たまたま図書館で「在日韓国・朝鮮人」(福岡安則著 中公新書1993年)なる本を見つけて、読み始めた。頑固爺は、在日コリアン(韓国・北朝鮮国籍で日本に居住している人々)が、なぜ帰化しないのかについて興味をもっているからである。
ところが、導入部分の“第1章「在日」の歴史”にとんでもない記述を見つけた。原文から引用する。(下線を施したのは頑固爺)
1910年、日本は韓国を併合した。そして、過酷な植民地支配政策を展開していった。たとえば、「土地調査事業」(1910-18年)の名のもとに朝鮮の土地の多くを簒奪した。さらに、「産米増殖計画」(1920-34年)を実施し、増産を実現したが、膨大な量の米穀を日本内地に奪い取ることで、朝鮮をとりわけ農村社会をいっそう困窮状態に陥れた。こうして、生活基盤を解体され、生活に困窮した多くの朝鮮人は、仕事を求めて、故郷を後にせざるをえない境遇に追い込まれていった。(同書22ページ)
この歴史認識は韓国の歴史教科書そのものである。まるきり全体が嘘だが、特に下線部分については、韓国の李栄薫ソウル大名誉教授が韓国語(日本語に翻訳)で語るYouTubeの講義を聞いてもらえば、これがいかにとんでもない見解であるかがわかるだろう。
同書の嘘は上の記述ばかりではない。次のような記述もある。
戦時体制下の1939年からは、多数の朝鮮人が日本に「強制連行」(「募集」「官斡旋」「徴用」)され、よりいっそう過酷な条件下での労働を強制された。また、この時期に、日本軍が大勢の「朝鮮人従軍慰安婦」を強制的に狩りだしたことも周知のとおりだ。
「強制連行」の内訳として、「徴用」はともかく、「募集」「官斡旋」を含めていることは、論理的に誤りである(25ページ)。また、「過酷な条件」であっても、正当な賃金を得ていたし、日本人も同じ条件で働いていた。この著者は日本を加害者、コリアンを被害者とする前提で全体の論旨を組み立てているから、中立性に欠ける結果になった。
なお、「日本軍が従軍慰安婦を強制的に狩りだした」という部分も大嘘だが、同書が出版された1993年時点では、「日本軍による拉致」をまだ信じていた人も多かったと思われるので、著者を責めることはできない。
ともあれ、私が疑問に思うことは、東京大学で社会学を研究した錚々たる有識者の福岡安則氏が、なぜ歪曲された歴史を信じ込んでいたかである。まさか、朝鮮学校で学んだということではあるまい(笑)。
さらに、出版社の中央公論の校閲担当者も同じような歴史観を持っていたことになるが、中央公論社はどう説明するのか。
「在日韓国・朝鮮人」のあとがきによれば、著者はその「在日韓国・朝鮮人問題をめぐる社会学的研究」に対し、文部科学省の助成金を受けたとあるが、日本政府はとんでもない無駄使いをしたようだ(笑)。
福岡氏や中央公論社が惑わされたということは、同じような人々がほかにも沢山いたであろうと想像する。彼らがその後、歴史認識を修正したことを願うのみである。
ところで、この「在日韓国・朝鮮人」の主たるテーマは、「在日」の聞き取り調査の結果をまとめることだが、頑固爺は歴史認識の誤りに気づいた時点で読むことを断念したので、その本論部分は読んでいない。ことによると本論は優れた著作なのかもしれない。念のため付言する次第である。