立川談志の噺、「饅頭恐い」(まんじゅうこわい)
町内の若い衆が集まって、好きな物を言い合っている。
「俺はカミさんだな」、「ぬけぬけと、良く言うよ。隣は?」、「家の隣のカミさん」。
「俺はオデキのカサブタをむくのが好き」。
そこに留公が、息せき切って駆け込んできた。
「誰か追いかけてこないか。松ノ湯脇の近道を来ると、後ろから『留!』と呼ぶ声がした。
振り向くと大きな口を開いた大蛇がいて呑み込むというので、慌てて逃げてきた。
ヘビは恐いよ。鰻もドジョウもミミズも恐い」、
「あんなのっぺらぼうのミミズが恐いのか」、
「お前、暗闇からのっぺらぼうが出てきて、ニタニタって笑ったら恐いぞ」、
「のっぺらぼうが笑ったかどうか分からないだろう」、
「顔にシワが出来るから分かる。それより、長いものが恐い」。
「コイツの言うことも分かる。人は胞衣(えな)を方角を決めて埋めた土の上を、
初めて通った虫を嫌いになるという言い伝えがある。
虫が好かないというよな。
ここで、恐いものを聞こう」。
「俺はヘビ」、
「留と同じだな」、
「そんなヘビではなく、キングコブラ。それが海を泳いで来たらどうしようと思うだけで恐い」。
「そっちは」、
「カエル。口をパクッと開けたのは恐い、考えたら家のカカアが『夕んべはどこ行ってたの』と、口をパクッと開けるのを見てから恐くなった」。
「俺は、ナメクジ。ヌルヌルしていて恐い」。
聞いていくと、ヒル、蜘蛛、ゴキブリ、毛虫、蟻、馬、ミミズ・・・嫌いなものは恐い。
向うを向いてたばこ吸っているのは寅さん。
「何か恐いものは無いか」、
「無いッ。ないッ、ないッよ」、
「じゃ~ヘビなんかはどうだ」、
「ヘビなんか見るとゾクゾクする。旨いから食べちゃう。ものを考えるときは頭に締める。カエルは皮をむいて焼いて食べちゃう。ナメクジは三杯酢にして食べちゃう。ミミズはケチャップ掛けてスパゲッティー・ナポリタンにして食べちゃう。ゴキブリは手足を取ってドロップ代わりにして舐める。恐いものはなんにもねェ~よ」、
「お前は偉いよ。皆、子供に返って恐いものの話をして遊んでんだ。それじゃ、場がしらけちまうよ」、
「なんだよ。蜘蛛なんて納豆に混ぜてかき回すと糸を引いて旨い。蟻なんか赤飯もらったときに、ゴマ塩代わりにかけて食べる。毛虫が恐い?あんなものは柄を付けて歯ブラシ代わりにする。馬だって残らず食う。恐いものなんてナイ。・・・チョット待った。有る、一つだけ。忘れようと粋がっていたが、有るんだ」、
「それは何だ」、
小さな声で「饅頭」、
「?」。
詳しく聞くと泣き出して手に負えないので、隣の三畳間に布団を引いて寝かしつけた。
普段からひねくれ者で、左と言えば右と言うし、右と言えば左だという。
黒いと言えば白だという。
生意気な野郎で、嫌われ者だった寅さん。
饅頭を皆で買ってきて、枕元に置いたら面白いと、衆議一決したが、シャレがキツすぎて、餡(あん)で殺したら暗殺になる。
それより早く、饅頭を買ってきた。
腰高饅頭、栗饅頭、蕎麦饅頭、木の葉饅頭、揚げ饅頭、肉まん、葛饅頭(くずまんじゅう)、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)、今川焼きはチョト違うがそれも混ぜて、お盆に山積みにした。
隣の部屋に持ち込み寅さんを起こし、その饅頭を見せると、「饅頭ッ」と言って絶句するかと思ったら、饅頭恐いとイイながら、持ち込んだ饅頭を食べ始めた。
いっぱい計略にはまった町内の若い衆は「饅頭に食われてんだろう」、
「いや、饅頭に食いついている」。
暗殺は失敗に終わった。
「お前は本当に悪い奴だな。ホントは何が恐いんだ」、
「お茶が恐いよ~」。
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