佐渡金山は2010年にユネスコ世界文化遺産の暫定リストに登録されて以来、保留になっていたが今回ようやく候補に選ばれ、最終審査に入ることになった。
それはご同慶だが、韓国は佐渡金山登録問題を日本非難の絶好のチャンスと捉え、待ち構えている感がある。実際に、端島(軍艦島)が世界文化遺産に登録された時、韓国はマイナスキャンペーンを展開し、一定の成果を収めたからである。
韓国のハンギョレ新聞は12月29日と1月4日に佐渡金山の件を大きく報じて、次の問題点を指摘している。以下、ハンギョレの記事からの引用である。(赤字)
(1)佐渡金山における朝鮮人労働者の存在
佐渡金山での朝鮮人強制動員は1939年2月に始まった。以後、1942年3月まで6回にわたって1005人を募集で連れて来るなど、計1200人を強制動員*した。
(注)「募集」と「強制動員」は互いに矛盾する概念であることにハンギョレの記者は気づいていないのだろうか。それはともかく、強制動員(徴用)が始まったのは戦争末期の1944年以降であり、1942年は募集による動員だったから、ハンギョレの認識は誤りである。
(2)軍艦島登録の際のユネスコの警告
2015年に端島(軍艦島)を登録する際、朝鮮人強制動員の歴史など、遺産に関する「歴史全体」を伝えるという約束を自ら破り、ユネスコから警告*を受けた事実がある。
(注)日本の当局がユネスコから警告を受けたことは新聞で報じられたが、日本側の対応についての報道はなかったように思う。
佐渡金山は戦後の1952年に大幅に縮小され、1989年に閉山したが、第二次大戦当時、労働者の中に朝鮮半島出身者もいたことは事実である。韓国はその労働条件が苛酷だったことを根拠に日本を貶めることを狙っていると思われる。
さて、この佐渡金山の世界文化遺産申請は日本にとって、マイナス要素の方が大きいと判断する。その理由は(1)ユネスコが信頼できないこと(2)現代の価値観と過去の価値観が異なること。
軍艦島の件では、ユネスコは日本に対し“歴史全体を伝えていない”と警告したが、その警告は事実上、“韓国の言い分を十分に取り入れていない“と言っているに等しい。つまり、韓国のマイナスキャンペーンが奏功したのである。
過去にも国連は、クマラスワミ報告で慰安婦が日本軍に拉致されたと断定したことがあり、韓国・中国の主張をそのまま採用する傾向がある(「国連の正体」藤井厳喜著)。
残念ながら、日本は国連におけるプロパガンダ戦争に負けているのである。また、国連における議論において、日本代表が日弁連であり、そのリーダー格は戸塚悦郎というバリバリの反日闘士であることも日本のマイナス材料である。
●現代と過去の価値観の差
韓国はこの案件を「人権無視」という観点から攻撃してくるだろう。昔の価値観では当たり前だったことでも、現代の価値観では人権無視と判断されることがあるのが日本の不利な要素である。
例えば、2014.年に朝日新聞が慰安婦拉致の誤報を認めた時、その同じ紙面で朝日新聞は「慰安婦問題の本質は人権問題だ」と論点のすり替えを図った。戦前は、売春は合法だったのだから、朝日の主張は理屈に合わない。問題点は、知見が十分あるはずの朝日新聞の記者でさえ、こんなミステークを冒すことである。この例からしても、人間だれしも過去の出来事を現在の価値観で判断する傾向があると考えざるをえない。
ともあれ、韓国は現代と過去の価値観の違いを無視して、人権無視を言い募るであろうことは容易に予想できる。仮に、日本がこの論争に勝ったとしても、ネガティヴ感が薄まるだけで、ポジティヴ感に変わるわけではない。
一方、佐渡金山を世界文化遺産として登録するメリットは何か。言うまでもなく、観光資源としての格が上がることである。たしかにそれはメリットだが、人権無視国家として印象づけられるデメリットと天秤にかければ、デメリットの方がはるかに大きい。
ここで爺がゴチャゴチャ言っても、日本は佐渡金山の世界文化遺産登録を推進だろう。それはやむをえないが、せめて歴史的データを十分に用意し、また軍艦島の議論を復習し、韓国を論破できる態勢をしっかり整えて、論戦に臨んでほしいと願う。