「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

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国際生物学賞 International Prize for Biologyについて

2018-04-22 | 学術全般に関して
20日金曜日までで今年の「国際生物学賞 International Prize for Biology」の推薦が締め切られたそうです。
おそらく多くの日本人はこの賞のことをご存知ないと思いますが、本賞は昭和天皇在位60周年を記念して、昭和天皇のご関心が強く、実際に長年研究に取り組んでおられた「生物学」の振興に貢献した科学者を国際的に顕彰するために1985年に設立されました。生物学分野の大部分はノーベル生理学・医学賞の授与分野に含まれないことから、同分野における顕彰としては世界有数の学術賞と思われます。

我が国には他にも国際的に著名な賞が幾つか存在します。
おそらく最も世界的に権威があると思われるのは「高松宮殿下記念世界文化賞 Praemium Imperiale」ではないでしょうか。この賞は芸術分野に与えられますが、ノーベル賞が文学以外の芸術分野をカバーしていないことから、同分野では世界最高峰の名誉とも言われているそうです。残念ながら私自身は芸術には疎いですが、このような顕彰活動を通じて、日本が世界に貢献しているのを嬉しく思います。
また、自然科学分野をカバーする賞としては日本国際賞と京都賞が有名です。とくに後者の京都賞は、自然科学分野だけでなく哲学・芸術分野に対する表彰も行っており、様々な点で特徴的な内容となっています。
ノーベル賞だけでなく様々な賞や顕彰が世界にはあり、色々な形で科学振興が図られているのですが、日本は先進国として多くの貢献を果たしていると思います。

さて、国際生物学賞についてです。
この賞の設立に取り組まれた東京大学名誉教授の毛利秀雄先生の著書によると、当初は「国際恩賜賞」という名称にする動きがあったようです。すでに国内には皇室から授与される「恩賜賞」が各分野にあり、本賞もその一環とする構想が当時の宮内省、文部省にはあったようです。しかしながら、当の昭和天皇が「恩賜」という言葉に含まれる印象(royalやimperialという言葉にはすこし帝国主義的な響きが含まれます)を避けるご意思を示されたことから、国際生物学賞という名称に落ち着いたという経緯があったそうです。
「日本の賞なのだから、日本国際賞や京都賞のように、『日本らしさ』を名称に盛り込んだら良かったのに」という意見を述べた元日本分子生物学会長もいましたが、私はこの国際生物学賞という名称で本当に良かったと思っています。たしかにシンプルではありますが、政治的な意図はなくただ純粋に生物学を振興したいと願った昭和天皇のご意向が正しく反映されていると感じるからです。

この賞の歴代受賞者の中には、大隅良典・東京工業大学栄誉教授のようにノーベル賞を受賞された方もいますが、基本的にはノーベル賞とは関係がない純粋な生物学領域において貴重な貢献をして、将来は教科書に名前が残るであろう人物に与えられています。こういう方々に対してすこしでも報いる賞が日本にあるというのはとても素晴らしいことではないかと思うのです。たとえば今年の表彰分野は「古生物学」とのことですが、本賞を通じてそのようなマイナーな分野(といったら怒られるかもしれませんが)に注目が集まるのは良いことだと思います。

もともと日本の皇室は、昭和天皇、今上天皇、秋篠宮など、代々、生物学への関心がきわめて高いことで知られています。学者君主というのは、もしかしたら戦時にはすこし頼りなく思われることもあったかもしれませんが(昭和天皇の生物学研究に対して批判的な侍従武官がいたというエピソードがあります)、しかし、学術を通じて人類の繁栄を希求するというのは平時においてはとても素晴らしい姿勢ではないでしょうか。
私は、日本の皇室の在り方について色々な意見があるのは知っていますが、国際生物学賞の顕彰という形で世界に貢献しようとする日本の姿勢はもっと評価されても良いように思います。そして、もっと多くの方々にぜひ国際生物学賞を知ってもらえたらと思うのです。


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