1972年まで、ハンセン病患者の裁判は隔離先の療養所などで開かれていました。これは、この病気の感染力が強く、治療も難しいという誤った認識や偏見が背景にありました。
この「特別法廷」について、開設の適否を判断する立場だった最高裁が2016年4月25日、調査報告書を公表し、司法行政を担う事務方トップの事務総長が、特別法廷を認めた裁判所の運用は
「必要性を審査せず一律に許可しており、裁判所法違反だった」
と認めました。
また、患者に対する偏見や差別を助長したことを認め、
「人格と尊厳を傷つけた」
として、謝罪しました。
さらに、5月2日、最高裁の寺田逸郎長官が3日の憲法記念日を前に記者会見を開き、その冒頭でこのハンセン病患者の特別法廷について
「裁判所のあり方を深くおわび申し上げなければならない」
「最高裁として自らを省みて二度とこのようなことを繰り返すことがないよう決意する。裁判所の対応に、差別の助長につながる姿勢があったことは、痛恨の出来事だ」
と謝罪しました。
裁判所というところは、いまだかつて一回もえん罪事件で有罪判決を出したことに対する国家賠償を認めていないことからもわかるように、ほんとに謝らない役所なので、この謝罪は画期的と言えば画期的と言えるでしょう。
ただ、この調査結果の公表と謝罪までに時間がかかりすぎています。隔離政策を違憲と判断した2001年の熊本地裁判決からでさえ15年もたっています。しかも調査を始めたのは、元患者側の求めがあってからのことです。
さらに、寺田長官は、調査の過程で特別法廷が憲法の「法の下の平等」に反すると有識者に指摘されたにもかかわらず、報告書で認めなかったことについては
「違法と結論づけたので、それ以上に憲法違反かどうかの判断は法律的には必要ない」
「事務総局が(憲法判断を)躊躇(ちゅうちょ)したのは、理解できる」
と繰り返しました。
また、この特別法廷が調査報告書では「療養所の正門に開廷を知らせる告示がされた」とするだけで実質的に非公開であり、憲法の保障する「裁判の公開」に違反するとの指摘に対しては、
「調査によっては個々の裁判の判断に影響を与えることにもなりかねず、調査の限界を踏まえたのだろう」
と語り、余り説得的とは言えない「裁判官の独立」への配慮を強調して逃げてしまいました。
とにかく、裁判所が憲法違反の行為をしたとだけは認めたくなかったのでしょう。
ただ、調査を要請した元患者らが要望している再発防止策については
「人権意識の向上のために、新たな研修プログラムなどが求められるのではないか」
と述べています。
ほんとに、裁判官にこそ人権学習が求められるでしょう。
90年目の真実―ハンセン病患者隔離政策の責任 | |
「らい予防法」違憲国賠西日本訴訟弁護団 (編集) | |
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医学的根拠のない強制隔離、過酷な療養所での処遇、治癒後も社会復帰の道を閉ざされたハンセン病者達が、ついに集団訴訟に立った。日本のハンセン病政策の真相を原告、療養所医師、歴史研究者らが暴露する。
「いのち」の近代史―「民族浄化」の名のもとに迫害されたハンセン病患者 | |
藤野 豊 (著) | |
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隔離、断種、虐殺。「病」ゆえ国家の犠牲となった人びとがいた-。社会と「社会運動史」の対象からも排除された人びとの近現代史。多磨全生園互恵会が発行する『多磨』誌に連載されたものをまとめる。
差別とハンセン病 「柊の垣根」は今も (平凡社新書) | |
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その療養所は柊の垣根で囲まれていた。迎えてくれた元ハンセン病患者の尚幸さんは、これまでの壮絶な人生と、家族との関わりを淡々と語ってくれた。そして聖書のサマリヤ人の譬えをひいて、ハンセン病患者の真の「隣人」とは誰か、とたずねた。「隣人」になるために、私たちに出来ることはなにか。丁寧な取材と鋭い問題意識から書かれた、『信濃毎日新聞』連載の渾身のルポルタージュ。
感染力がきわめて弱いハンセン病を恐れ、旧「らい予防法」で絶滅政策とも呼ばれる隔離を続けた日本。
いわれなき「業病」のレッテルを貼られ、親兄弟故郷と切り離されて、「隔離収容」されたハンセン病患者たち。
少数者の人権を擁護する最後のとりでと言われる裁判所が、その差別・隔離政策に加担していたのです。
謝罪があまりにも遅く、余計なことを言いすぎだと感じます。
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ハンセン病患者の裁判の隔離 最高裁長官が謝罪
5月2日 17時22分 NHK
かつて裁判所がハンセン病の患者の裁判を隔離された療養所などで開いていた問題について、最高裁判所の寺田逸郎長官は、「裁判所による違法な扱いに反省の思いを表すとともに心からおわび申し上げます」と述べ謝罪しました。
昭和20年代から40年代にかけて、裁判所はハンセン病の患者の裁判のうち95件を、隔離された療養所などの「特別法廷」で開いていて、最高裁判所は先月25日、「差別的に扱った疑いが強く、患者の人権と尊厳を傷つけた」とする検証結果を発表し、今崎幸彦事務総長などが謝罪しました。
最高裁判所の寺田逸郎長官は、憲法記念日を前に開いた会見でこの問題に触れ、「裁判所による違法な扱いに反省の思いを表すとともに、患者や元患者の方々などにここに至るまでの時間の長さを含め、心からおわび申し上げます」と述べ謝罪しました。この問題で最高裁の長官としての謝罪は初めてです。
一方、今回の検証では平等の原則を定めた憲法に違反していたという指摘を認めず、元患者からは疑問の声が上がっています。これについて、寺田長官は「当時の対応が違法だったことを認めた以上、法的にはそれ以上判断する意味はない」と述べ、検証結果に問題はないという見解を示しました。
「特別法廷で痛恨の思い」誤り認め異例の謝罪
毎日新聞2016年5月2日 19時21分(最終更新 5月2日 20時12分)
憲法記念日を前に記者会見 「一層努力を続けていく」
寺田逸郎最高裁長官は3日の憲法記念日を前に記者会見し、ハンセン病患者の裁判が隔離施設などで開かれていた「特別法廷」の問題について、「憲法的価値の実現に大きな役割を担う裁判所が、その期待を裏切ったことは痛恨の思い。元患者の方々に加え、社会や国民の皆様にも深くおわびを申し上げなければならない」と謝罪した。司法トップの最高裁長官が司法行政の誤りを認めて謝罪するのは極めて異例。
最高裁事務総局は先月公表した調査報告書で、遅くとも1960年以降、一律に特別法廷を認める最高裁の運用は、真にやむを得ない場合に限って裁判所外で法廷を開く必要性を認める裁判所法に違反していたと認めた。
会見で寺田長官は「差別の助長につながる姿勢があった。国民の信頼に応えていけるよう一層努力を続けていく」と語った。事務総長が会見で憲法の平等原則に違反していた疑いがあると認めながら、報告書に明記しなかった点については「裁判所法違反という結論があり、それ以上、憲法判断に踏み込む必然性はないと事務総局が判断したことは、それなりに理解できる」と述べた。
寺田長官は報告書公表前に国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)を訪問したといい、「必要なら関係者の意見を聞いて(再発防止策を)決めていきたい」と説明した。
憲法改正議論については「国民的な議論をもとに国会や社会全体でお決めになること。その動きを十分に注視していきたい」とした。【島田信幸】
最高裁 ハンセン病患者の裁判の検証結果を説明
4月27日 19時34分 NHK
かつて裁判所がハンセン病の患者の裁判を隔離された療養所などで開いていた問題で、最高裁判所は27日、元患者の団体などと面会し、「差別的に扱った疑いが強い」とする検証結果を説明しました。これに対して、元患者の団体は、調査の継続と再発防止のための検討機関を設けるよう求めました。
昭和20年代から40年代にかけ、ハンセン病の患者の裁判のうち95件が隔離された療養所などの「特別法廷」で開かれた問題で、最高裁判所は25日、検証結果を公表し、「差別的に扱った疑いが強く、患者の人権と尊厳を傷つけた」として異例の謝罪をしました。一方、平等の原則や裁判の公開の原則を定めた憲法に違反していたとは認められないと結論づけました。
これについて、最高裁判所は27日、元患者の団体や支援している弁護士と面会し、内容を説明しました。説明は非公開で行われ、元患者の団体は「憲法違反だと認めなかった点には納得がいかない」と伝えたうえで、調査の継続と再発防止のための検討機関を設けるよう求めたということです。
全国ハンセン病療養所入所者協議会の藤崎陸安事務局長は「期待を裏切られた思いだ。憲法違反とはっきり認めてほしかった」と話していました。また、徳田靖之弁護士は「再発防止のために何が必要なのか、元患者も参加して検討する機関を作るべきだ」と話していました。
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私も憲法違反の認定や再発防止策の必要が有るとは思います。
でも一体何年前の話ですか?
差別を受けていた方も差別していた当事者も多数が亡くなってしまっているでしょう。
亡くなった方がこの謝罪を聞いているんですか?
その意味でこれは取り返しのつかないことをしでかしたということですよ。
憲法違反認定や再発防止策が霞んでしまうほどの極悪非道なことをしでかした。
にもかかわらず当時の当事者でもない最高裁長官が他人顔で謝罪することの意味って何でしょうか?
この長官は当時の関係者を名指しで非難したんですか?
結局当事者の逃げきり勝ちです。
「この結果を考えれば、我々は再発防止を論じる資格が無い程のゴミクズだ。」とでも言えば良いのです。
らい者を離島などに隔離収容後、”劣性”の遺伝の”危険”すら根絶やしにする生殖能力の除去すら行われたというあり方は何を言おうが取り繕うことができない犯罪行為。
何をもって”優性”であるのかは、奴らの杓子定規次第。
生まれてこの方、アホボケカスと言われてきた当方にすれば、”劣性で悪かったな、文句あるか”やけど、それも言えず連行された無念さは想像して余りある。
非科学的な偏見での「風評被害」との批難による人権侵害が、水俣病と放射線による健康被害。
どちらも偏見を助長しているのは人権を無視した「御用医師・学者」。
再発を防ぎたいのなら、裁判所が何を反省しなければならないのかは自明です。
とっとと、憲法違反であることを認めなさい。次の被害者が既に発生しているのですよ。
裁判所は、「裁判所法」の使い方を誤って「違法」な手続きをしていた(特別裁判を安易に開廷していた)ことにつき、謝罪してるのです。
この点においては、「裁判所法は、憲法に反しない範囲で運用されているか?」は問題となっていない、と言いたいのでしょう。
理屈的な話ですが、まぁ分からないことはないなぁ、と。
※「憲法違反」の前に「裁判所法的に違反」してたら、憲法の領域まで突っ込んだ議論をする必要なしに話が終了しちゃってるのです。
感情的には、憲法違反も認めてほしいなとは思いますが…「合法だが違憲」みたいな議論になってませんので…