烏鷺鳩(うろく)

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アメリカのピカソ・マーブル

2018-10-02 | 鉱物


ピカソ・ストーン、ピカソ・ジャスパーなどと呼ばれることもある。
その模様がモダン・アートを思わせることから、「ピカソ」の名前がつけられた。
珪化した石灰岩である。



模様を拡大してみると、繊細な黒い線が、白や茶色の地に交差している。



断面がこのような感じ。



後ろ側はこのような感じで、確かに石灰岩が元だったんだろうということが分かる。石灰岩の隙間に珪酸塩が染みこんでできたのだろう。


この石の模様、本当にピカソの絵に似ているだろうか?
いやいや、全然似てないぞ。
むしろ、「アクション・ペインティング」と呼ばれる手法で描かれた、ジャクソン・ポロックの絵にそっくりではないか!!



例えばこのような絵(”Autumn Rhythm: Number 30”, 1950) 。
どちらかというと、ジャクソン・ポロックの絵に近いのではないだろうか。
常々、「何でも『ピカソ』って付ければいいもんじゃないぞ!!」と、ちょっと不満に思っているネーミングなのである。
いっそのこと、「ポロック・ストーン」と呼びたいのである!!


ジャクソン・ポロックの作品は、なぜだか昔から好きなのだ。確か中学校の美術の教科書にも載っていた気がする。
2012年の「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」に行ったときには、素晴らしい作品がたくさん展示されていたので、かなり思い出に残ったのだ。

ジャクソン・ポロックは1912年1月28日、アメリカのワイオミング州で生まれた。家族でカリフォルニアやアリゾナに移り住み、1928年にロサンゼルスに移る。その年、ポロックは手工芸高校に入学。2年後、美術を学ぶためにニューヨークへと出た。
1938年にはアルコール中毒の治療のため、入院している。その後、彼はたびたびアルコール漬けになることがあった。
1943年の展覧会でマルセル・デユシャンやモンドリアンらから高い評価を得る。1940年代後半から次第に有名になる。1950年代に入ってから「アクション・ペインティング」と呼ばれるようになる手法で、その名は一気に世界へと知れ渡るようになる。
1956年、自動車事故によって逝去。享年44歳。


彼の所謂「アクション・ペインティング」は、でたらめに勢いによって感覚的に描かれたように思われているが、実はそうではない。かなり計算尽くされて描かれているのだ。
何色を始めにおくか。それぞれの色をどのくらいの割合で使うのか?
滑らかに線が引っ張れるくらいの絵の具の固さはどの程度か?
乾くスピードと、仕上がりの感触は?・・・
研ぎ澄まされた集中力で描かれているのが、彼の作品なのである。

展覧会のときの映像では、独特のリズムに乗ってポロックが絵の具を垂らしていく姿が写されていた。とても繊細な人物だったのだろう。その撮影の後、しばらく絵が描けなくなってしまったらしい。


さて、「ピカソ・マーブル」に戻ろうか。



「現代美術=ピカソ」という固定観念と誤解によって、この石は不本意な名前が付けられている、と私は勝手に思っている。
それにしても、この自然の造形と、ポロックの作品が酷似しているという不思議は大変興味深い。そういえば、2012年に放映されたポロックの特集番組で、紐でつり下げた缶から少しずつ絵の具を垂らし、風に任せて絵を「描いた」ところ、ポロックの描くラインにそっくりな物が出来上がったという実験をやっていた。ポロック自身は、肘から下の力を抜いて描いていた。「奇抜な作品」が彼を有名にしたのではなく、彼が自然のリズムを見事にとらえてそれを作品に昇華したというところが、すごいところなのではないかと思う。


というわけで、この石を見ていると、人と自然の不思議な接点を思い起こさずにはいられないのである。



【参考文献】
・『インサイド・ザ・ストーン 石に秘められた造形の世界』 山田英春 著 (創元社、2015年6月10日)
・図録『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』(2012年2月10日~5月6日 東京国立近代美術館)
Jackson Pollock, Landau, Ellen G. ABRAMS, New York, 1989.

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