清き心と.未知なるものの為に⑮・・・ダグ・ハマ-ショルド日記より
かような陰湿な秋の日には、しばらく街路から街路へとそぞろ歩きする以外に、なにが
できようか。-------流れに身を任せて漂うのである。
生命なきものに固有の重たさで、群衆はゆるやかに流れてゆく。流れが詰まって静止す
こともあり、また、いくつかの流れの出会うところでは、ものうげにのろのろと渦を巻く
こともある。ゆるやかで、灰色をしている。11月の1日が暮れそめ、、光は低く層をなす
冷え冷えした雲のなかに消えたのに、黄昏はまた宥和や平安をもたらしてくれない、そん
な時刻なのである。
ゆるやかで、灰色をしている。都会の街路という持たぬこの人たちは、すべてが彼自身
に似ている。-------いずれも原子なのである。ただし、そこから放射能は消え失せ、その
力は虚無のまわりをめぐったすえに、果てしなく続いた環状軌道をすでに完結してしまっ
ている。
「光のうちに消えて、歌に転身すること」世間の手前という舞台で自分の名を名乗って
いる登場人物と本来のわれわれと繋いでいる紐帯(ひもおび)を手放すこと。------その登場
人物とは、社会的な名誉欲により、また意志の力によって自覚的に築かれてきたものなの
である。-------紐帯を手放したら落ちてゆくこと。いっさいを任せつくして落ちてゆくこ
と。ほかのものにむかって、なにかほかのものに向かって。
敢行すること。
彼は行人のひとりひとりの顔立ちを探る。しかし、乏しい光りしかないこととて、彼に
見えるのは、彼自身の思いきりの悪さをテ-マとした限りのない変奏曲ばかりである。一
度も敢行したことのない人たちにたいする刑罰を、ダンテならば、おそらくはそのような
仕方で創造したかもしれぬ。-------自己減却という道を通って完成に赴くためには、ひと
りひとりが完全にひとりきりで進まねばならぬ。その境界のこちら側に留まっている者は
すでにそれを乗り越えた人のもとに行きつく道をついにみいださないであろう。
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