「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

世界大学ランキング ~Times Higher Education World University Rankings 2018について

2017-09-08 | 学術全般に関して
最近、Times Higher Educationが世界大学ランキングを更新しました。
数ある大学ランキングの中でも有名な一つであり、様々な場面で「大学の格付け」の指標として使われています。例えば、英国のUniversity of Oxfordオックスフォード大学とUniversity of Cambridgeケンブリッジ大学がいわゆるワン・ツー・フィニッシュで1位、2位を占めており、英国の高等教育機関の強さを見せています。
ただ、少々うがった見方をすれば、このTimesとはもともと英国の雑誌ですから、「自国優勢の評価項目からランキングを作成して自己満足してるのではないか?」という疑念もあります。あくまで一つの目安として考えておけばいいと私は思ってきました。
しかし、日本でも報道されているのではないかと思いますが、今回は東大46位、京大74位というあまりにも悲惨な結果であり、シンガポール、香港、中国の後塵を拝すことになりました。シンガポール、香港は曲がりなりにも英語圏であり、国際性で有利でしょうから判らなくもありませんが、中国の大学にさえ劣る結果となったのは「日本の凋落」をはっきり印象付けるものとなりました。

私は以前から「米英主導の大学ランキングは国際性の重み付けを高く設定しているせいで英語圏有利が否めない」と感じており、日本の大学があまり高くランクしなかったとしても、ドイツ、フランス、イタリアなどの欧州非英語圏の大学のランクと比べて低くなければ、それほど問題がないのではないかと思っていました。実際、大学ランキングで苦戦しているのは、かの国々も同様ですが、それでも間違いなく先進国の立場を維持しており、科学大国であり続けています。だから、日本もそれでいいのではないかと思っていたのです。
しかし、今回のTimes Higher Education World University Rankings 2018を見ると、日本の大学の国際性が低いのは仕方ないとしても、例えば「論文引用数」でも伸び悩み、全ての項目で全体的に苦境に立たされているのが浮き彫りになったように感じました。つまり、日本の科学力が地盤沈下している兆候が明らかに目に見える形で示されているのですね。このことは、大学ランキングに限らず他の指標でも示唆されていることから、日本の科学力が相対的に低下しているのはもはや疑いようがないと思います。
日本は科学で負ける側になりつつあるのです。

さて、東大(46位)、京大(74位)、東北大(201-250位)を「指定国立大学法人」に指定して大学ランキングの向上を図る動きもありますが、それで日本の科学が救われるのでしょうか?

下手は作物を育てますが、上手は土壌を育てるものです。

大学ランキングの向上もたしかに目指すべき目標なのかもしれませんが、日本の科学の土壌を育てるべきではないかと私は思います。
私は子供から大人になる間にテレビゲーム、携帯電話、スマホなどの爆発的な普及を見てきた世代の1人であり、身をもって感じていることとして、明らかに若者の勉強時間や読書時間が平均的に低下したことが挙げられます。私の世代よりももっと上の30代、40代、50代でも思春期をテレビ全盛期で過ごしているわけですから、たとえエリート層であっても、昨今ノーベル賞を受賞されているような60代、70代の日本人科学者の世代と比べて、平均的に勉強時間が落ちていたはずです。
もちろん、勉強時間が減ったとしても、勉強の質が向上して、時間を有効に使えているならば問題ないのかもしれませんが、昔から日本の学生の「勉強の仕方」は良くも悪くもあまり変わっていないと思います。つまり、学生時代に勉強や思考に割く時間の減少が、そのまま卒業後の活躍に多かれ少なかれ影響してきているのではないかと感じています。すなわち、日本人は「馬鹿になっている」のではないかと疑ってさえいます。
中国などから英国の一流大学に留学してきているハングリー精神旺盛な人たちの話などを聞くと、はっきりと「日本人は勉強しなくなったんだな」と痛感させられます。発展途上国の方々はとにかく貪欲に人生を勝ちにきています。成功したいと強く願っています。激しい競争に勝つ精神的なタフさがあり、必死に努力しています。勉強しています。それに比べて、一般的に日本人は良くも悪くもかなり大人しくなり、勉強もしなくなり、伸び悩んでしまっているのではないでしょうか。もちろん、私自身もその一人として反省するところは大いにあるのですが。
したがって、あくまで私見ではありますが、日本の大学ランキングの向上を目指すには、もちろん大学で行われている研究、教育にもっと投資をするのも一つの方策ですが、同時に長期的な観点から抜本的なテコ入れをすべきなのではないかとも思うのですね。

日本は1990年代に経済的に失速して、残念ながら、2000年代には論文数、論文引用数などの統計資料を鑑みるに学術的にも失速の傾向がありました。2010年代になって、中国はじめ諸外国の追い上げもあって、はっきりと学術レベルの相対的な低下を突きつけられています。科学的な優位が保てなくなれば、おそらくは今後、技術レベルでも失速することでしょう。「ものつくりの国ニッポン」もいずれは過去の話になるのではないかと危惧しています。果たして、その時、日本はどうなるのか……

科学に国境はありませんが、科学者には祖国があります。
私も今は英国に居るとはいえ、日本には頑張ってほしいといつも思っています。