Dark matter, Hawking radiation, black holes,

Approaching the Identity of Dark Matter

その1・素粒子物理学の展望:セルンの1

2024-04-19 | 日記

少々LHCの歴史を振り返ってみれば・・・

「LHC再稼働、ヒッグス粒子の次は?」:2014.06.: https://archive.md/R7xMQ :

「問われる究極理論への道すじ」:日経サイエンス  2014年8月号: https://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/~asai/201408_044.pdf :

崖っぷちの超対称性理論:日経サイエンス  2014年8月号: https://www.nikkei-science.com/201408_034.html : https://archive.md/YFPmg :

2014年ころは超対称性理論にまだそれなりの期待がかかっており

『大型ハドロン衝突型加速器LHCの実験で,超対称性理論の証拠となる超対称性粒子が探索されているが,第1期実験では発見されなかった。2015年から始まる第2期実験でも発見できなければ,超対称性理論は窮地に立たされ,物理学は危機に陥る。数十年間にわたって築き上げられた素粒子物理学の枠組みが根本から問い直される事態になるからだ。』

とLHCの第2期実験(2015年~2018年)に望みをつないでいた。

 

ちなみにその頃の文部科学省の資料にも加速器実験(LHC)での発見を期待していた記述がある。

「素粒子実験の目的と現在の姿(3):標準理論では説明できないこと」(2015/07):https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/038/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/07/06/1359433_09_1.pdf :の3ページ目に

『①加速器実験
大統一理論を矛盾なく説明することができる超対称性理論の、有力な証拠となる超対称性粒子を加速器実験によって直接探索する
• 大統一が本当に起こるのかを検証』という記述がある。

これはあきらかに日本も参加しているLHCの実験を指している。

しかしながら2021年のセルンのLHC報告では残念ながら「ゼロ回答」だったのである。

 

「Where are all the squarks and gluinos?:スクオークとグルイーノはどこにいますか?」:2021年1月11日:ポール・サッター著:
: https://archive.md/U0flE :

『超対称性とは、自然界の基本的な粒子が深い関係を通じてつながっているという考えです。この理論は、世界最大の衝突型加速器実験における真新しい粒子の存在を予測します。 
しかし、最近の報告によると、超対称性の兆候は見られず、理論は少し不安定になっているようです。・・・

私たちの宇宙で対称性が明らかになっていないのは、対称性が破れているからです。遠い昔、宇宙がもっと熱くて密度が高かったとき、この対称性は生き残ることができました。しかし、宇宙が膨張するにつれて冷却されて対称性が破れ、フェルミオンとボソンが分裂しました。対称性の破れにより、すべての超対称性双生児の質量が大幅に膨張しました。素粒子物理学の世界では、質量が大きいほど不安定になります。
超対称性の領域にアクセスして初期宇宙の状態を再現する唯一の方法。たとえば、巨大粒子衝突型加速器のようなものです。

大型ハドロン衝突型加速器(LHC) は、その名前が示すように、巨大粒子衝突型加速器です。粒子をほぼ光の速度まで加速し、粒子を衝突させて、可能な限り最高のエネルギーを達成することができます。これは、ビッグバンの最初の瞬間以来、宇宙では見られなかった状態です。大型ハドロン衝突型加速器は、衝突破片の中に超対称粒子パートナーの証拠を見つけることで、超対称性の兆候を探すように明示的に設計されました。
 
LHC の検出器の 1 つは、「トロイダル LHC 装置」を意味する ATLAS と呼ばれています (確かに、頭字語としては少しぎこちないですが、素晴らしい名前です)。世界中の何百人もの科学者で構成される ATLAS 共同研究は、プレプリントジャーナル arXiv に掲載された論文で、超対称性の探索における最新の発見を発表しました。(注1)
 
そしてその結果は?何もない。灘。ジルチ。ゼロ。And their results? Nothing. Nada. Zilch. Zero.
 
何年にもわたる探索と無数の衝突から蓄積されたデータのロードを経ても、超対称性粒子の兆候はありません。実際、多くの超対称性モデルは現在完全に除外されており、有効な理論的アイデアはほとんどありません。
 
超対称性は何十年にもわたって理論家から広く支持されてきましたが(彼らはしばしば超対称性を宇宙の理解を進めるための明白な次のステップとして描写しました)、LHCが始動して以来、この理論は薄氷の上にありました。
しかし、こうした初期の疑わしい結果にもかかわらず、理論家たちは、理論調整の何らかのモデルが衝突型加速器実験内で肯定的な結果を生み出すことを期待していました。(引用注:が、残念ながらそれは2024年時点では、見つかっていません。)
 
超対称性の考えられるすべてのモデルが除外されたわけではありませんが、理論の将来には重大な疑問があります。
そして、物理学者は長年にわたって超対称性に多大な時間とエネルギーを投資してきたため、魅力的な代替案はあまりありません。
 
超対称性のない宇宙では、物理学は今後どこへ向かうのでしょうか?
時間 (そして多くの計算) が教えてくれるでしょう。
 
 
Paul M. Sutter はニューヨーク州立大学ストーニー ブルックとフラットアイアン研究所の天体物理学者であり、 「Ask a Spaceman」「Space Radio」の司会者であり、「How to Die in Space 」の著者でもあります。彼はこの記事を Space.com のExpert Voices: Opinions and Insightsに寄稿しました。』
 
注1:プレプリントジャーナル arXiv に掲載された論文 :<--クリックで飛びます。
結果は『ATLAS 実験によって、質量中心エネルギーでの陽子-陽子衝突で記録されたものです。s√= 大型ハドロン衝突型加速器の実験 2 では 13 TeV、』

「13 TeVまで探したが何もない」が結論です。

このページの右側、Access Paper:View PDF をクリックすることで論文の全文が入手できます。

: https://arxiv.org/pdf/2010.14293.pdf :

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上記の内容についてわかりやすく(?)まとめた記事がナゾロジーにあります。: https://nazology.net/archives/79627 :2021.01.27:

で、上記記事では広告が邪魔でページも3ページに分割されている。なのでそれを1ページにまとめて見やすくしたものがこれです。: https://archive.md/nN5Da :

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さてそれで、そのような状況を受けて次のような記事もあります。

「暗黒物質の有力候補の一つとして超対称性粒子がありましたが、最近ではSUSYは実験で旗色が悪いと聞きました。実際のところ、暗黒物質候補としてのSUSYは業界内でどれくらい支持されているのでしょうか?」:2022/11/25: https://archive.md/UNjfB :

暗黒物質(ダークマター)は超対称性粒子に違いない! 素粒子業界がそんな空気に包まれていた時期も確かにありました。でも科学にとって重要なのは支持率ではなく実験事実です。現状、 超対称性粒子を支持する証拠ありません。以上。でも、それで終わってしまっては少しさみしいので、どういうことだったか少し振り返ってみましょうか。

超対称性をもつ素粒子模型がもてはやされていたのにはいくつかの理由があります。

・素粒子標準模型に含まれるヒッグス場は強い紫外発散を生ずる。くりこみ理論の処方箋にしたがって発散を消すことはできるが、理論のもつパラメータを微調整することになって気持ち悪い(階層性問題)。超対称性があれば、もっとも強い紫外発散を打ち消してくれるので気持ち悪さが軽減される。

・ここで超対称性をもちこむと、電磁気力、強い力、弱い力の3つの結合定数が高エネルギーでぴったり一致するするところがある。これは大統一理論につながっているはずだ。

・既知の素粒子すべてに対応する超対称性粒子があらわれ、そのうちの最も軽い粒子は他の粒子に壊れることができない。こうして残ったものは暗黒物質にぴったり。

・階層性問題を解決するには、超対称性粒子はヒッグス粒子の質量よりそんなに重いはずはない。このくらいの質量をもつ粒子が宇宙初期に作られる量は、予想される暗黒物質の量に近い

・超対称性模型には数多くのパラメータが含まれ、当時問題になっていたいくつかのアノマリー(標準模型と実験のずれ)を説明するのに十分だ。

他にもあるかもしれません。でも、この模型が流行した心理的な理由の一つは「本当ならLHC実験で見つかる!」という事実です。

階層性問題を解決するとしたら、LHC実験で手が届くエネルギーにあるはず。

近い将来検証できるというのは、模型を作る側と実験プロジェクトを進める側、両方にとっては大きなモチベーションになります。大いに宣伝されて持ち上げられた結果、超対称性粒子はすぐに見つかるという雰囲気が(少なくとも傍目には)作られていきました。私は行き過ぎた宣伝だったと思っています。

そして現在。LHC実験ではこれまでのところ超対称性粒子の証拠は見つかっていません。あると思っていた質量領域には何もない。もちろん、可能なパラメータをすべて探し切ったわけではありません。でも、少なくとも有望だと思われていた領域にはどこにもない。「旗色が悪い」というのはこうした状況を指しておられるのだと思います。完全に否定されたわけではないけど、可能性は大幅に後退したのです。

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で、こんな記事もあります。

「数学に魅せられて、科学を見失う」:ザビーネ・ホッセンフェルダー:発売⽇: 2021/04/13: https://archive.md/ETval :

『・・・最後まで未発見だったヒッグス粒子は2012年に実験的に存在が確認されたが、理論的に提唱されたのは1964年。その検証には50年にわたる多くの研究者の努力と熱意の蓄積が必要だった。
 にもかかわらず物理学者の多くは、この標準模型にはまだ美しさが足りないと満足していない。異なる性質を持つ素粒子が継ぎはぎ状にまとめられたままだからだ。

 物理学者は、これまで発見された物理法則は、美しい数学を用いて自然に説明できることを学んできた。それを通じた感激と成功体験が、この標準模型の先にあるはずの深く美しい理論の存在を信ずる根拠なのだ。おかげで世界中の秀才たちが、こぞって大統一理論、超対称性理論、超弦理論などの難解な理論の構築を目指してきた。

 しかし、ヒッグス粒子発見の例からもわかるように、仮にそれらが正しいとしても、実験的証明は極めて困難である。残念ながら、研究を進める拠(よ)り所(どころ)は数学的な美しさしかない。彼らは口々に「これほど美しい理論が正しくないはずがない」と言う。果たして本当だろうか。それが過去の成功体験による幻想だとしたら……

 美的感覚を信じて素粒子理論を研究してきた著者は、やがてそれに強い違和感を抱き世界中の著名な素粒子理論物理学者たちに直接インタビューし、その疑問を率直にぶつけてまわる。結局のところ著者は納得できないままなのだが、交わされた対話の端々から、物理学者の多様な価値観を垣間見ることができ、極めて興味深い。・・・』

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/m2wTT

 


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