歴タビ日記~風に吹かれて~

歴タビ、歴史をめぐる旅。旅先で知った、気になる歴史のエピソードを備忘録も兼ね、まとめています。

池澤夏樹『また会う日まで』で知る

2023-04-01 14:14:08 | 歴史 本と映画
池澤夏樹の新刊『また会う日まで』(朝日新聞社)は
作者の大伯父(祖母の兄)である、海軍少将・秋吉利雄を
主人公にした歴史長編小説だ。

明治に生まれ、敗戦後までを生きた人の
人生を描くことは、日本の近代史をたどることになる。

秋吉は、海軍軍人、天文学者、そしてクリスチャンという
三つの顔をもつ人物だ。

これが三つ巴の如くおそってくるのだから
読むのに、えらく時間がかかった。
でも、物語として面白くて止めらない。
さすがの池澤夏樹。

私の興味のあるワード、海軍、兵学校、水交社、
山本五十六に鈴木貫太郎などもてんこ盛りで、
本は付箋でいっぱいになってしまった。


そのなかで、ひとつだけ。

後半。
敗戦後の日本で、「軍事裁判」が始まると、
親友Mと秋吉が話しあう。

(以下引用)ーー「いわゆるBC級の戦争裁判では証拠も証人も
残っている例が多いらしい」
「捕虜の処刑や虐待か。身に覚えがある者は少なくないだろう」
「東条英機の陸訓一号が悪かった。『生きて虜囚の辱めを受けず』は
昔からあるが、それを改めて強調した。捕虜になるならその前に
死んでしまえと言うのだから、同じことを敵に応用すれば
殺していいことになる。」
「おめおめと捕まった以上、いくら働かせてもいい。泰緬鉄道がいい例だ」
ーー662頁


補足をすると・・・

「陸訓一号」は、いわゆる「戦陣訓」。
1942(昭和17)年、東条英機首相の名で発表された。
とりわけ「生きて虜囚の辱めを受けず」の考えが広く行き渡ったため、
軍人だけでなく民間人ですら、自死を選ぶことになった。

「泰緬鉄道」はビルマ(現ミャンマー)とタイを結ぶ、
日本軍が建設した鉄道で、映画「戦場にかける橋」で知られる。
「枕木一本、死者一人」と言われるほど、捕虜への過酷な労働と
暴力での戦争犯罪で、多くの死者が出ている。


小説の本文では、その後、駆逐艦「秋風」の事件を語る。
初めて知ったが、とんでもない事件だ。

それについては、後日、調べるとして・・・
元に戻る。


引用部分から、BC級裁判について、そうだったのかと、気づいた。

「生きて虜囚の辱めを受けず」の考えがあるから、
どうせ死んだも同然の連中、使い倒してやれ、食わせなくたって良いんだ、
寝かせなくたっていいんだ、・・・と言う発想になったということか。

言われてみれば、わかる。

外国人への理解のなかった時代、どの国の人間に対しても
同じ物差しで見ていたら・・・?
しかも戦場の狂気の中。
虐待や非道が行われたのもわかる。


だが・・・
「証拠や証人は揃っている」というが、どこまで信用できるものだったのか。

秋に直江津捕虜収容所跡(新潟県上越市)を訪ねて知った
一連のBC級裁判では、疑問が多々あった。

歴史の闇は深い。当事者のみが知ることも多かろう。


BC級裁判で日本人弁護士が奔走した「横浜裁判」の
法廷が、今も市内に移築され遺っている。
せめて、これだけでも見学したいと思っているのだが・・・
コロナ禍以来、現段階でも許されないままだ。

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