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rock_et_nothing

アートやねこ、本に映画に星と花たち、気の赴くままに日々書き連ねていきます。

春のブリュージュ、メムリンク

2014-03-21 23:28:35 | アート

Mystic Marriage of St. Catharine


Angel Holding an Olive Branch

確か4月3日頃だったか、早春のブリュージュに行ったのは。
まだ長閑な田園風景が車窓を流れ、木製のコンパートメントに揺られての一人旅。
天気は快晴、キリキリト冷たい空気が頬を刺す。
ローデンバック「死都ブリュージュ」をどこかに見出そうとしていても、輝く春の陽射しに照らされた古都は観光地として活路を見出していて、市庁舎の周りには多くの人が地図を見ながら歩いていた。
まずはおのぼりさんよろしく鐘楼に登り街を俯瞰し、運河沿いに散策をする。
それから、インフォメーションでもらった地図と日本語ガイドブックを頼りにぐるぐる石畳の路地を歩いて辿り着いたメムリンク美術館の前には、先客の学生のグループと老齢の夫婦がいた。
メムリンクの描くエマイユのような光沢を持ち精緻な絵の数々が、先ほどの人たちはどこへ行ってしまったのだろうと思うくらい、ひっそりと時が止まったかのような空間に飾られている。
もしかすると、細部まで綿密に描かれたメムリンクの絵を近寄って見入ったために、あの人たちはこの絵の中に取り込まれてしまったのだろうか。
15世紀後半にブリュージュで活躍したメムリンクの絵は、彼より先んじた北方ルネサンスのヤン・ファン・エイクやローヒル・ファン・デル・ウェイデンらの作品と共に、時の試練をものともしなく、当時の色の輝きを保っている。
そして今はもうこの技術は失われてしまった。
500年の時間を飛び越えてしまったかのようなメムリンクの絵に、平常感覚を奪われ軽いめまいを覚えながら外へ出た。
昼近い太陽の光を浴びながら石の街を歩いて人通りの多い道に出てやっと、現実に戻ることができた。
それから15年後、再び訪れたブリュージュは、すっかり様変わりしていた。
ヨーロッパの好景気が、街を一新させたのだ。
メムリンク美術館やミケランジェロの聖母子像がある教会へ、記憶を辿りながら行けるだろうか歩いたが、ペギン修道院付近の変わりようを見て無理だと悟った。
しかし、メムリンクの絵は何も変わらずあの部屋に収まっているだろう。
なんといっても500年の時を飛び越える作品だから。