「11月10日、シンクタンクの日本総研が、今年の出生数が前年よりも約5%減の77万人前後となり、統計を開始した1899年以来、はじめて80万人を下回る見通しであることを発表しました。この急激な出生数の減少は、ひっ迫する年金財政に大きな打撃を与えることになるでしょう」(全国紙記者)

 

“年金博士”こと、社会保険労務士の北村庄吾さんも、こう警告する。

 

「年金は、受給者を現役世代の年金保険料が支える“世代間扶養”という制度で成り立っています。かつてのベビーブームの時代などから考えると、現役世代の負担は激増しています」

 

内閣府の『令和2年版高齢社会白書』によると、1950年は、65歳以上の高齢者1人を12.1人の現役世代(15~64歳)が支えていたのに対し、2015年には高齢者1人をわずか2.3人の現役世代で支えなくてはならなくなっている。少子化は日本経済そのものに深刻な影響を与えるという。経済評論家の平野和之さんはこう語る。

 

「政府は2065年まで人口1億人を維持したい考えのようですが、非現実的な目標で、生産年齢人口がその時点では5千万人を切る予測。そうなると年金保険料も、当然集まらなくなってきます」

 

■年金シナリオはコロナ禍を想定せず

 

私たちの老後の生活を支える年金。急激な少子高齢化によって、どんな影響を受けるのだろうか。

 

「目安の一つになるのが、厚生労働省が5年に一度行っている、年金財政の“健康診断”ともいえる『財政検証』です」(北村さん)

 

そこでは、「所得代替率」を用いて、将来の年金額を算出している。

 

「所得代替率とは、現役男子の平均手取り収入額35万7千円に対するモデル世帯の年金受給額の割合のことです。2019年のモデル世帯の年金額は約22万円。所得代替率は61.7%になっています」(北村さん)

 

財政検証では、今後の経済状況を“もっともよい”ものから、“もっとも悪い”ものまで、6のシナリオに分けて、将来予測している。最新の財政検証は2019年のもの。平野さんは発表時から一貫して経済状況がもっとも悪いシナリオが、“最大値の予測”だと訴えてきた。

 

「国のシナリオは、新型コロナウイルスのパンデミックや、自然災害、原油価格高騰、ウクライナ情勢など、現在、大きな問題となっているようなリスクを、まったく考慮していないものです」

 

景気の予測だけではなく、出生率の見通しも甘かった。2019年の財政検証では15~49歳までの女性の出生率である「合計特殊出生率」は1.44と想定されていた。これは女性が一生のうちに、平均で1.44人の子供を産むことを意味する。

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しかし、コロナ禍による結婚機会の減少、出産の回避などもあって、2021年には1.30まで合計特殊出生率は減少した。その結果、2022年の出生数の予測は80万人を下回り、国が想定していたよりも8年も早く少子化が進んでいることになった。

 

「最低でも、財政検証で想定される最悪のシナリオを想定しておいたほうがよいでしょう」(平野さん)

 

最悪のシナリオでは、現在の61.7%の所得代替率が、2040年に年金受給を開始する人は51.3%にまで落ち込むという。現在の給与水準で計算すると、1カ月の年金受給額は18万3千円と、月3万7千円もの減額になる。

 

さらに2043年には所得代替率50%で年金受給額は17万9千円、2052年ともなると、所得代替率46・1%で年金受給額は16万5千円と、減少の一途をたどることになる。15年後に受給開始年齢を迎える50代の人なら、月3万5千円、年42万円ほどの減額は覚悟しておいたほうがよさそうだ。

 

「加えて、出生数が想定よりも8年早く80万人を下回ったように、財政検証で予想されている経済成長率や物価上昇率、賃金上昇率などにも誤算が生じていることは、火を見るより明らかです。極めて“悪い数字”になることにも備えておくべきです」(平野さん)

 

そして、これらの計算は、“モデル世帯”をもとにしたものであるということにも注意が必要だ。

 

「40年間、夫が年金の未納がなく、平均月収43万9千円のサラリーマン生活を送り、妻が専業主婦として支えた家庭。そんな家庭は日本国じゅう探してもほとんどないでしょう。多くの人がモデル世帯の年金額よりも下回るはずです」(北村さん)

 

■受給開始年齢はいずれ70歳に

 

さらに、政府は加入期間の延長や受給開始年齢の引き上げももくろんでいるという。

 

「2024年には国民年金の年金支払い期間が40年から45年に延長される可能性があります。厚生年金は75歳まで加入させられるという改正も予定されています。また、将来的には、年金受給開始年齢も段階的に引き上げられるでしょう。受給開始年齢が70歳になることも十分に考えられます。もはや国に頼ることはできないので、自助努力をするしかありません。可能な限り働き続け、iDeCoなど個人年金で老後の蓄えを作ることが、数少ない効果的な方法だといえます」(北村さん)

 

さらに平野さんは続ける。

 

「年金制度が破綻しないシナリオだけでなく、万が一、破綻した場合の想定も必要です。最低限の衣食住だけは提供できるセーフティネット案も、政府は検証すべきです」

 

すぐそこまで、年金財政破綻が迫っているのだ。