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立川談志の噺、「饅頭恐い」

2014年09月04日 | 落語・民話


立川談志の噺、「饅頭恐い」(まんじゅうこわい)


 

 町内の若い衆が集まって、好きな物を言い合っている。

「俺はカミさんだな」、「ぬけぬけと、良く言うよ。隣は?」、「家の隣のカミさん」。

「俺はオデキのカサブタをむくのが好き」。

 そこに留公が、息せき切って駆け込んできた。

「誰か追いかけてこないか。松ノ湯脇の近道を来ると、後ろから『留!』と呼ぶ声がした。

 振り向くと大きな口を開いた大蛇がいて呑み込むというので、慌てて逃げてきた。

 ヘビは恐いよ。鰻もドジョウもミミズも恐い」、

「あんなのっぺらぼうのミミズが恐いのか」、

「お前、暗闇からのっぺらぼうが出てきて、ニタニタって笑ったら恐いぞ」、

「のっぺらぼうが笑ったかどうか分からないだろう」、

「顔にシワが出来るから分かる。それより、長いものが恐い」。

 「コイツの言うことも分かる。人は胞衣(えな)を方角を決めて埋めた土の上を、 

  初めて通った虫を嫌いになるという言い伝えがある。

  虫が好かないというよな。

  ここで、恐いものを聞こう」。

 「俺はヘビ」、

「留と同じだな」、

「そんなヘビではなく、キングコブラ。それが海を泳いで来たらどうしようと思うだけで恐い」。

「そっちは」、

「カエル。口をパクッと開けたのは恐い、考えたら家のカカアが『夕んべはどこ行ってたの』と、口をパクッと開けるのを見てから恐くなった」。

「俺は、ナメクジ。ヌルヌルしていて恐い」。

 聞いていくと、ヒル、蜘蛛、ゴキブリ、毛虫、蟻、馬、ミミズ・・・嫌いなものは恐い。

 向うを向いてたばこ吸っているのは寅さん。

「何か恐いものは無いか」、

「無いッ。ないッ、ないッよ」、

「じゃ~ヘビなんかはどうだ」、

「ヘビなんか見るとゾクゾクする。旨いから食べちゃう。ものを考えるときは頭に締める。カエルは皮をむいて焼いて食べちゃう。ナメクジは三杯酢にして食べちゃう。ミミズはケチャップ掛けてスパゲッティー・ナポリタンにして食べちゃう。ゴキブリは手足を取ってドロップ代わりにして舐める。恐いものはなんにもねェ~よ」、

「お前は偉いよ。皆、子供に返って恐いものの話をして遊んでんだ。それじゃ、場がしらけちまうよ」、

「なんだよ。蜘蛛なんて納豆に混ぜてかき回すと糸を引いて旨い。蟻なんか赤飯もらったときに、ゴマ塩代わりにかけて食べる。毛虫が恐い?あんなものは柄を付けて歯ブラシ代わりにする。馬だって残らず食う。恐いものなんてナイ。・・・チョット待った。有る、一つだけ。忘れようと粋がっていたが、有るんだ」、

「それは何だ」、

小さな声で「饅頭」、

「?」。


 詳しく聞くと泣き出して手に負えないので、隣の三畳間に布団を引いて寝かしつけた。

 普段からひねくれ者で、左と言えば右と言うし、右と言えば左だという。

黒いと言えば白だという。

生意気な野郎で、嫌われ者だった寅さん。

饅頭を皆で買ってきて、枕元に置いたら面白いと、衆議一決したが、シャレがキツすぎて、餡(あん)で殺したら暗殺になる。


 それより早く、饅頭を買ってきた。

腰高饅頭、栗饅頭、蕎麦饅頭、木の葉饅頭、揚げ饅頭、肉まん、葛饅頭(くずまんじゅう)、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)、今川焼きはチョト違うがそれも混ぜて、お盆に山積みにした。

 隣の部屋に持ち込み寅さんを起こし、その饅頭を見せると、「饅頭ッ」と言って絶句するかと思ったら、饅頭恐いとイイながら、持ち込んだ饅頭を食べ始めた。

いっぱい計略にはまった町内の若い衆は「饅頭に食われてんだろう」、

「いや、饅頭に食いついている」。

暗殺は失敗に終わった。

「お前は本当に悪い奴だな。ホントは何が恐いんだ」、

「お茶が恐いよ~」。

 

 

 

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