風の回廊

風を感じたら気ままに書こうと思う。

月明りで過ごす……スーパームーンの夜

2011年03月23日 | エッセイ
無計画な計画停電が、今のところ休日以外毎日やってくる。スーパームーンの前日、僕が住んでいる区域は、夕方6時半頃から9時近くまで実施された。停電が始まるまでに、家族全員お風呂と夕食を済ませる。僕は、ランタンと懐中電灯と炭火を用意する。やがて照明が消える……

真っ暗になったところで僕は、居間のカーテンを勢いよく開ける。静かな歓声が起る。
東の空から放たれた月明かりが、居間の中程まで鋭角に照らした瞬間……
静かな歓声の後、どよめきは起らない。まるで魔法にかかったように鎮静する。たぶん気の利いた魔法使いの少女が、銀色の魔法の杖をさっと振り、大人にも子供にも安心感を与えたのだと思う。その証拠に夜の停電に不安を感じていたはずの子どもたちの表情から不安が消えている。
テラス窓の上部に見えるスーパームーンに近い月に視線が注がれ、それぞれの表情に、白い明りが注いでいる。
魔法に加え美しく神秘的な明りを放つ月が、“癒し”を与えてくれたようだ。
月はそっと癒し、優しい時間を創ってくれる。

白い月明りの中で、古い年代物の火鉢に熾した炭火が、静かに燃えている。燃えているという表現は正しくない。熾きている、というのが正しい。炭は燃やすものではなく熾すもの。
緋色から赤炭色の熾き火のグラデーションが、重ねた切り炭の間に生まれている。その熾き火を、オフホワイトのシルクのショールのような月明かりが覆う。

優しい沈黙が続いた後、炭火に手をかざしながら、いつもよりトーンの落ちた声で、静かで優しい会話が続いた。
停電も取り組み方によっては捨てたものではない。月明りで過ごす優しい夜……

翌日のスーパームーンの夜も炭火を熾し、照明を消す。そしてカーテンを開ける。昨日よりも少し鮮明な白い光が、家族の顔に注いだ……
その夜は、気の利いた魔法使いの少女は現れなかった。もう不安が生まれることがないと知っていたからだ。こうして、月明りに照らされる優しい夜が始まる。

そして今夜、無計画な計画停電が始まってから二度目の夜の停電が始まる。
すでに準備は整えつつある。炭を熾すのにさほどの時間はかからない。なぜなら僕の趣味は焚き火だからだ。ちゃんとプロフィールにも記載している。
炭を熾すのも、焚き火に含まれる。僕はそう解釈しているし、実際得意中の得意だ。
いずれにせよ、月明りと炭火さえあれば、停電でも優しい夜が過ごせる……


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ランタンの灯りは、停電時ではそれほど珍しくないアイテムだと思いますが、炭火で暖をとる、というというのは、想定外の人もいると思います。
僕の家では、主暖房は石油を熱源とし、温水を回す床暖房です。ただし、L、DKしか施していないので、個室の暖房は、古典的な反射式石油ストーブかエアコンです。
ファンヒーターは、全員喉を痛める傾向にあるので却下。
それぞれの部屋では、それぞれが勝手に、たった2種類という限定的な選択をして過ごしています。

僕も夜ひとりで部屋で過ごすことがある……
僕は1シーズン前の冬から、実は炭火を愛用していたんですね。祖父母が遠い時代に使っていた火鉢から適当なものを選び炭を熾す。
これをPCが置いてあるカウンターの下に置き、手をかざすのではなく足をかざすんです。
頭寒足熱という貝原益軒の『養生訓』的なささやかな暖房……
実はこの暖房、足元は十分過ぎるほど暖かいんだけど、真冬の冷たい夜には背中と手はすこぶる寒い。でも我慢しながら2シーズンを乗り切りました!
頭寒足熱で頭が冴えると思ったけれど冴えぬまま。
こんな暖房は、家族に推薦できても強制はできません。でも、停電の夜は、消極的に賛成してくれた。

僕がなぜこのような愚挙とも言えるような姿勢を貫いたかと言えば、ひとつには趣味が焚き火だから。その温もりと情緒に何とも言えぬ魅力を感じているから。
そして、わりと早く環境共生型の自然素材100%の住まいの設計と施工を実践してきたからです。
環境共生住宅は、省エネでなければいけません。主暖房としての選択肢は炭火に求められないけど、補助暖房としての可能性があるのではないか……そんな実験的な要素もあったのです。

僕がこの地域の環境条件の中で造る住まいに、エアコンは推奨しません。
夫婦の寝室ともう一部屋(たいてい居間に連なる和室)に設置を薦めるだけです。
自然の摂理を活かし、外から入る風と仮に風がなくても、空気が流れる道を作り、室内でささやかな風を生み出し、日影の原理を取り入れ、無垢板や珪藻土など自然素材で内装し、これまた自然素材である羊毛断熱材でしっかり断熱すれば、内陸特有の夏の暑さのこの地域でも、ほとんどエアコンは必要ありません。
(詳細はいずれまた……)
ある家族は、一度もエアコンを使ったことがない。「無駄だった」と言うし、他の家庭も使ってもたいていひと夏10回程度だそうです。

夏はこれでいいんだけど、冬は暖房なし、というわけにはいきません。
僕が推奨するのは、まず薪ストーブ。でもほとんどの人は薪割りは得意じゃない。そういう人には、ペレットストーブ(マンションでも設置可能。わずかな電気を使用し環境に負荷のないペレットを燃やす薪ストーブ型の専用ストーブ暖房)を推奨。
この二つは、50坪くらいの家なら、これだけで暖房は十分!(もちろん2階の個室もOK!というか2階の方が早く暖まる―もちろん、それを可能にする設計が必要です)

これに理解を得られない場合は、床暖房を推奨。しかし、金額的に全室というわけにはいかず、他の暖房が個室で必要となる。
そこで苦慮するわけです。より環境に負荷をかけない暖房とは何か?
こうしたベクトル上に炭火があるんですね。あくまでも補助暖房だけど。それもかなり趣味的な。
趣味の探求は、困難を乗り切ることができる。僕のようにね。そうした期待もあるわけです。

福島では後戻りできないような大変な事態が起り、じわじわと広がりつつあります。
もういいかげん、目を覚ましましょう。自然エネルギーによる生活は、都会でも十分可能です。
晴れた日の昼間、空を見上げてください。そこに半永久的な熱源が見えるでしょう。
システムも整備されつつあります。あとはそれぞれの気持ち次第です。子供たちやそこから続く子孫に厄介な原発エネルギーを引き継ぎさせるのか、安全と安心を与えられるのか……
決めるのは私たちです。







Video clip Mecano Hijo de la luna