民事裁判については,教官室が二回試験の出題形式を模索しているようです。
ここでの考察は,新64期までの,古い情報をもとにしていますので,それを前提に読んでください。
***
民事裁判は,大きく分けて2つの出題形式があります。
1つは「主張整理」で,もう1つは「事実認定」です。
***
「主張整理」で問われるのは,いわゆる要件事実です。
要件事実については,おそらく全部の法科大学院でカリキュラムに組み込まれているものと思われます。
したがって,何をやったらいいか分からない司法修習生は,いないのではないでしょうか。
もっとも,新65期から,要件事実のバイブル的な存在だった「紛争類型別の要件事実」が白表紙に含まれていないという情報があります。
また,新64期ですら,新63期以前の先輩から得ていた試験情報とは異なる形式による出題がなされています。
他方,新65期では,改訂された「問題研究要件事実」が白表紙に含まれているとの情報があります。
これらのことから推測すると…
教官室としては,要件事実の知識を問いたい。
しかし,暗記したものを吐き出させるだけでは意味がない。
暗記による対策を防ぐために,非典型契約による応用的な出題をすることが考えられるが,要件事実に関するマニュアル本の充実により,暗記でカバーできる範囲が広がっており,これ以上応用的な出題をするのは記録の制約上無理がある。
そこで,形式をまめに変えることで,丸暗記のみによる対策を防ぎ,要件事実を考えさせよう。
…こういうことではないでしょうか。
もっとも,「事実認定」問題を解く上でも,民事弁護の問題を解く上でも,前提として主張整理をする必要があり,必ずしも「主張整理」問題を設けなくても,要件事実の知識を間接的に問うことは可能です。
そうすると,「主張整理」問題は,場合によってはなくなる年もあるのかもしれません。
ところで,法科大学院においても,研修所においても,民裁の指導者は,よく,「要件事実は暗記するものではない」というようなことをおっしゃいます(たとえば,「要件事実論30講第2版」「はしがき」21行目)。
しかし,その趣旨は,「暗記してはならない。暗記しても意味がない」ということではなく,「暗記せよ。暗記することには意味がある。ただし,それだけでは足りない。」という意味だと思います。
実際,類型別(新65期であれば,「問題研究」)程度のことが暗記できていないと,要件事実について正しい方法で考えることができないと思います。
ちなみに,私は,二回試験で,類型別に載っている要件事実を間違え,しっかり暗記しておけばよかったと悔やみました。
もっとも,その間違え方は,研修所説とは違うものの,民法の解釈としてあり得ないものではないと考えられる部分なので,その点で致命的ではなかったのかもしれません。
「主張整理」対策としては,「問題研究要件事実」「類型別」(市販はされている。)「要件事実論30講」などを読んでおくことに尽きると思います。
***
問題は,「事実認定」です。
これについては,今後も間違いなく二回試験の出題の中心であり続けます。
要件事実と異なり,法科大学院では,一般に,民事事実認定を学ぶ機会が多くありません。
私は,必修科目では学びませんでしたし,選択科目でも,ほんのわずかに学んだ程度です。
学んだといっても,研修所で習うような,筋道だったものではありませんでした。
したがって,対策の必要性も高いと言えます。
民事裁判でも刑事裁判でも,事実認定は「動かし難い事実」を認定することから始まります。
民事裁判では,「動かし難い事実」とは,要証事実を推認するにあたり積極方向又は消極方向に働く重要な事実であって,推認の過程を経ないで認定することができるものをいう,と定義できると思います(この定義は私見。適宜修正します。)。
動かし難い事実には,認定根拠によって,以下の種類があります(「民事訴訟における事実認定」P25,「ステップアップ民事事実認定」P45)。
①処分証書,重要な報告文書の存否及びその内容たる事実
②主張レベルで,当事者間に争いのない事実
③客観的な証拠により認定できる事実
④証拠レベルで,当事者本人双方の供述が一致する事実
⑤一方当事者の自己に不利益な供述にかかる事実
このうち,私がポイントとして指摘したいのは①と⑤です。
①は,書証については内容に目が行きがちですが,存否や,作成経緯ということは見落としがちです。時系列表の中に位置づけてみて,その存否や作成経緯から何か推認できないか考える癖をつけるべきだと思います。
⑤は,本人尋問の中の,反対尋問や補充尋問をよく見ると,意外に頻繁に,重要な事実が転がっています。
これを探す癖をつけるべきだと思います。
この癖がつくと,結論レベルでは絶対に崩れない当事者も,動かし難い事実レベルではいとも簡単に崩れてしまうことが分かります。そして,これは,尋問の存在意義,反対尋問のポイントにもつながっていると思います。
「動かし難い事実」は,要証事実(≠主要事実)との関係で積極方向,消極方向の2グループに分けられます。
したがって,積極,消極それぞれに分けて列挙し,意味づけをします。
その上で,それぞれのグループの中でどの事実とどの事実を組み合わせたらどういうことが推認できるのか,自己の結論と反対の方向(積極方向又は消極方向)のストーリーを阻害するかなどを論じます。
この点は,それぞれの個々の事実の意味づけができていれば,自ずと方向性は決まってくるはずです。
「事実認定」対策としては,以下の書籍を読んだ上で,修習中に接する民事事件の記録から,「動かし難い事実」を発見する訓練をするとよいと思います。
「ステップアップ民事事実認定」土屋ほか編(有斐閣)
「民事訴訟における事実認定」司法研修所編(法曹会)
ここでの考察は,新64期までの,古い情報をもとにしていますので,それを前提に読んでください。
***
民事裁判は,大きく分けて2つの出題形式があります。
1つは「主張整理」で,もう1つは「事実認定」です。
***
「主張整理」で問われるのは,いわゆる要件事実です。
要件事実については,おそらく全部の法科大学院でカリキュラムに組み込まれているものと思われます。
したがって,何をやったらいいか分からない司法修習生は,いないのではないでしょうか。
もっとも,新65期から,要件事実のバイブル的な存在だった「紛争類型別の要件事実」が白表紙に含まれていないという情報があります。
また,新64期ですら,新63期以前の先輩から得ていた試験情報とは異なる形式による出題がなされています。
他方,新65期では,改訂された「問題研究要件事実」が白表紙に含まれているとの情報があります。
これらのことから推測すると…
教官室としては,要件事実の知識を問いたい。
しかし,暗記したものを吐き出させるだけでは意味がない。
暗記による対策を防ぐために,非典型契約による応用的な出題をすることが考えられるが,要件事実に関するマニュアル本の充実により,暗記でカバーできる範囲が広がっており,これ以上応用的な出題をするのは記録の制約上無理がある。
そこで,形式をまめに変えることで,丸暗記のみによる対策を防ぎ,要件事実を考えさせよう。
…こういうことではないでしょうか。
もっとも,「事実認定」問題を解く上でも,民事弁護の問題を解く上でも,前提として主張整理をする必要があり,必ずしも「主張整理」問題を設けなくても,要件事実の知識を間接的に問うことは可能です。
そうすると,「主張整理」問題は,場合によってはなくなる年もあるのかもしれません。
ところで,法科大学院においても,研修所においても,民裁の指導者は,よく,「要件事実は暗記するものではない」というようなことをおっしゃいます(たとえば,「要件事実論30講第2版」「はしがき」21行目)。
しかし,その趣旨は,「暗記してはならない。暗記しても意味がない」ということではなく,「暗記せよ。暗記することには意味がある。ただし,それだけでは足りない。」という意味だと思います。
実際,類型別(新65期であれば,「問題研究」)程度のことが暗記できていないと,要件事実について正しい方法で考えることができないと思います。
ちなみに,私は,二回試験で,類型別に載っている要件事実を間違え,しっかり暗記しておけばよかったと悔やみました。
もっとも,その間違え方は,研修所説とは違うものの,民法の解釈としてあり得ないものではないと考えられる部分なので,その点で致命的ではなかったのかもしれません。
「主張整理」対策としては,「問題研究要件事実」「類型別」(市販はされている。)「要件事実論30講」などを読んでおくことに尽きると思います。
***
問題は,「事実認定」です。
これについては,今後も間違いなく二回試験の出題の中心であり続けます。
要件事実と異なり,法科大学院では,一般に,民事事実認定を学ぶ機会が多くありません。
私は,必修科目では学びませんでしたし,選択科目でも,ほんのわずかに学んだ程度です。
学んだといっても,研修所で習うような,筋道だったものではありませんでした。
したがって,対策の必要性も高いと言えます。
民事裁判でも刑事裁判でも,事実認定は「動かし難い事実」を認定することから始まります。
民事裁判では,「動かし難い事実」とは,要証事実を推認するにあたり積極方向又は消極方向に働く重要な事実であって,推認の過程を経ないで認定することができるものをいう,と定義できると思います(この定義は私見。適宜修正します。)。
動かし難い事実には,認定根拠によって,以下の種類があります(「民事訴訟における事実認定」P25,「ステップアップ民事事実認定」P45)。
①処分証書,重要な報告文書の存否及びその内容たる事実
②主張レベルで,当事者間に争いのない事実
③客観的な証拠により認定できる事実
④証拠レベルで,当事者本人双方の供述が一致する事実
⑤一方当事者の自己に不利益な供述にかかる事実
このうち,私がポイントとして指摘したいのは①と⑤です。
①は,書証については内容に目が行きがちですが,存否や,作成経緯ということは見落としがちです。時系列表の中に位置づけてみて,その存否や作成経緯から何か推認できないか考える癖をつけるべきだと思います。
⑤は,本人尋問の中の,反対尋問や補充尋問をよく見ると,意外に頻繁に,重要な事実が転がっています。
これを探す癖をつけるべきだと思います。
この癖がつくと,結論レベルでは絶対に崩れない当事者も,動かし難い事実レベルではいとも簡単に崩れてしまうことが分かります。そして,これは,尋問の存在意義,反対尋問のポイントにもつながっていると思います。
「動かし難い事実」は,要証事実(≠主要事実)との関係で積極方向,消極方向の2グループに分けられます。
したがって,積極,消極それぞれに分けて列挙し,意味づけをします。
その上で,それぞれのグループの中でどの事実とどの事実を組み合わせたらどういうことが推認できるのか,自己の結論と反対の方向(積極方向又は消極方向)のストーリーを阻害するかなどを論じます。
この点は,それぞれの個々の事実の意味づけができていれば,自ずと方向性は決まってくるはずです。
「事実認定」対策としては,以下の書籍を読んだ上で,修習中に接する民事事件の記録から,「動かし難い事実」を発見する訓練をするとよいと思います。
「ステップアップ民事事実認定」土屋ほか編(有斐閣)
「民事訴訟における事実認定」司法研修所編(法曹会)