(有)妄想心霊屋敷

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欲たすご縁は女の子33 儚い人の夢

2007-01-05 23:50:42 | 欲たすご縁は女の子   三日目
「動物好きなんだなお前」
デパートに行けば服だの本だの色々あるってのに。
「だって、見てて面白いじゃないですか。
 次にどう動くか予測できないし、しかも可愛いし」
「やっぱりカエルも可愛いうちに入ってるのか?」
「もちろんです」
もちろんですか。こいつの『可愛い』は一体どんな守備範囲をしているのだろう。
「……ちなみに、可愛くない動物は存在するのか?」
訊いてみた。
「そりゃいますよ。ゴキブリとか」
「嫌われ者の代表格だな」
哀れゴキブリ。こいつにすら嫌われてしまった。
「かわいくないどころか、なんかこう……気持ち悪い感じすらします」
「どうしてなんだろうな。近づきたくないって言うか近づいてはいけないって言うか……
 体が拒絶するんだよ。見た目は角のないカブトムシって感じなんだが」
「なんででしょうね? 動きが速いからかな。それとも触覚?」
「謎だな」
「ですね」
……なんで休日の外出中にこんな話してんだ俺達。
「なあ、セン」
別の話を切り出した。ああ気持ち悪い。
「なんですか?」
「欲って、どんな風にして金に入り込むんだ?」
なにしろ目に見えないから、訊かなきゃ解らん。解っても意味ないかもしれんが。
「えーっと、そうですねぇ……明さん、今お金持ってますよね?」
「もちろん」
持ってなかったらデパートに何しに行くんだ。それ以前に電車に乗れないぞ。
「その中に欲が入ってない、空のお金があるとします」
「ふむ」
「で、例えば明さんが『お腹すいたなー』と思えばその食欲が空のお金に入り込みます」
「ふーん。空の金がなかったら?」
「手当たり次第にお金に入ろうとします。
 それで、元々入ってる欲と場所の取り合いするんです」
「一つの金に一つの欲しか入れないってことか?」
「そうです。で、勝った方の欲がお金に居続けられるんですけど、
 お金に入れない欲は五分ほどで消えちゃうんですよ~」
……中々にハードな世界だな。生まれてすぐに生きるか死ぬかの大勝負か。
「勝ち負けはどうやって決まるんだ?」
「欲の強さは欲の強さ……ってなんか変な言い方ですね。
 具体的にはちょっとお腹がすいた時の食欲よりも、
 餓死寸前な時の食欲の方が強いって事です」
具体的過ぎて怖いわ。よく解ったけど。
「じゃあとんでもなく強い欲は、お前に食われん限りずっと居座り続けるのか?」
それがどんな欲かは皆目見当がつかんが。
「それがそうもいかないんですよ。やっぱり実体のない不安定なものですからねぇ。
 お金に入っても一ヶ月ぐらいで結局消えちゃいます」
「ほお」
「儚いですよねぇ」
「なんだ急に」
「人の夢と書いて!」
「急カーブ!」
減速無しで九十度曲がってみた。別にここで曲がる必要はなかったが。
「わわわーっ!」

「こ、怖かった……すっごい良いこと言おうとしたのに」
少し予定から外れた道をのんびり進むと、そろそろ民家が多くなってきた。
「聞かなくても解るから大丈夫だ」
「え。なんでですか?」
「聞き飽きるほど聞いたことあるからな」
「そんなに有名な台詞だったんですか。カッコイイと思ったんですけど」
「テレビとかネットとか本とか、な。結構いろんな所で聞くぞ」
「うーむ、残念。そういうことは欲からじゃあ解り辛いですからねぇ」
そうか……欲からの情報は単発でしかないんだな。
その情報がどのくらい広まっているか知るのは難しいと。
「そっちの方が面白そうだけどな」
「そうですか~? 今みたいになるとちょっと恥ずかしいですよ?」
「皆が知らなきゃいっつも新鮮な台詞になるだろ。
 さっきの俺みたいなつまんない返しもなくなるし」
「皆がそうだと社会的にマズくないですか色々と」

おお、センらしからぬ真面目な意見。まあ俺もそれは解ってるけどね。人の夢だよ。


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