検査、すなわち冠動脈 CT、心臓 MRI、シンチグラフィ、経食道心臓超音波は何が疑われて、何を除外したいのかを明確にして行うべきである。

器質的な心疾患の検査前確率が低い場合、例えば無症候性の洞性頻脈や特に心疾患を疑わせる所見がない I 度房室ブロックなどでは、画像検査は行う必要はない。

血液検査は病歴と身体所見から鑑別疾患を絞り込んだ上で特異的な項目を選択する。具体的な検査項目としては電解質、甲状腺ホルモン、ライム病ボレリア抗体 (ライム病患者の一部で房室ブロックを認めることがある) などである。

洞房結節異常や遺伝性の房室ブロックで SCN5A や HCN4 の遺伝子変異を認めることがあるが、遺伝子検査はあまり行われていない。遺伝子検査を行う場合は、遺伝子カウンセリングが受けられるようにように配慮する。

2. 睡眠時無呼吸症候群と徐脈

夜間の徐脈のよくある原因としては、睡眠時無呼吸症候群がある。睡眠時無呼吸症候群の患者では最大 40%で徐脈を認め、最大13%で II度または III 度の房室ブロックを認める。睡眠時無呼吸症候群を治療すると徐脈は 90%近く減少させることができる。

2018年の徐脈のガイドラインでは、夜間に徐脈を認める患者や睡眠障害が疑われる患者で睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングを行うことをクラス I の推奨としている。スクリーニング陽性の患者ではポリソムノグラフィーを行うか、専門科へのコンサルテーションを検討する。

徐脈を認めるのは夜間のみで、無症状の場合はペースメーカーが必要になることはない。

 

3. 心臓電気生理学的検査

徐脈に対して侵襲的な検査である心臓電気生理学的検査 (electrophysiology study: EPS) を行っても得られるものは少ないが、一部の洞不全症候群、房室ブロック、それらに関連する頻脈に対して EPS を行うことで有益な情報が得られるかもしれない。特に 2:1 の房室ブロックでは、EPS は病変が房室結節内にあるか、房室結節より下流の伝導路にあるかを鑑別するのに役立つ。一方、洞不全症候群では洞房結節回復時間が延長すると言われるが、これは感度も特異度も低い所見である。したがって、徐脈に対する EPS の臨床的な価値は限定的である。

 

4. 伝導障害の評価

フラミンガム研究では、左脚ブロックは心臓の器質的疾患および死亡率と関連することが示されている。徐脈の患者に左脚ブロックをともなう場合はまず経胸壁心臓超音波で器質的心疾患の検索を行うと良い。虚血性心疾患の危険因子や狭心症の症状をともなう場合は虚血性心疾患の検索を行うべきである。右脚ブロックについては、他に器質的な心疾患の存在を疑わせる所見がある場合や胸部症状がある場合を除いて精査は不要である。脚ブロックをともなう徐脈の患者で、徐脈による症状を認める場合は房室ブロックの存在を疑って心電図モニターを行うべきである。

 

5. 洞不全症候群の治療

2018年の徐脈のガイドラインでは、洞不全症候群を 1. 心拍数 50 /分未満または 2. 3秒超の洞停止と定義している。無症候性の洞不全症候群に対しては一般にペースメーカーの適応はない。

Multi-ethnic Study of Atherosclerosis (MESA) は、心拍数 50 /分未満の 45-84歳の男女 300名超を対象にしたコホート研究である。10年間の観察期間では、心疾患や死亡率は対照群と差がなかった。

一方、症候性の洞不全症候群については未治療の場合は、失神や心房細動、心不全のリスクであると報告されている。したがって、症候性の洞不全症候群では適切な治療がなされるべきである。症候性洞不全症候群の慢性期の治療の主力は恒久的ペースメーカー留置である。

一時的ペースメーカーが必要になることはほとんどない。いくつかの薬剤(アトロピン、イソプロテネロール、ドーパミン、ドブタミン、エピネフリン、カルシウム静注製剤、グルカゴン、高用量インスリン、アミノフィリン) は症候性の徐脈に対して使用できるが、救急診療に限っての使用にとどめるべきである。

恒久的ペースメーカーの適応となるのは、症候性洞不全症候群の他、症候性の変時性不全(労作時に洞房結節が反応しない)、頻脈徐脈症候群で徐脈による症状をともなう場合がある。

恒久性ペースメーカーを留置する場合は、atrial based pacing に設定するべきである。single chamber ventricular pacing と比較して、atrial pacing または dual chamber pacing は心房細動およびペースメーカー症候群のリスクが低いことが示されているからである。

 

元論文

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1050173819300933