「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

Brexitに対する英国科学界の懸念

2018-10-25 | 学術全般に関して
よく知られている通り、Brexit(英国による欧州連合離脱)は2019年3月29日午後11時(英国時間)に予定されており、英国がEUに留まる残り時間はもう半年もない状況です。

このBrexitを目前に控えて、ノーベル賞受賞者ら英国科学界の大御所達が英国政府に「英国と欧州の科学へのダメージを避け、国境を越えた人材とアイデアの交流を保ってほしい」と要望したことが今週BBCによって報道されたばかりですが、さらに、10月25日の英国発の国際科学誌『ネイチャー Nature』でも「英国の大学がEU離脱を目前に研究資金確保のためEU加盟国の機関との連携を求める」という記事を掲載しました(上写真)。これらの動きからは英国科学界の深刻な焦りを感じられます。

英国の科学界は世界で1、2を争いながら、つまり米国と熾烈な競争を繰り広げながら、その指導的な地位を長年にわたって守ってきました。
その背景には、英語圏であるアドバンテージを最大限に活かして、EU諸国から優秀な人材を吸い上げるという構造がありました。実際、オックスフォード大学やケンブリッジ大学を含む英国の研究型公立大学連合『ラッセルグループ Russell Group』においては、その研究推進力をEU諸外国から来た研究者達と研究資金が担ってきた面がありました。しかし、もし英国がBrexitを強行したせいで、EU資本(人材と資金)が英国に流入しなくなってしまったら、英国の地位を守り続けることが困難であるのは自明です。
したがって、移民の受け入れを拒否できて無邪気に喜ぶ方々を横目で見ながら、科学界では真剣にその損酷な影響が懸念されてきたのでした。本学でもBrexitによる懸念は強く、とくにEUから研究助成を受けることが出来なくなるのを防ぐために、積極的にEU諸国との連携を深めているようです。

さて、一体、どうなることやら…

すこし穿った見方をすると、英国の窮地は、日本の好機でもあります。
つまり、英国から流出するとみられる優秀な人材を出来るだけ多く引き込むなど、日本の科学的地位を底上げする好機でもあるのです。実際、シンガポールやオーストラリアなどから研究者に対する求人が現在英国に集中しています。例えば、私の所属する研究センターでもBrexitを前にして、がん研究の優秀な研究者達がオーストラリアの学術機関にかなり引き抜かれてしまいました。
しかし、残念ながら、今の日本には今回のBrexitに便乗して英国から優秀な人材を大量に確保しようという野心的な動きはなさそうに見えます。英国の研究競争力が低下すれば、その分相対的に日本の競争力が向上して、差を詰めるチャンスなのですが。まあ、「科学技術立国」等の美辞麗句は大好きなくせに、科学振興策の中身が伴わないのは今に始まったことではありませんが…

日本は、たぶん、すこしのんびりしすぎです。


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