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「主権回復の日」記念式典で失われたもの (その2)再掲

2024-07-04 | Weblog

「主権回復の日」記念式典で失われたもの (その2)再掲

 「主権回復の日」記念式典で失われたもの (その2)再掲
 2013年4月28日、政府はサンフランシスコ講和条約が発効(1952年)し、主権が回復されたことを記念して、記念式典を憲政記念館で開催した。同記念式典には、天皇皇后両陛下も出席されたが、生活、共産、社民の3党とみどりの風や沖縄県知事が欠席した。
 日本は、1945年8月15日の終戦の後、米、英などの戦勝国である連合国の占領下に置かれ、主権を大きく制限されたが、サンフランシスコ講和条約の発効をもって主権が回復されたとされている。
1、現行の日本憲法は否定されるのか?      (その1で掲載)
2、影を落とした“国民統合の象徴”である天皇  (その1で掲載)
3、占領下の「東京裁判」も否定される!?
 連合国は、1946年に極東国際軍事裁判所(通称東京裁判)を設置し、大東亜戦争から太平洋戦争に至る軍人中枢の他、首相、大臣等を戦争犯罪人として裁判した。
 東京裁判は、昭和天皇の誕生日である同年4月29日に開始され、東郷英機首相(当時、軍人出身)はじめ25名の主要責任者が1948年11月に死刑(A級戦犯)或いは終身刑等として判決され、同年12月23日(現天皇誕生日、皇太子殿下当時)に処刑された。今回、講和条約の発行をもって日本の主権が回復したことを表明したことは、占領下で行われた東京裁判も押しつけであり、日本の意思ではないことを意味するのだろう。従って、大東亜戦争や太平洋戦争を主導した“A級戦犯”なども戦犯として処刑されるべきではなかったとの意見が出ることになろう。戦犯の復権であり、保守リビジョにストの台頭となる。
 4月に麻生副首相兼財務相、古屋国家公安委員長兼拉致問題担当相他2閣僚が、また高市自民党政調会長など与党を中心とする168議員が、東郷英機などA級戦犯を多くの旧帝国軍人などと共に合祀している靖国神社を参拝した。国のために命を落とした方々の慰霊をお参りするのは当然のことであり、個人の自由というのが理由である。確かに個人として参拝するのは自由である。しかし靖国神社は、日本を戦争に導いた責任者(A級戦犯)が合祀されている。その上、戦争終盤には燃料不足のため片道だけの燃料を積んで米国艦船に突っ込んで行った戦闘機(通称神風特攻隊)などの武器が展示されてある戦争博物館(遊就館)があり、一般の神社とは異なるので、公人としての立場がある者が参拝することは、旧帝国軍隊による戦争やその責任者を容認、擁護するとの意味合いを持つので、私人の参拝とは異なる。韓国や中国が靖国参拝に反発しているのもそのような意味合いがあるからだろう。もっとも中、韓両国にも、信条、信仰の自由は民主主義社会では国際的に広く確立している基本的な自由であることを理解するよう期待したい。
 東京裁判の裁判官や検察官は連合国側から派遣されたものであり、裁判は公平ではなかったとして、東京裁判の判決を尊重しないとすると、太平洋戦争の責任は誰にあったのか。
 東京裁判を否定するのであれば、日本人自身が太平洋戦争の責任をきちんと総括し、判断を下すべきであろう。連合国が被った被害は東京裁判で裁かれたが、日本側にも大きな被害があった。日本人は、太平洋戦争において、この地域の戦地で兵士など約240万人死亡していると言われている。更に本土でも、沖縄では民間人を含め18万人前後、東京の空爆により10万人内外、そして広島、長崎の原爆による15万~20万人など、民間人を中心として約70万人が死亡したと言われ、東京や広島、長崎などを焦土とした。対外的な被害は被害として真摯に受け止めるべきであろうが、自国民にこれだけの被害を強いる結果となったので、このような惨劇を繰り返さないためにも責任を精査する必要があろう。
 また連合国側も、沖縄や東京等の多数の民間人や民間施設等に甚大な犠牲や被害を与えており、民間人(シビリアン)など非戦闘員を保護するという陸戦法規(1899年ハーグ陸戦条約など)の趣旨に反するところであり、また広島、長崎両市への原爆という大量破壊兵器での大量殺戮(ジェノサイド)は戦争法規の趣旨や人道上の観点から、本来的には適否を問われても良いのであろう。それは今後の世界において、軍事戦略や戦術の論理だけでなく、軍事活動のシビリアン・コントロールやシビリアンの保護、人道の観点からも考え、戦争法規のあり方や核兵器や化学兵器など民間人や民間施設をターゲットとする無差別攻撃の抑止などを考える上でも必要なのかもしれない。
 歴史に“もし”ということはないのだが、戦後もし世界が広島、長崎の一般人、施設等の大量殺戮や大量破壊を原子爆弾による大量殺戮(ジェノサイド)として責任を問い、国際的な処罰をしていれば、現在の核兵器国の核保有や北朝鮮など一部諸国による核兵器開発などは禁止されていたのであろう。
 歴史は後ろには戻せないが、占領下の連合国による東京裁判や戦争犯罪人の処罰を否定するのであれば、戦勝国、敗戦国双方につき戦争の責任を問い直すことは出来るのであろう。(2013.4.28.)
(All Rights Reserved.)(不許無断引用)
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甘い情勢認識と‘積極的平和主義’の代償 (総合編) (再掲)

2024-07-04 | Weblog

甘い情勢認識と‘積極的平和主義’の代償 (総合編) (再掲)
 <はじめに>イスラエルによるパレスチナ領域とされるヨルダン西岸への入植拡大等が進む中で、パレスチナの武装集団ハマス(分断されているガザ地区を実効支配)のイスラエルへの大規模攻撃(2023 年10月 7日)に端を発するイスラエル軍によるガザ地区報復攻撃により、中東紛争が再燃した。これは第2次世界大戦後のこの地域におけるイスラエル建国以来のパレスチナとの対立であり、エルサレムがキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地となっていることから、イスラエルを欧米諸国が支持し、十字軍以来のキリスト教とイスラム教の対立に根ざしている宗教戦争の様相を呈している。
 この背景として「イスラム国」(ISIS)出現と欧米諸国との対立と日本の対応のあり方について記した本稿を再掲する。(2023年10月28日)

 2015年1月20日午後(日本時間)、“日本政府及び日本国民へ”として「イスラム国」(ISIS)からと見られるビデオメッセージがインターネット動画YouYubeに投稿され、人質としている日本人2名(湯川、後藤両氏)をひざまずかせ、“身代金2億ドルを72時間以内に支払わなければ殺害する”旨表明した。動画に映る男は、背丈や、左手にナイフを持ち、拳銃をホールダーに吊るしており、手の動きや、喋る時に首を左右にかしげる仕草、英語のなまりなどから、昨年米国人や英国人を前にして同様の通告をし、その後殺害した人物と酷似している。営利目的にせよ、政治的な目的にせよ、許し難い国際犯罪行為だ。
 この戦闘員姿の人物は、“日本の首相よ”と呼び掛け、“「イスラム国」から8500キロ以上も離れているのに、自ら進んでイスラム国に対するこの十字軍に参加した”としつつ、2人の命は2億ドルとした。更に日本国民に呼び掛け、“日本政府はイスラム国に対する戦いに2億ドルを払うという愚かな選択をした”とし、命を救うための金額を2億ドルをとした理由に言及しつつ、期限は72時間などと迫った。
 安倍首相は、1月16日から1月21日までの予定でエジプト、イスラエル、パレスチナ等の中東諸国を訪問中であった。そして1月17日、最初の訪問国エジプトの経済合同委員会において演説し、「中東全体を視野に入れ、人道支援、インフラ整備など非軍事の分野で、25億ドル相当の支援」を新たに実施することを表明すると共に、イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISIL(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためとしつつ、「人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援」することを約束した。
 その2日後に、「イスラム国」側から首相に宛てた2人の日本人人質に対する上記の身代金要求と殺害予告が行われた。
 そして「イスラム国」(ISIS)側は期限までに身代金は支払わられないとの心証を得たのだろうか、1月24日、後藤氏が湯川氏の遺体と見られる写真を持つ映像をインターネット動画サイトで公開しつつ、後藤氏が英語で、身代金ではなく、ヨルダンの首都アンマンで連続ホテル自爆テロ事件に関わった‘サジダ・リシャウィ死刑囚’を釈放するようにとの「イスラム国」側の要求を伝えた。次いで1月27日午後11時頃、後藤氏が2014年12月にISの捕虜となったヨルダン軍パイロットと見られる男性の写真を手にし、“私には24時間しか残されていない”と述べ、‘リシャウィ死刑囚の釈放’を求めた。1月29日、「イスラム国」側は、リシャウィ死刑囚(ヨルダンで収監中)を29日日没(現地時間)までにトルコとIS支配地域との境界に連れてくるよう要求する声明をインターネットに公開した。しかしヨルダン政府側は、捕虜となっている同国パイロットとの交換を優先しつつ、同パイロットの安否の確認が得られない限り応じないとしていた。しかし2月1日午前5時過ぎ、「イスラム国」側は、“日本政府へのメッセージ”として、最初に登場した戦闘員と見られる男が“日本が有志連合に加担していること”を非難した後、後藤氏を殺害したとする映像をインターネットに公開した。そして男は、“日本の愚かな決定”により後藤氏は死ぬが、“今後日本の国民は何処にいても殺戮されるだろう”と結んだ。日本は今回の事件の対応で、2人の尊い命を失った上、世界における日本人の安全を著しく低下させる結果となった。
日本人2名の「イスラム国」側による人質事件は、大変残念ながらこうして最悪の結末となった。
 このような犯罪行為が許されて良いものではない。しかし同時に次のような課題もある。
 1、甘い国際情勢認識と危機管理意識の欠如
 昨年8月に湯川氏がいわゆる“イスラム国”領内で捕まっていることや米国や英国のジャーナリストが捕まり、米、英が要求に応じなかったため処刑されたことなどは広く知られていたところであり、また、その救出のために昨年10月に後藤氏が“イスラム国”領内入って捕まり、11月頃より家族に対し10億円、或いは20億円にのぼる身代金を要求されていたことも外務、首相官邸サイドは知っていたとしている。
 このような状況にありながら、首相が中東に出向き、いわば“イスラム国”の面前で「ISIL(“イスラム国”)と闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援」することを約束すれば、“イスラム国”を刺激し、人質となっている2人の日本人の命を危うくすることは十分想定出来たはずである。
 日本が、国際テロとの戦いに各国と協力することは当然であろう。しかし“イスラム国”に対し、米、英両国を始めジョルダンなど50カ国近くの有志連合が“イスラム国”掃討のため連日のように空爆している最中に、日本が米国との同盟関係を強化し、集団的自衛権行使の実現を推進すると共に、中東での反“イスラム国”諸国を支援することを表明すればどのような結果を招くかを十分認識すべきであろう。
 事前の地域情勢判断の甘さと危機管理意識の欠如を指摘されても仕方がない。
更に後藤氏殺害の映像を受けて、安倍首相は安保関係閣僚会議の後、記者団に対し、これを非難すると共に、「テロリストたちを決して許さない。罪を償わせるために国際社会と連携する」としつつ、「食糧支援、医療支援などの中東への人道支援を更に拡充する」とした。テロを容認出来ないことについては全く同感であるが、「イスラム国」側が、後藤氏を殺害した後、“今後日本の国民は何処にいても殺戮されるだろう”としており、日本人への危険が高まっている時に、「中東への支援を拡充する」との趣旨を何故この時点で表明するのだろうか。日本は今回の事件の対応で、2人の尊い命を失った上、世界における日本人の安全を著しく低下させる結果となった。もう少ししたかな熟慮があって良いのかもしれない。世界における日本人の安全確保において政府首脳の言動が大きな影響を与えるものと予想され、日本が今後どのように外交を展開し、対外説明して行くのかなど、課題が残った。
 2、「積極的平和主義」等の犠牲と代償
 安倍政権は、ベトナムからインド、トルコに至る諸国を‘自由と繁栄の弧’とし、これら諸国との関係を増進すると共に、世界の平和と安定に積極的に貢献するという‘積極的平和主義’を推進しようとしている。今回の中東訪問もその一環と見られ、これら諸国に総額25億ドルの支援を表明すると共に、「ISIL(イスラム国)と闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度の支援」を約束した。
 このような外交姿勢は日本にとって一つの選択肢であろうが、‘積極的平和主義’には国民の大きな犠牲や代償が必要となることを国民は認識すべきであろう。今回の事件からそれが国民の目に明らかになった。
 また安倍政権は、日米同盟関係の強化を図り、更に集団的自衛権の行使を可能にし、海外での軍事行動には参加しないまでも、世界の平和と安全に米国と行動を共にし、‘積極的平和主義’を推進する方針としている。日米同盟関係の強化も日本にとって選択肢の一つであろうが、そのような対外姿勢により、日本は米国の外交、安全保障政策と同一視され、犠牲や代償を強いられることになろう。国民はそれを十分に認識すべきであろう。それ以上に、自・公政権は、このような国家目的の遂行のために、国民に犠牲、代償を強いることがあることを説明する責任があろう。同時に国民の生命、財産に大きな犠牲を強いる以上、政権側には結果責任を取る覚悟が必要であろう。
 そして日本がどのような対外姿勢をとるかは、最終的には国民が選択することになるので、国民の一人一人が日本の取るべき道を選択し、明らかにする必要があろう。
 なお、1月20日に“イスラム国”側から身代金要求がなされてから、日本政府は米国を含む関係各国と連絡を取り合ったが、米国が早い段階から‘テロとの戦いに日本と連携し対応する’旨表明する一方、国務省報道官が‘イスラム国側の要求に応じるべきではない’ことを再三にわたり内外に表明していたことは、心強かった反面、自国民なら兎も角、日本国民の生命が掛かっている時に、他国の手を縛り、日本人の命を危うくするような言動を表明することは踏み込み過ぎではなかろうか。日本側が、「イスラム国」が“有志連合による十字軍”と非難し、敵対関係にある諸国に協力や情報提供を求めることは良いとしても、それを公にし、米国が‘連携’を約束することにより、日本の反「イスラム国」色が際立つ結果となったと言えよう。
 またシリア、イラクに隣接し、日本と友好関係にあるヨルダンに現地対策室を設けたことは一見適切のように見えるが、ヨルダンが‘有志連合’による空爆に参加しており、「イスラム国」にとっては敵対国であるので、情勢判断の甘さが指摘されても仕方がないであろう。
 3、国民の側の危機管理意識と自己責任
 同時に、“イスラム国”の支配地域に足を踏み入れた2人の日本人についても、地域情勢の認識の甘さや危機管理意識の欠如、安易さが指摘されると共に、後藤氏自身が同地域に向かう前にビデオで表明していた通り、無謀な行為に対する自己責任意識をより強く持つことが望まれる。
 今回犠牲になられた日本人及びそのご遺族には、心から哀悼の意を表したい。このような残虐な国際犯罪を遂行する“イスラム国”の行為を容認することは出来ない。
 しかし“イスラム国”域内は内戦やテロ活動が続く一方、米英などの‘有志連合’による空爆が連日のように行われている戦闘地域であり、著しく危険な地域であることは分りきっていることである。そのような地に赴く行動の責任は重く、今回のような行為は容認出来ないが、残念ながらその結果は本人自身が受けていることを認識すべきであろう。
 なお、湯川氏が設立した‘民間軍事会社’とは一体どのような目的があるのか疑問だ。湯川氏自身も、自動小銃を保持して“イスラム国”領内に入り捕虜となったと見られている。民間戦闘要員や民兵の派遣・訓練、軍事物資の提供を“イスラム国”などに行うためなのか。警備会社ならともかく、‘民間軍事’事業の内容如何では非社会性も疑われるところであり、日本において認めて良いのか疑問は多い。また後藤氏については、家族へ身代金要求が来ているなどが明らかにされているが、湯川氏については‘民間軍事会社’へのこのような要求があったのか、或いは昨年8月以降救出のための努力はなされていたのかなど一切明らかにされていない。会社側に説明責任があるのではなかろうか。
 4、余り語られないもう一方の攻撃
 “イスラム国”の残酷、非人道的な犯罪行為を容認できない。世界のイスラム教信者は13億とも16億人とも言われているが、多くのイスラム教信者は‘公正’を尊重し、このような行為を支持はしていないと考えている。
 他方、殺戮行為は“イスラム国”やイスラム過激派だけが行っているものではない。米国を中心とする有志連合は、“イスラム国”支配地域を‘2000回以上空爆した’としており、空爆により多くの一般市民を殺傷し、各種の非軍事施設を破壊したと見られている。しかしその詳細はほとんど報道されておらず、知られていない。
 “イスラム国”圏外においても、アルカイーダ・グループなどの米国を中心とする‘国際テロとの戦争(War against Terror)’は行われている。2001年の米国での9.11同時多発テロ以降、主としてアフガニスタン、パキスタン北部、イラク、イエメンなど、イスラム過激派への攻撃は続けられて来た。
 その詳細は余り伝えられていないが、多くの子供を含む民間人が巻き込まれ、殺害されている。米、英の民間組織が情報を集め、公表している。
 ロンドンのジャーナリズム検証事務局(BIJ)によると、2015年1月現在、米国の無人飛行機による爆撃は413回、死者は2,438から 3,942人、その内民間人の死者は416から959人で、168から204人の子供が含まれるとしている。
 アフガニスタンでは、米国の無人飛行機による爆撃は2002年以降1000 回以上行われており、民間人も巻き添えになっていたため、当時のカルザイ大統領は懸念を表明した。最近でも、2014年6月にパキスタン北部を無人飛行機が2度に亘り爆撃し、モスレム戦闘員とされる少なくても16人が死亡したとされるが、いずれも詳細は明らかにされていない。
 またイエメンでは、2014年11月、米国の無人飛行機による爆撃により、シャブワ州の訓練サイトとされる場所より戻っていたトラックが破壊され、アルカイダ戦闘員と疑われる10人と3人の労働者が殺害され、他2名が負傷したとされる。イエメンには、アルカイダ・アラビア半島グループ(AQAP)が存在し、戦闘員訓練センターがあるとされるが、トラックの乗員を確認し、民間人の被害を避けることが困難など問題が指摘されている。
 このように米国を中心とする多国籍軍や有志連合によるイスラム過激派に対する攻撃は各地で行われており、民間人や子供が巻き込まれて多くの死傷者が出ていることも事実であり、イスラム過激派にも言い分があるのであろう。またアフガニスタンなどで捕らえられたアルカイーダ分子などが、キューバにある米国のグアンタナモ刑務所に収容され、取り調べを受けていたが、その間各種の屈辱行為が行われたと報道されており、これに対する批判等があっても仕方がない。テロ行為を容認する気は毛頭ないが、過激派によるテロ行為や暴力は許さないが、欧米等による空爆や無人機爆撃により民間人、子供を巻き込んで殺傷するは容認するということであれば、心情論は別として、フェアーさを欠く。空爆等による被害内容の詳細はほとんど伝えられていない。ジャーナリズムを含め、物事を見る時は、或いは物事を解決しようとする場合は、双方の状況を見極めないと公正な見方や解決策とはなり難い。
 中東の情勢は、歴史的にキリスト教、ユダヤ教、イスラム教という3つの宗教と部族集団が絡み、そしてフランス、イギリスの植民地支配を経て今日に至っており、複雑な歴史的背景がある。また一方で石油という戦略物資が存在し、他方で長期化するイスラエル、パレスチナ間の中東紛争を抱えており、経済的にも政治的にも国際情勢に全体に大きな影響を与えている地域である。
 従って「イスラム国」の問題は、第一義的には周辺のイスラム教諸国の問題であろう。これら諸国のイスラム教最高指導者レベルが会合し、イスラム教はこのような残虐なテロ行為や暴力を容認しないことを表明すれば、世界のイスラム教への誤解をとけるだろう。
 このような中で、米国は2001年9月の同時多発テロの後、アフガニスタンのタリバンとその庇護下にあったアルカイーダに対するいわゆる‘テロとの戦争’を開始した。また化学兵器など大量破壊兵器を保持しているとの情報に基づき(その後この情報は誤情報と判明)、サダムフセイン政権下のイラクに侵攻したが、米、英両国を中心とする多国籍軍の10年以上の軍事行動や支援にも拘らず、アフガニスタンについてもイラクについても樹立された政権が未だに全土を掌握出来る状況にない。更にイラクについては、シーア派(多数派)を中心とする政権を樹立させたものの、処刑されたサダムフセイン大統領の出身母体であるスンニ派(少数派)の支配地域(バクダッド以北)からシリア北部に掛けて「イスラム国」の出現を許している。
 また当初から恐れていた通り、アルカイーダなどのイスラム過激派は、イエメンやアフリカ中央部等に拡散している。またチュニジアからエジプトに掛けての‘アラブの春’と言われた民主化の波も、リビア、エジプトなどではイスラム過激派が浸透しており、安定していない。
 このようにイスラム過激派は中東、アフリカを中心として世界に拡散し、ボーダーレスの脅威となっている。また欧米諸国には第2世代の過激派や共鳴者も出現しており、米国、英国、フランスなどでテロ行為が行われている。
 2001年末から開始された‘国際テロとの戦争(War against Terror)’は、14年間継続され、アフガンとイラクに政権を樹立したものの、過激派テロ集団は押さえ込みに成功はしておらず、逆に世界各地に拡散、拡大しているのが現実だろう。
 一定の軍事行動による抑止と制圧は必要ではあるが、これまでのような軍事力と武力による制圧だけで良いのであろうか。アフガニスタンとイラクだけでも10年以上の月日を費やし、未だに先が見えないのに、更に「イスラム国」壊滅に向けて戦争を継続するのだろうか。テロ分子は世界各地に拡散しており、これから何年、何十年このような武力と暴力の連鎖を続けることになるのだろうか。
 「イスラム国」の問題は、まず周辺のイスラム教諸国の問題だ。中東情勢は、歴史的、宗教的、政治的に複雑で、周辺諸国を除けば、英、仏など旧植民地国、及びイスラエル、パレスチナ問題と石油資本に深く関わってきた米国等がより良く知っているだろう。従ってこれら欧米諸国と周辺イスラム教諸国と協議して、今後の対応を進めることが望まれる。
 日本は、石油をこの地域に依存してはいるが、歴史的に中東に足を踏み入れたことは無く、また人口の70%以上がブッダ教関係であり、神道を含めると宗教的にもイスラム教諸国との接点は少ない。しかし人道支援や難民支援を行うのは良いが、今回の事件の対応の仕方で、日本は欧米諸国を中心とする反「イスラム国」‘十字軍’に加担している国とのラベルを貼られてしまった。この地域での石油関連ビジネスもこれまで以上に危険にさらされることになるので、石油の確保、エネルギーの安全保障にも反するマイナスとなった。
国連の動きも鈍い。安保理は「イスラム国」の残虐な行為を非難したが、事務総長は仲介努力をしようともしていない。シリアのアサド大統領政府と反政府グループとの仲介も中途半端で放棄し、その後も難民問題を含め注目すべき動きはない。関係国に任せており、機能不全のようにも見える。国連事務総長の役割が課題となろう。
 いずれにしても米国により始められた‘国際テロとの戦争(War against Terror)’は、一定の効果はあり、心情的には成功を祈りたいが、国際テロの根絶どころか縮小にも成功していない。これまでの軍事力や武力に頼る政策から、イスラム教諸国との対話や協議を通じ一層の信頼醸成を図ると共に、法に基づく公正な対応も考えて行くべきではなかろうか。
(2015.2.5.)(All Rights Reserved.)

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米韓軍事同盟に日本は参加すべきではない (追補版)再掲

2024-07-04 | Weblog

米韓軍事同盟に日本は参加すべきではない (追補版)再掲

(はじめに)

 米海軍原子力空母‘セオドア・ルーズベル’が、2024年6月22日、韓国釜山に入港した。韓国側は、今月末に予定されている米韓両国による軍事訓練‘フリーダム・エッジ’に日本が参加し共同軍事訓練が実施するためと発表した。

 北朝鮮の対韓国挑発行動が繰り返される中、プーチン・ロシア大統領が訪朝し、6月19日、北朝鮮の金正恩総書記と平壌で首脳会談後、‘包括的戦略パートナーシップ条約’に署名した。この包括条約には、一方への第三国による攻撃が行われる支援することが含まれており、事実上の軍事同盟化を意味する。これにより、北朝鮮は、休戦中の朝鮮戦争が再発した場合には、既に相互軍事援助に合意している中国カードと共にロシア・カードを手に入れたことになる。また軍事、経済面での相互交流、協力が活発化することになる。

 他方、米国は、中国に加えロシアが軍事同盟国として控えているため北朝鮮に侵攻することは実態上極めて困難な情勢になった。

 韓国メデイアは「北とロシアが関係を深める中、米韓及び日の共同軍事訓練が北への警告のメッセージになる」旨報道している。北挑戦との紛争当事国である韓米両国にとってはその通りだ。しかし、北朝鮮攻撃を念頭に置いた米韓共同軍事訓練に日本が参加することは、紛争を招き入れるだけであり、自衛どころか国家国民の安全保障を著しく損ない国益に反する。ましてや日本が米韓軍事同盟に参加することは、休戦中の朝鮮戦争が再発する場合、北朝鮮だけでなく、中・ロ両国との軍事対立に巻き込まれることになり、論外である。このような重要事項を防衛当局や安全保障専門家等だけで判断出来るものでもない。このような情勢を念頭に、本稿を再掲する。(2024/06/26)

 

米韓軍事同盟に日本は参加すべきではない 再掲

 Ⅰ、岸田首相は2023年5月7日訪韓し尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。2013年以降安倍政権の下で靖国神社参拝問題、従軍慰安婦問題、戦時における韓国人徴用工問題など歴史認識問題を巡り停滞していた日・韓関係が改善されることは歓迎されるところである。
 その中で、地域情勢、特に北朝鮮問題については、『日米同盟、韓米同盟、日韓・日韓米の安全保障協力により抑止力・対処力を強化することの重要性について一致した』とされ、5月19日より開催されるG7広島サミットの際にユン大統領を招き、日韓米首脳会合を開催することとなった旨公表されている。
 核、ミサイル開発・配備を含む北朝鮮問題については、朝鮮半島情の緊張を激化すると共に、核拡散を助長するものとして強く非難されるところであるが、北朝鮮への『抑止と対処』については、次の通り米韓両国と日本とは立場を異にしていることを認識すべきであろう。
(1)朝鮮戦争は現在休戦状態にあるだけで、南北両国は敵対関係にあり、朝鮮戦争が再発する可能性がある。日本は朝鮮戦争の当事国ではなく、また日本の安全保障・防衛上このような地域紛争に関与すべきではない。従って日・韓が北朝鮮との関係においた協力して『抑止、対処』すべきものではない。
(2)米国は当初より韓国の庇護者として朝鮮戦争の当事国であり、韓国と共に休戦協定の当事国である。また米国は韓国軍隊の指揮権を有しているので、米韓は軍事的に一体となって軍事同盟を形成している。日米同盟は日本の防衛に主眼を置いたもので、基本的に米韓軍事同盟とは性格を異にすると共に、朝鮮半島における紛争当事国である米韓との安全保障上の具体的な協力や同盟関係は、朝鮮戦争を引き寄せ、飛んで火に入る虫のような結果となるので、日本の安全を著しく損なうことになる。日本側外交・防衛当局にこの認識が欠けている。
 北朝鮮を巡っては日本としては米韓両国との情報交換を越えることは望ましくない。日本海における米韓・日の海空合同軍事演習も北を挑発する防衛当局の拙速行為であり望ましくない。
(3)北朝鮮の核開発、生産・配備は核拡散をもたらし、国際的な緊張を激化すのみであり非難される。しかし核不拡散の実態は、インド、パキスタン、イスラエル及び北朝鮮が核保有しており、既に核拡散防止条約(NPT)の枠外で拡散している現実がある。またNATO諸国の内、ドイツ、ベルギー、イタリア、オランダなどが米国と核共有(核シェアリング)していることが知られており、核NPTで禁止されている「非核兵器国による核兵器の獲得又は保有」に実態上違反しているとも言える。従って国際的な核不拡散レジームは後退しているのが現実である。更に5核兵器国(国連常任理事国)はNPT上核軍縮を行う義務があるが、実行されていない。
 その上5核兵器国は核の生産・保有・使用を禁止する核兵器禁止条約にも反対している。日本もこの条約に反対しているが、岸田首相が安倍政権下の外相だった時だ。広島で開催されるG7首脳会議では、この条約を支持する非核兵器諸国にどのような『橋渡し』が出来るのだろうか。

 なお、北朝鮮による日本人拉致問題については首脳会談で言及された趣だが、日本国民の生命と財産の安全ということであれば、ソウルに本部がある国際統一家庭連合(=統一教会)の活動が多くの日本国民の財産と安寧な生活を奪っていると共に、多額の金が韓国や北朝鮮などに送金されているので、統一教会の日本での非社会的な活動の是正に言及されていないことは、この問題を黙認した形となり問題が残る。この時期にソウルで開催された統一教会合同結婚式についても、日本から600人ほど男女が参加したと言われるが、既に農村部に5千人以上の日本人が韓国農村部で生活していると言われているので、邦人保護の観点からこれらの人々の人権、人道、そして尊厳が守られているかも問題であり、韓国側の善処を求めると共に、調査することが望ましい。(2023/05/09追記)


 Ⅱ、韓国の対応

韓国の康京和(カン ギョンファ)外交部長官は2017年10月30日、議会での外交関係の国政監査において、対北朝鮮防衛強化のため配備された米国の迎撃ミサイルTHAADを巡り悪化している中国との関係について、中韓首脳会談開催への期待を表明しつつ、次の3つの立場を明らかにした。
・THAADの追加配備は行わない。
・米国のミサイル防衛(MD)システムに参加しない。
・韓日米安保協力は軍事同盟に発展しない。
 これはTHAADの配備を巡り悪化している中韓関係の‘復元’、正常化を狙った発言と見られており、‘三不’政策とも言われている。
 これに対し中国外務省は、同日午後に報道官が康長官の発言に関連して、「韓国側のこうした3つの立場を重視する」とし、韓国側がこれを実際に行動に移すことを願う旨述べた。しかし中国側が、韓国外交部長官の発言を‘約束’との表現を用いたため、韓国内でも議論となっている。
 中国側は、韓国におけるTHAAD配備と共に、米韓日の軍事同盟化を強く警戒していると見られ、中国が10月の全人代で習体制を固めて以降、日本との関係を改善する姿勢になっているのはこれを阻止するためとも思われる。
 韓国が、米韓日の軍事同盟を望んでいなければそれに参加する必要はない。日本側がそのような意向を表明したこともない。もっとも軍事同盟については、一方の同盟国への北朝鮮を含む第三国からの攻撃は日本への攻撃とみなされ、参戦しなくてはならなくなるので、日本の現行憲法ではそのような軍事同盟に参加することは困難であろう。従って韓国側から言われるまでもない。
 そもそも朝鮮戦争は1953年の休戦協定により軍事対決こそ回避されているが、米韓両国と北朝鮮は現在でも敵対関係にあり、北の核、ミサイル開発は基本的に米韓への対抗措置として進められているものである。日本は、朝鮮戦争の当事国でもない。また第二次世界大戦後、北朝鮮とは平和条約を締結していないが、2002年9月に小泉首相(当時)と金正日総書記(当時)とで調印された日朝ピョンヤン宣言において、拉致家族問題の他、日朝国交正常化交渉の開始などが盛り込まれており、この宣言は自・公連立政権において破棄はされていない。
従って政策論としても、朝鮮半島有事の場合には米軍への必要な後方支援は行うことになろうが、日本及び日本国民の安全のためにも、米韓との軍事同盟に参加しないことが賢明な選択肢と言えよう。(2017.11.23. )

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衆院総選挙もさせてもらえなかった福田総理辞任の「変」― (再掲)

2024-07-04 | Weblog
<はじめに>

 2008年9月1日、福田康夫首相(当時)が、緊急記者会見を開き「新しい布陣の下で政策の実現を図って行かなくてはない」旨述べ、辞任を表明した。後期高齢者医療保険の反発など反発など、内閣支持率の低迷に加え、衆院選の時期をめぐり公明党との亀裂が生じ、参議院で多数を占める民主党が対決姿勢を強める中で、与党内での信頼も失い、手詰まり状態となり、自ら解散、総選挙すら打てずに退陣となった。

 現在国会は衆参とも自公両党が多数を占めているが、旧統一教会に多数の自民党議員が関係し、また政治パーテイ裏金問題で自民党の主要派閥が関与し世論から厳しい批判を浴び、国会運営が円滑に進まず、また岸田内閣への信頼が無くなり支持率が下がり続けている。現在与党自民党は、現内閣の下で総選挙を打っても勝算はないとする意見が強く、早くも9月の自民党総裁選挙に向けて候補者選びに入っている。現内閣はずるずると9月までポストにしがみつき、9月には、総理総裁の座から外され、自らは総選挙などを打てなくなるが可能性が高く、2008年の福田内閣と状況が非常に似ている。

 首相は、安部元首相の3回忌において、「阿倍政治を継承し、次代に引き継ぐ」旨表明したと伝えられている。しかし阿倍政治自体が、7年半もの一本調子の経済金融政策による深刻な弊害、もりかけ問題での担当唐突な配転と証拠隠し、桜を見る会の不正な経理処理と証拠の破壊、更に旧統一教会の擁護や裏金の温床派閥となっていたことなど、法令遵守に反する政治運営をしていたことが明らかになって来たている。それを継承し「懸案を処理し、結果を出す」と言うのであれば、解散、総選挙を行い、自らの信念、主張を国民に問うべきではないだろうか。このような観点から、本稿を再掲する。

 

シリーズ平成の「変」-衆院総選挙もさせてもらえなかった福田総理辞任の「変」― (再掲)
 2008年9月1日、福田総理は辞任の意向を表明した。
 記者会見で述べていた通り、安倍前総理だけではなく、長期に亘る自民党政権で積み上げられた「負の遺産」を引き継ぎ、また参議院が民主党など野党に多数を占めている中で、大変苦労をされた。「負の遺産」は、福祉失政であり、経済失政、経済無策であり、行政のメタボ体質や公務員の綱紀の乱れ、そして閣僚の失言と不明瞭な政治資金など、根は深い。その中で、道路特定財源の一般財源化や消費者庁の設置などに先鞭を付け、一定の功績を残したと言える。ご苦労様でしたと言いたい。
 しかし、「自前の」内閣改造、党役員の入れ替えを行って1ヶ月にもならない中での辞任である。「変」である。今回の内閣改造、党役員人事の裏には森元総理が居ることで知られている。
 内閣改造をしても支持率は上がらず、党内では改革外しや反改革抵抗勢力の巻き返しの中で、これでは選挙が出来ないと「福田おろし」が吹き荒れていた。石油の他、諸物価高騰の中での景気後退により、景気対策が声高に叫ばれ、赤字国債の発行による大型の財政出動論が飛び出し、その先には消費税増税論が見え隠れする。路線の転換圧力である。「改革」による成長の恩恵は、反改革路線で消えた。経済失政とも言える。それをまた大型の公共事業や財政出動で浮揚させようというわけだ。バブル崩壊後、その積み重ねで800兆円以上の公的債務が積み上げられた。当時頻繁に公共投資を売り込んでいたリチャード・クー氏(野村総研主任研究員)がまた顔を出し始めている。800兆円の国の借金はどう処理するのかと問いたい。更に公債を積み上げてどうする積もりなのだろうか。
「変」である。路線転換の「変」である。
 不思議なことに、安倍前総理が政権運営に行き詰まり辞任したのは麻生太郎自民幹事長の時である。今回も、党役員人事で返り咲いた同幹事長の下での福田総理辞任である。同幹事長は2つの政権を党として支えられなかったという結果となっている。党内の路線の不一致から、党として政権運営を支えられなくなって来ているのであろう。
 これから新しい自民党の総裁が選ばれ、国会で首班指名が行われることになろう。衆議院では指名が得られても、参議院では否決される。民意を問うべき時期であろう。 (Copy Right Reserved.)
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衆院総選挙もさせてもらえなかった福田総理辞任の「変」― (再掲)

2024-07-04 | Weblog
<はじめに>

 2008年9月1日、福田康夫首相(当時)が、緊急記者会見を開き「新しい布陣の下で政策の実現を図って行かなくてはない」旨述べ、辞任を表明した。後期高齢者医療保険の反発など反発など、内閣支持率の低迷に加え、衆院選の時期をめぐり公明党との亀裂が生じ、参議院で多数を占める民主党が対決姿勢を強める中で、与党内での信頼も失い、手詰まり状態となり、自ら解散、総選挙すら打てずに退陣となった。

 現在国会は衆参とも自公両党が多数を占めているが、旧統一教会に多数の自民党議員が関係し、また政治パーテイ裏金問題で自民党の主要派閥が関与し世論から厳しい批判を浴び、国会運営が円滑に進まず、また岸田内閣への信頼が無くなり支持率が下がり続けている。現在与党自民党は、現内閣の下で総選挙を打っても勝算はないとする意見が強く、早くも9月の自民党総裁選挙に向けて候補者選びに入っている。現内閣はずるずると9月までポストにしがみつき、9月には、総理総裁の座から外され、自らは総選挙などを打てなくなるが可能性が高く、2008年の福田内閣と状況が非常に似ている。

 首相は、安部元首相の3回忌において、「阿倍政治を継承し、次代に引き継ぐ」旨表明したと伝えられている。しかし阿倍政治自体が、7年半もの一本調子の経済金融政策による深刻な弊害、もりかけ問題での担当唐突な配転と証拠隠し、桜を見る会の不正な経理処理と証拠の破壊、更に旧統一教会の擁護や裏金の温床派閥となっていたことなど、法令遵守に反する政治運営をしていたことが明らかになって来たている。それを継承し「懸案を処理し、結果を出す」と言うのであれば、解散、総選挙を行い、自らの信念、主張を国民に問うべきではないだろうか。このような観点から、本稿を再掲する。

 

シリーズ平成の「変」-衆院総選挙もさせてもらえなかった福田総理辞任の「変」― (再掲)
 2008年9月1日、福田総理は辞任の意向を表明した。
 記者会見で述べていた通り、安倍前総理だけではなく、長期に亘る自民党政権で積み上げられた「負の遺産」を引き継ぎ、また参議院が民主党など野党に多数を占めている中で、大変苦労をされた。「負の遺産」は、福祉失政であり、経済失政、経済無策であり、行政のメタボ体質や公務員の綱紀の乱れ、そして閣僚の失言と不明瞭な政治資金など、根は深い。その中で、道路特定財源の一般財源化や消費者庁の設置などに先鞭を付け、一定の功績を残したと言える。ご苦労様でしたと言いたい。
 しかし、「自前の」内閣改造、党役員の入れ替えを行って1ヶ月にもならない中での辞任である。「変」である。今回の内閣改造、党役員人事の裏には森元総理が居ることで知られている。
 内閣改造をしても支持率は上がらず、党内では改革外しや反改革抵抗勢力の巻き返しの中で、これでは選挙が出来ないと「福田おろし」が吹き荒れていた。石油の他、諸物価高騰の中での景気後退により、景気対策が声高に叫ばれ、赤字国債の発行による大型の財政出動論が飛び出し、その先には消費税増税論が見え隠れする。路線の転換圧力である。「改革」による成長の恩恵は、反改革路線で消えた。経済失政とも言える。それをまた大型の公共事業や財政出動で浮揚させようというわけだ。バブル崩壊後、その積み重ねで800兆円以上の公的債務が積み上げられた。当時頻繁に公共投資を売り込んでいたリチャード・クー氏(野村総研主任研究員)がまた顔を出し始めている。800兆円の国の借金はどう処理するのかと問いたい。更に公債を積み上げてどうする積もりなのだろうか。
「変」である。路線転換の「変」である。
 不思議なことに、安倍前総理が政権運営に行き詰まり辞任したのは麻生太郎自民幹事長の時である。今回も、党役員人事で返り咲いた同幹事長の下での福田総理辞任である。同幹事長は2つの政権を党として支えられなかったという結果となっている。党内の路線の不一致から、党として政権運営を支えられなくなって来ているのであろう。
 これから新しい自民党の総裁が選ばれ、国会で首班指名が行われることになろう。衆議院では指名が得られても、参議院では否決される。民意を問うべき時期であろう。 (Copy Right Reserved.)
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