法律・司法試験研究室

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手紙の書き方

2021年08月04日 | Weblog
「手紙」といっても、ここで説明したいのは単に交誼を結び、友好を深める「手紙」ではない。何らかの目的がある「手紙」である。弁護士の用語でいえば「ご連絡」といってもよい。

私は、弁護士の仕事を始めるまで、ほとんど手紙というものを書いたことがなかった。年賀状は毎年書いていたが、年賀状は書くことがだいたい決まっているうえ、相手のこともよく分かっている場合が多いため、意匠にこだわらなければ難しいことは特にない。

これに対して、弁護士の「手紙」は、自由度が極めて高いうえ、相手のことをほとんど知らない状態で書くことが多い。
弁護士の「手紙」の中で、ほとんど法律要件といえる「手紙」、たとえば内容証明郵便で特定の意思表示をするような「通知書」は、書くことが決まっているため、まだ書きやすい。何の意思表示をすればよいか、事実をどこまで書き、何を書かないか(!)に注意を払えばよい。

難しいのは、特定の意思表示をすることを目的としない、未知の相手との最初の通信としての「手紙」である。
これは、相手がどのように受け止めるか、相手にどのように受け止めてほしいかを考えて、工夫を凝らす必要がある。

前提として、多くの人は日常でほとんど手紙のやり取りをしない、という事実を念頭に置く必要がある。多くの人にとって、未知の人から郵便で手紙が届くこと自体が極めて稀な体験であり、緊張感をもたらす非日常的な事態である。
手紙の差出人が弁護士であれば、緊張感は飛躍的に高まることは、容易に想像できる。もし、何らかの警告をする目的の「手紙」であれば、この緊張感を最大限に活用することになる。

もし、そうでないのであれば、「手紙」の冒頭で、緊張感を和らげる努力が必要である。私はあなたに害をなす存在ではない、ということをまず理解してもらう。そうでないと、その先で何を言っても、敵の言葉として受け止められる。そして、人は、敵の言葉は拒絶するものである。
他方で、緊張感を和らげようとするあまり、用件をあいまいにすることは、効果的ではなく、かえって疑心を生じさせるもととなる。

そこで、冒頭の努力の次は、用件、すなわち、××の件であなたと話し合いたいということを明確に伝える必要がある。
相手と話し合うためには、本来は会うことが基本であるが、会うことは、電話と比較して、相手の時間を奪う度合いが大きい。物理的に遠方である場合もあるうえ、未知の人と会うこと自体が心理的な負担となる。
さらに、対面することのハードルはこの1年半でさらにかなり上がったといえよう。現実的には、まずは電話で話したい。

そこで、相手から電話番号を聞き出す必要がある。相手から電話をかけてもらい、電話番号を聞いたうえで私の方から電話したい、というのが丁寧な進め方ではないだろうか。
ビジネスで電話に慣れている人でない限り、未知の相手に電話をかけることも、かなりの緊張をもたらす行為である。何の義理もないのに、相手から電話をしてほしいと頼むのであるから、相手の負担、手数に対する配慮が必要であり、低姿勢でお願いすべきであろう。

最初の通信としては、ここまで書けば十分ではないだろうか。
最初から、長く丁寧に説明すればよいというものではないと思う。
まずは、相手の緊張を解き、何の件で話したい、電話がほしいということを伝え、実際に電話できたら、その次の段階で、説明が必要なことを書面でも口頭でも詳しく説明すればよい。
そして、「手紙」に対して反応がない場合でも、怒ってはならない。
法的な手段があれば、黙って法的な手段をとろう。
法的な手段がなければ、次の「手紙」を出すか、諦めるか。どこかで見切りをつける必要がある。

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