夕立屋
男「暑いねぇ、こういう暑い日には、一雨ざーっと来てくれるとありがたいんだけど。」
夕立屋「えー夕立や夕立、えー夕立や夕立。」
男「なんだい、あの夕立屋ってのは、雨を降らそうってのかな、面白い、呼んでみよう、 おおーい、夕立屋。」
夕立屋「へい、毎度ありがとうございます。」
男「お前さん、夕立屋ってぇくらいだから、雨を降らせるのかい。」
夕立屋「へぇ、さようでございます。」
男「へぇ、で、いくらなんだい。」
夕立屋「へぇ、これはもうほんのおこころざし程度で結構でございます。」
男「そうかい、じゃさっそく、三百文ほど降らしてもらおうか。」
夕立屋「へ、かしこまりました。」
なんてんで、男はしばらく呪文を唱えておりましたが、やがて雨がざーっと降ってまい りまして。
男「おや、おかげて涼しくなったよ、だけど、こうして雨を自由に降らせたり、止ませた りできるなんて、お前さん、ただの人間じゃないね。」
夕立屋「はい、実はわたくしは、空の上に住んでおります、龍(たつ)、でございます。」
男「なるほど、道理で不思議な術を知ってなさる、だけどねお前さん、夏暑い時は、こう してお前さんが、雨を降らしていれば商売になるけど、冬、寒くなったら、商売はどう するんだい。」
夕立屋「へぇ、寒くなりましたら、倅の子龍(炬燵)をよこします。」
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長い名前
ある所に、双子の兄弟が生まれました、
弟の方は非常に可愛いのに比べまして、
兄の方 はどうもあんまり可愛くない、
そこで母親は仏教の悟りの経文『阿耨多羅三藐三菩提(あ のくたらさんびゃくそんぼだい)』を取りまして、
兄の方へは「あくたら」と言う短い名 前、
弟の方には「さんびゃくさんぼだい」と言う長い名前を付けました。
すると、ある日、 この兄の方が遊んでいるうちに、
間違って、川へはまってしまいました、
母親は必死で 『あくたらが流される、あくたらが流される』と大声で叫んだので、
すぐに近所の人が気 付いて、すくい上げてくれまして、事なきを得ましたが、
またある日、こんどは弟の方が、 川へはまってしまいました、
母親はまた必死で『さんびゃくさんぼだいが流される、
さん びゃくさんぼだいが流される。』と叫びましたが、
近所の人に伝わるのが遅く、その子供 は流されてしまいました、
母親はがっかりして『ああ、せめて三百すてれば、助かった。』
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草刈った
近ごろは生意気な子供が増えておりまして、うかうかしてると、大人でもやり込められてしまいまして。
子供「おじさん、落語やってるんだって。」
落語家「へぇ、さようでございますが。」
子供「じゃ、小噺、知ってるかい。」
落語家「そりゃ、小話のひとつやふたつ、知ってますけど。」
子供「じゃ、こんなの知ってるかい。」
落語家「へぇ、どんなのですか。」
子供「昔々、々、ところにおじいさんとおばあさんがあったんだ。」
落語家「あのね、坊っちゃん、それは小噺じゃなくて、昔話、おとぎ話ってんじゃありませんか。」
子供「いいからだまって聞いてなよ、それで、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったんだ、すると川上から、大きな桃がどんぶらこどんぶらこ、と流れてきました、おばあさんは、その桃を持ち上げようしましたが、大きな桃なので、なかなか持ち上がりません、おばあさんは、桃を持ち上げようと、下腹に力を入れて、うーんと力む、途端に、おじいさんのいる山にまで響くような大きなおならがぶー、
すると山にいたおじいさんは、芝を刈らずに草刈った(臭かった)。」
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御印文
昔は、この御印文(ごいんもん)なんてのを、お寺でいただかせた事がありまして、これを額のところへ押してもらうと、七罪消滅をして、極楽往生ができると言う。
八五郎「吉っつぁーん、いるかい。」
吉平衛「なんでぇ、大勢そろって、どっかへ行くのか。」
八五郎「うん、これからね、みんなで御印文をいただきに行くんだ。」
吉平衛「御印文って、ああ、あの極楽往生ができるってぇ、ああ、いやだ、俺は極楽往生なんかしたくねぇと思っているんだ、いやだよ。」
八五郎「そんな意固地な事を言わないでさ、みんなこうして集まっているんだから、後でいっぱい飲むから、付き合いなよ。」
吉平衛「いっぱい飲むてぇのなら、付き合うけど、言っとくけど、俺は御印文なんてもらわないよ、ああ、ここだ、じゃ、早く行ってきねぇな、ああ、いいよいいよ、俺ぁここで待ってるから、みんなで早く行ってもらってきねぇ、へへ、ああ、出てきやがった、どうしたい。」
八五郎「えへへ、今、いただいた。」
吉平衛「ぷっ、スタンプみたいなのもおでこにくっつけて、喜んでやがら、みっともないから、早くつばきを付けて、紙で取っちまいな、じゃ、いっぱい。」
八五郎「ま、いっぱいもいいけれども、ちょっとのどが乾いたぁね、ここの茶店で茶でも飲もう、ばあさん、ごめんよ。」
ばあさん「はーい、いらっしゃいまし。」
八五郎「休ませてもらうからな、それにしてもなんだね、大変な混雑だね、よっぽど御利益があるんだろうね。」
ばあさん「さようでございますなぁ。」
八五郎「ええ、なんだってね、ばあさん、この御印文をいただいたやつと、いただかないやつは、偉い坊さんが見ると分かるなんてぇ事を言うが、本当かね。」
ばあさん「さようでございます、なに、お坊さんでなくても、私でも、いただかない方は、ちゃんと分かります。」
八五郎「へぇ、おばあさんに、分かる、門前の小僧習わぬ経を読む、なんてぇ事を言うが、ばあさんに分かるかね、あ、そうだ、ばあさん、実はね、この中で一人だけ、いやだてんで、強情をはりやがって、御印文をいただかないやつがいるんだ、誰だか分かるかい。」
ばあさん「この中で、一人だけ……、あの、はじの方でしょ。」
八五郎「ああら、図星だ、だから言わないこっちゃないんだよ、神仏の事は悪く言えないんだから、お前も、これからすぐ行って、いくらか包んで、いただいた方がいいぜぇ、みねぇ、ばあさんにぴたりと当てられちまったじゃあないか、おい、ばあさん何か、こいつがいただかないってのが、分かるかね。」
ばあさん「分かります、その方が一番利口そうだから。」
あんまり、利口な方はもらわなかったようでございます。
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酒の粕
熊五郎「おい、与太郎、何赤い顔して、ふらふら歩いてやんでぇ。」
与太郎「ああ、あにぃかい、あたいね、今、大家さんとこの大掃除手伝ったら、こーんなに大きな酒の粕、二つももらって、それ、焼いて食べたら、すっかりいい心持ちになっちゃって。」
熊五郎「おい、よせやい、いい若いもんが、酒の粕食らったなんて、みっともねぇや、そう言う時はな、うそでもいいから、酒飲んだって言った方が、威勢がいいじゃあねぇか。」
与太郎「ああ、そうか、じゃ、今度からそう言うよ、あ、向こうから、八のあにぃが来たよ、八あにぃ。」
八五郎「なんでぇ。」
与太郎「あのさ、あたいの顔、おかしいでしょ。」
八五郎「うめぇ事言うなぁ、俺は前から思ってたんだ、この町内で、おめぇくらい、おかしな顔したやつはいねえってな。」
与太郎「そうじゃあないよ、あのさ、あたいの顔、赤いでしょ。」
八五郎「そう言えば赤いな、なんだ、おっこってるエビのしっぽでも食って、腹でも下したか。」
与太郎「そうじゃあないよ、あたいね、お酒飲んじゃったの。」
八五郎「なんだって、昼間っから豪勢な野郎だな、どのくらい飲んだんだ。」
与太郎「あのね、このくらいの塊、二つ。」
八五郎「この野郎、酒の粕、食らったな。」
与太郎「あれぇ、見てた。」
八五郎「見てた、じゃねぇや、どのくらい酒のんだって聞かれて、このくらいの塊二つってぇば、酒の粕食らったってのが、すぐわかっちまうじゃあねぇか、そう言う時はな、うそでもいいから、このくらいの猪口でも茶碗でもいいや、二杯きゅーっと飲んだってみろ、その方が、威勢がいいじゃあねぇか。」
与太郎「ああ、そうか、じゃ、今度からそう言うよ、じゃ今度誰のところへ行こうかな、そうだ、おばさんのところへ行ってみよう、おばさーん。」
おばさん「あら、与太さん、どうかしたのかい。」
与太郎「あたいね、お酒飲んじゃったの。」
おばさん「まぁ、ついこの間まで、子供だ子供だと思っていたら、お酒なんか飲むようになったんだねぇ、どのくらい飲んだんだい。」
与太郎「このくらいの猪口でも茶碗でもいいんだよ、二杯きゅーっと。」
おばさん「まあ、ずいぶん飲むんだねぇ、だけど与太さん、飲むなじゃないけど、冷やは毒だよ。」
与太郎「ううん、焼いて食べたよ。」
自分の名前
昔は、字の読み書きできない、なんてのは、ざらでございまして、中には自分の名前すら知らないなんてぇ、愚かしいものもございましたようで。
客「あの少々ものを伺いますが、このご近所だと聞きましたが、ご商売は大工さんでごさいまして、山田喜三郎さんてぇ方をご存じございませんでしょうか。」
男「山田喜三郎?聞いたことねぇなぁ、大工はこの長屋にもいるよ、今、聞いてやるよ、おおう、キサッペ、おめぇと同じ大工だそうだ、山田喜三郎ってぇ人を知らねぇかって、この人が尋ねてんだがな、おめぇ知らねぇか。」
キサッペ「山田喜三郎?へへへ、殿様みてぇな名前じゃねぇか、山田喜三郎、って、あ、俺だ。」
男「お前、山田てってぇ顔じゃねぇよ、お前なんざ、どこへ出したってじゃまだってぇ顔だ。」
キサッペ「そうでないよ、親父が死ぬまぎわに、お前の名前は、山田喜三郎ってんだぞーってったのを、かすかに覚えていた。」
男「本当かい、ああ、この野郎だそうだ。」
なんてんで、本当にあった話だそうでございまして、これが仲間内へ広がりますと、騒ぎはもういっぱい大きくなりまして。
男壱「おおい、聞いたか。」
男弐「なにを。」
男壱「なにをって、大工のキサッペ。」
男弐「キサッペがどうかしたのか。」
男壱「あの野郎の名前知ってるかい。」
男弐「キサッペは、お前、キサッペだろ。」
男壱「それがそうでないんだよ、キサッペてぇのは、浮き世を忍ぶ仮の名、誠本名は、山田喜三郎ってんだ。」
男弐「へーっ、やつはそんなに悪党かい。」