【衝撃事件の核心】
「オシッコ跳ね過ぎ!」新型小便器に社長はキレた ビルの所有会社提訴…尿跳ね実験データも一蹴、あえなく全面敗訴
オフィスビルのトイレのリニューアルで導入された新しい小便器(中)。入居会社の社長がいつものように用を足したところ、「跳ね返りが多すぎる」。不満を募らせて自ら苦情電話をかけて別の小便器(右)に交換させたが、これも「まだ尿跳ねがある」と憤り、ついに提訴に踏み切った。その結果は…
「何でこんなに尿が跳ねるのか!」。オフィスビルのトイレのリニューアル工事で新たに設置されたスタイリッシュな小便器をめぐり、跳ね返る尿の量が多すぎると不満を爆発させた入居会社が、ビルの所有会社などを相手取り約840万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が4月、大阪地裁であった。原告会社の社長が自ら抗議して別の便器に変更させたが、それにも納得せず、交渉が決裂した末に法廷闘争にもつれこんだ。原告側は尿がどれぐらい跳ねたかを実験まで敢行。新たな便器の〝不当性〟を主張したものの、判決は、実験データがまったく信用できないことなどを理由に原告側の敗訴をあっさりと言い渡した。
社長自らクレーム電話
判決によると、大阪府内のオフィスビル22階のトイレが、ビル所有会社によってリニューアルされたのは平成25年5月ごろ。男子トイレにはもともと、大手メーカーの小便器が設置されていたが、リニューアル工事を機に、幅がやや狭いスタイリッシュな別の大手便器メーカーの小便器に変更された。
このフロアに平成16年から入居する会社の社長は、新たに導入された小便器に不満を募らせていた。いつもと同じように用を足しているだけなのに、やけに〝お
釣り〟が跳ね返ってくるからだ。
この状態に我慢ならなかった社長は、設置から4カ月以上が過ぎた25年10月初め、ついに行動に移した。大手便器メーカーのお客様相談室に自ら電話をかけ、「尿跳ねがひどい」と苦情を申し入れたのだ。2週間後の10月中旬、メーカー担当者が苦情内容を社長から直接聞くため駆けつけた。
社長は担当者に対し、尿跳ねに対する不満を訴えるだけでなく、実際に男子トイレに連れて行き、容器から水を便器に噴射して尿跳ねが「激しい」ことを訴えた。さらに「こんな便器はすべて交換するくらいのことが必要ではないか」とも主張した。
後日、社長は再びメーカー担当者と向かい合った。ビル所有会社の系列の管理会社の担当者も同席し、メーカー担当者は「尿跳ねがまったくない商品は開発できていない」と社長に釈明。「便器のどの部分に尿が当たるかによって、跳ね方が微妙に異なる」とし、便器交換の代わりに尿跳ねを軽減するため小便器に「ターゲットマーク」を付けることを提案した。
だが、社長は頑として便器の交換を要求。これに折れたメーカー側は同年12月下旬、自社製の縦長タイプの小便器に取り換えた。
便器交換も不満…決裂
にもかかわらず、問題は解決しなかった。
交換から間もない12月末、入居会社の社長室長がビル管理会社に対し、社長の意見として「前の便器に比べて尿跳ねはましになったが、まだ尿跳ねがある」として、リニューアル工事前の旧型便器に戻すしかないと訴えてきたのだ。
旧型便器はメーカー自体が異なり、交換するなど非現実的な話。自社製とはいえ交換に応じた〝破格〟のサービスを無にされたメーカーの担当者は、社長室長と会い、「これ以上の対応はできない」と突っぱねた。これに対し、社長はなお何らかの対策をするよう要求した。
メーカー側もめげなかった。26年2月、用を足す前に便器に水を流す「前洗浄」という方法を提案し、すぐに実施した。それでも社長は「前洗浄中は確かに尿跳ねはないが、前洗浄が終わるとやはり尿跳ねがある」とクレームをつけた。
メーカーと管理会社の両担当者は3月中旬、社長と直接面談し、「これ以上の対策はない」と最後通告を突き付けた。激高した社長は面談の席から退出し、これを機に社長側は強硬姿勢を一気に強めた。
翌4月、社長室長はビル管理会社に対し、便器をリニューアル工事前の旧型に交換するよう再度申し入れ、これまで支払った共益費(月額約110万円)の一部を返還するよう要求。さらに便器を交換するまで共益費の半額を支払わないとまで通告した。
管理会社の担当者らは4月下旬、社長室長と面談して要求拒否を伝えると、入居会社側は5月中旬にリニューアル後の共益費の50%相当額の損害賠償請求をすると通知。管理会社は同月下旬にこの要求も拒否すると回答すると、入居会社側はビルの所有会社と管理会社を相手取り、ついに提訴に踏み切った。
実験「認められない」
原告の入居会社側は訴訟で、ビル管理会社側が高額の共益費に見合う程度に「清潔で衛生的なトイレを提供する義務がある」と主張。リニューアル工事後とクレーム交換後の新たな2種類の便器の尿跳ねは、原告側が水を噴射して独自に実験した結果、同じビル30階に残っている旧型便器に比べ、約44~94倍だったと訴えた。
さらに、旧型便器には尿跳ね防止のための「返し」部分があるが、新たな2種類の便器には「返し」がないことも指摘した。
これに対し、管理会社側は「一流メーカーの多数出荷された製品を適切に設置し、原告の要望にも便器の取り換えという形で対応してきた」とし、同じビルの他のフロアからは尿跳ねの苦情もないと強調。訴訟には管理会社側の「補助参加人」として大手便器メーカーも加わって応戦した。
結局、判決は実にあっさりした内容だった。
原告側の実験について「便器ごとに放出する高さや強さが統一できているとは認められない」とし、実験結果は採用できないと一蹴。実績あるメーカーの製品を問題なく設置したうえ、便器の交換や前洗浄など「相当の対策を施し、提案した」と管理会社側の対応を評価した。
さらに、同じビルの他のフロアで尿跳ねに対する苦情があったとも認められないとして、争点をほとんど検討することもなく原告側の請求を棄却した。
入居会社側がこの全面敗訴判決を受け入れるわけがなく、大阪高裁に控訴した。「尿跳ね」をめぐる異例の法廷闘争はまだ終わりそうにない。