歴タビ日記~風に吹かれて~

歴タビ、歴史をめぐる旅。旅先で知った、気になる歴史のエピソードを備忘録も兼ね、まとめています。

「姉の島」の「潜水艦」は・・・

2023-04-02 15:00:29 | 広島県
広島への旅。
呉では、大和ミュージアム鉄のくじら館(冒頭画像)を見学した。
その折り、大和ミュージアムのショップで、一冊の本を見つけている。

浦環『五島列島沖合に海没された潜水艦24艦の全貌』(鳥影社)。
表紙では、潜水艦が、海底に縦に突き刺さっている。

見た瞬間、総毛立った。

これは「姉の島」ではないか。


『姉の島』(朝日新聞出版)は、村田喜代子氏の小説である。
村田氏は、今、わたしが、一番新刊を心待ちにしている作家のひとり。
小説の最新作は、この「姉の島」のはずだ。

主人公の海女は85歳、生まれたときから五島列島で暮らす。
ある日、仲間と漁船で「クルージング」に出かける。
皆で、かつて海没された潜水艦をはじめ海に沈むあらゆるものに
線香を手向けた・・・

(以下引用)
「なぁ、いつじゃったあ沈没艦船のことが新聞に出たときは、
二隻、海の底に突き刺さっとる船があるということじゃったなあ」131頁

そのセリフの「二隻」が、まさにこれ。
ミュージアムショップで見つけた本は、その調査報告をまとめたものだ。
横浜に帰ると、早速、図書館から借りてきた。



それによると・・・

日本帝国海軍の潜水艦は、先の戦争に154艦が参加、127艦が沈没した。

敗戦の翌年、1946(昭和21)年4月1日。
建造中だった艦も含め、残った潜水艦のうち24艦は
長崎県野母崎と五島列島の黄島の中間地点で
アメリカ軍によって海没処分された。

ネタバレになるので詳しく書けず、もどかしいが、
先述の「姉の島」で、この史実を知った。

小説は、陸上と海中、現実と幻のあわいのなか、
鎮魂の念があふれている。
静かに感動した一冊だった。




海没処分された潜水艦ではなく、戦争で沈没した潜水艦は127艦。
うち、114艦で乗務員全員が戦死しているのだ。
全滅の衝撃。

先日読み終えた、池澤夏樹『また会う日まで』では、
実在した主人公、海軍少将の秋吉利雄が、
重力測定機器搬入のため、潜水艦に出張する場面があった。

呂号第五七潜水艦。
Wikipediaによると、この艦も、戦後、やはり海没処分をされている。
場所は、まさに呉、「鉄のくじら館」のある、この街の沖合だという。


さて、当時の潜水艦乗務は過酷だ。

「潜水艦の中は狭い。通路の幅は一人分だから行き違う時は
身体を横にしなければならない・・・」394頁

海中に潜む潜水艦は、艦内に水が入れば沈んでしまう。
それを防ぐために、艦内を細かく区切り、重い防水扉を付けている。
どこかの区画が浸水しても前後の扉が閉まれば
艦全体が喪われることはない・・・

「だが、戦闘中、前後を防水扉で閉じられていた区画が爆雷などで
破壊されて浸水したら、そこに居る兵士は皆死ぬ。
そういう事態をも見越してのこの構造である。」同頁。

乗務員全員死亡の114艦は、まさに「そういう事態」に陥り、
最悪の結果を迎えたのだろう。
第一、水深30mものところで、海に放り出されたとしても、
いったい誰が救助に来てくれるというのか。

無事に、生き残った潜水艦も、
戦後、五島で海没処分され、今、海底に突き刺さっている。
なんともやりきれない。



さて、呉では、「鉄のくじら館」こと海上自衛隊呉史料館 で
潜水艦の実物を見学することができた。
もちろん帝国海軍の艦ではなく、
現在の海上自衛隊で活躍した潜水艦「あきしお」である。

機械については、お手上げなので、全くわからないのだが、
それでも、艦内の狭いことには驚かされた。
思い出してみれば、読んだばかりの秋吉の描写と重なる。



それにしても・・・
人間は、とてつもないことを考えたものだ。

争いは、人の常だとしても・・・

陸と海で戦うだけではなく、戦いの場は空に広がり、
やがて、海中からも攻撃をしかけられるようになった。
これからは、どこで、どんな戦いを行おうというのか。

戦いの前線、その場にいるのは人。

命令を下す側は、そこを考えないし、
そもそも、それを考えるような人間なら、
戦争の命令など下すはずもない。



「姉の島」で感動した鎮魂の念は、
偶然ながら、呉で潜水艦の実物を見学し、
海没潜水艦の詳細を報告する本を知ることに、つながた。

そして「また会う日まで」では、
秋吉利雄が見た描写から、当時の潜水艦を想像できた。

全て、知りたい気持ちがあったがゆえだろう。

あまりにも知らないことばかりで、
ささいなことも調べ、もっと知りたいと思う。

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おつきあいいただき、どうもありがとうございます。

以下の資料を参考にしましたが、
間違いや勘違いもあるかと存じます。
素人のことと、どうぞお許し下さい。

◆参考
村田喜代子『姉の島』朝日新聞社
池澤夏樹『また会う日まで』朝日新聞社
浦環『五島列島沖合に海没処分された潜水艦24艦の全貌』鳥影社

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