多機能な最新のハイテク腕時計の宿命
ある男が空港で時間待ちをしていた。
男は時計を忘れたのに気付き、誰かに時間を聞こうと考えた。
そうしてしばらく辺りを見回していると、向こうの方から、
いかにも重たそうな2個のスーツケースを持った初老の男が、
よろよろとこちらに歩いてくるのが見えた。
彼は男のもとに歩み寄って尋ねた。
「あの、すいません。今何時か教えて頂けませんか?」
男はちょっと驚いた様子だったが、すぐにニッコリ笑って返答した。
「あ、えーと、どこの国の時間が知りたいのですか?」
「国?」
「あなたの時計は、他の国の時間も見れるのですか?」
「ええ。世界中の時間が見れます」
「世界中のだって!」
彼が驚嘆の声を上げると、初老の男は指を左右に振りながら言った。
「はは、その程度で驚かれては困りますな。
この時計には、もっといろんな機能がついているのですよ
GPS、FAX、電子メール、液晶テレビ、etc.」
「なんて素晴らしい、いや贅沢な時計なんだ!」
驚いている彼を尻目に初老の男はハイテク時計を見つめて言った。
「もし、気に入ったのなら900$でお譲りしますけど・・・」
少々高い買い物だったが、彼は迷わず買うことを決めた。
そして財布の中からそのお金を取り出すと、初老の男に手渡した。
「おめでとうございます!
これであなたもハイテク時計の所有者ですな。」
初老の男はニッコリ笑ってそう言うと、
自分の手首からハイテク腕時計を外して、彼の手首にはめた。
そして、傍らのスーツケースを2つゆっくりと持ち上げると、
喜色満面の彼の足元に、どしんと置いた。
不思議そうな彼の表情に、初老の男は言った。
「あ、これその時計のバッテリーですので。」