消費税大増税案
― 年金・健保失政のツケを国民に転嫁すべきではない -
10月17日、福田内閣の下で開催された経済財政諮問会議において、内閣府が年金、健保、介護の社会保障3分野の給付・医療サービスと国民負担に関する将来的な収支試算を提出し、増税論が本格化する兆しだ。同試算によると、経済成長率や給付水準、負担率などの条件にもよるが、高齢化による社会保障費増と肥大化した公的債務の利払いなどを賄うため、2025年度において8兆円から最大29兆円もの財源不足となり、これを埋めるため8%から17%にも及ぶ消費税の増税が必要としている。
1.欠ける歳出削減に対するシナリオ
政府は既に、2010年までに14.3兆円の歳出削減をし、11年度に政府予算のプライマリー・バランスを達成するとしている。これらの歳出削減努力をしても、経済成長が2.1%程度の低成長であれば、現在の給付水準を維持すると約29兆円の財源不足になると試算されている。
それでは長年に亘りの肥大化して来た行政のツケを国民に転嫁するに等しい。試算であるので、条件の設定次第で色々のシナリオが考えられるが、政府目標としている「最大の歳出削減」をすることを前提としているものの、歳出削減への新たな努力は提示されておらず、ひたすら増税のシナリオを詳細に説明している。その上、政府が目標としている2010年までの14.3兆円の歳出削減については、経済成長(名目)が、07年の2.3%から2010年の3.1%へとなだらかに改善することを前提としており、自然増収が期待されるにも拘わらず、14.3兆円程度の削減では、自然増収分の「節約」でしかなく、純減にはなっていない上、上記の試算では、2.1%程度の低成長を前提として税収を低く見積もっており、増税幅を大きくするよう設定をしている。
この試算を前提としても、本来であれば、社会保障費の財源不足や国債等の元利支払いに要する歳出削減のシナリオと削減する項目等を国民に提示し、国民の選択を求めるべきであろう。太田経済財政担当大臣は、歳出削減努力に関する記者の質問に対し、財政に関する「骨太方針2006」でも「歳出、歳入の一体改革」を提示しており、今回の増税試算はそれに沿うものである旨反論する場面も見られた。そうであれば、増税のシナリオと同様に、財源不足に対応する歳出削減のシナリオも提示し、国民の選択を求めるべきではなかろうか。
2.行政側の責任
特に、年金については、行政側の管理責任と政権・与党の監督責任が問われなくてはならない。
厚生年金会館の建設など「福祉施設費」に約3兆5千億円、グリーンピアの建設や住宅融資などへの出資が約2兆円など、少なくても合計6兆8千億円近くが年金給付以外に流用、浪費されていることが伝えられている。多くの施設については投売り状態であり、また、この金額にこれら施設の人件費、管理費への補填額を含めれば流用額は更に膨らむ恐れがある。
また、年金保険料の着服・横領は、これまでに明らかになっているだけでも、社保庁職員によるものが52件(約1億7千万円)、市区町村職員等によるものが101件(約2億4千万円)、合計約4億1千万円となる。金額は少ないが、年金業務の遂行におけるずさんさを象徴している。
年金積立金の運用面においても、国民の拠出金であり、財産権でもある資金が適正且つ有利に運用されてきたか否かにつき、年金給付以外への転用と共に、価値の増殖が適正に行なわれて来たか否かにつき点検する必要があろう。
シンガポールや最近始めた中国の外貨準備の国家運用を例に引き、年金資金の国家運用を提唱する向きがあるが、年金資金は国民や企業・組織の拠出金で成り立っており、外貨準備や税金とは異なる性格のものである。また、これまでの年金業務のずさんさを考えると、民間の金融・証券投資企業にコンソーシアムなどを組ませ運用を委託するなど、民間の専門知識・経験を活用することを検討すべきではないか。その場合、運用益は非課税とし、運用額の一定比率に政府保証を付与するなど、価値の保全策を講じる必要がある。
ところで、納付記録漏れの救済については、最近、関係閣僚による会議なども持たれるようであるが、福田内閣として、08年3月までにどこまで出来るかの見通しを具体的に示すべきであろう。約5千万件(社保庁推定2兆3千億円相当)の内、524万件は「氏名なし」であり、約1割については是正困難なことが既に明らかになっている。また、記録回復のために設けられた総務省の下での「第三者委員会」での救済作業も、約1万6千件の申し立てに対し、9月末で190人程度しか記録救済できておらず、記録回復のためのシステムが開発されても、救済率は低く、明年3月までの是正、救済は何処まで出来るのか疑問視され始めている。「3年ほどじっくり掛ければきっちりしたものを出せる」等の発言も聞かれるが、これ以上問題の先送りをすべきではない。早急に手順を示すべきだ。
3.健保・介護保険の負担
健康保険についても、少子高齢化の中で制度を維持するため、自己負担を増やすことは仕方がないが(受益者負担原則)、65歳以上の年金対象者については、単に年齢に基づき一律に引き上げるのではなく、年金を含む総所得が例えば800万円以上については現役時同様の負担、それ以下は70%負担、年収300万円以下は50%負担など、年収、支払能力の実態に沿った負担にすべきなのであろう。現在与党が検討しているのは、老齢者負担増の一定期間の猶予であるが、衆院総選挙を念頭に置いた目先の対応でしかない上、所得機会が少なくなる75歳以上の負担を一律に引き上げるのは酷な話だ。
更に、健康保険料の他に、いつの間にか介護保険料が付け加えられたが、実質的な健康保険料の値上げであり、年間7万円以上の追加支払いは国民年金1ヶ月分以上の場合もあり、年金生活者には負担が大きい。加えて、介護保険料が国民年金から自動的に差し引かれる仕組みとなっているため、実質的な年金給付額の引き下げに等しく、年金生活者にとっては深刻であろう。老齢者が介護福祉のために困窮することになるのは皮肉だ。
これでは、将来への年金不安に加え、所得の低い者の負担感が高くなることになり、「国民福祉」ではなく「国民酷祉」と言われても仕方がない。
年金の問題にしても、健保問題にしても、その多くは行政側の責任が大きい。また、社保庁や厚労省だけの問題に限らず、国交省や防衛庁、海外援助その他の活動において、談合等による割高な経費が支弁され、抜本的な経費節減が可能であろう。更に、各種の名目でのばら撒きや不適正な使用など、多くの浪費や不適正が報道されており、総じて見れば、財政問題は行政側の責任で引き起こされている。従って、社保庁や厚労省のみでなく、全省庁の責任の問題として、財源不足を増税により国民に転嫁するのではなく、歳出削減に取り組むべきであろう。
101にも及ぶ独立行政法人への補助金は、総額3兆5千億円に及ぶが、その整理・民営化は行政側の抵抗で作業が進んでいないなど、行政改革は遅々として進んでいない。これら独法の役員約650名の内、公務員出身者は3割弱を占めており、行政組織と一体化して「官業」ビジネスとなっているからであろうか。だからと言って、そのツケを増税により国民に転嫁することは安易な選択肢と言えよう。
また、長期の経済停滞から脱し、景気回復の兆しが見え始めているが、米国のサブプライム・ローン問題の影響が懸念されているところに、消費税増税が行なわれれば、個人消費は更に抑制され、景気の足を引っ張ることになり、税収増も望めなくなろう。
今、世代を問わず、年金問題や医療負担増が将来不安の最大の要因になっていることを理解すべきなのであろう。
― 年金・健保失政のツケを国民に転嫁すべきではない -
10月17日、福田内閣の下で開催された経済財政諮問会議において、内閣府が年金、健保、介護の社会保障3分野の給付・医療サービスと国民負担に関する将来的な収支試算を提出し、増税論が本格化する兆しだ。同試算によると、経済成長率や給付水準、負担率などの条件にもよるが、高齢化による社会保障費増と肥大化した公的債務の利払いなどを賄うため、2025年度において8兆円から最大29兆円もの財源不足となり、これを埋めるため8%から17%にも及ぶ消費税の増税が必要としている。
1.欠ける歳出削減に対するシナリオ
政府は既に、2010年までに14.3兆円の歳出削減をし、11年度に政府予算のプライマリー・バランスを達成するとしている。これらの歳出削減努力をしても、経済成長が2.1%程度の低成長であれば、現在の給付水準を維持すると約29兆円の財源不足になると試算されている。
それでは長年に亘りの肥大化して来た行政のツケを国民に転嫁するに等しい。試算であるので、条件の設定次第で色々のシナリオが考えられるが、政府目標としている「最大の歳出削減」をすることを前提としているものの、歳出削減への新たな努力は提示されておらず、ひたすら増税のシナリオを詳細に説明している。その上、政府が目標としている2010年までの14.3兆円の歳出削減については、経済成長(名目)が、07年の2.3%から2010年の3.1%へとなだらかに改善することを前提としており、自然増収が期待されるにも拘わらず、14.3兆円程度の削減では、自然増収分の「節約」でしかなく、純減にはなっていない上、上記の試算では、2.1%程度の低成長を前提として税収を低く見積もっており、増税幅を大きくするよう設定をしている。
この試算を前提としても、本来であれば、社会保障費の財源不足や国債等の元利支払いに要する歳出削減のシナリオと削減する項目等を国民に提示し、国民の選択を求めるべきであろう。太田経済財政担当大臣は、歳出削減努力に関する記者の質問に対し、財政に関する「骨太方針2006」でも「歳出、歳入の一体改革」を提示しており、今回の増税試算はそれに沿うものである旨反論する場面も見られた。そうであれば、増税のシナリオと同様に、財源不足に対応する歳出削減のシナリオも提示し、国民の選択を求めるべきではなかろうか。
2.行政側の責任
特に、年金については、行政側の管理責任と政権・与党の監督責任が問われなくてはならない。
厚生年金会館の建設など「福祉施設費」に約3兆5千億円、グリーンピアの建設や住宅融資などへの出資が約2兆円など、少なくても合計6兆8千億円近くが年金給付以外に流用、浪費されていることが伝えられている。多くの施設については投売り状態であり、また、この金額にこれら施設の人件費、管理費への補填額を含めれば流用額は更に膨らむ恐れがある。
また、年金保険料の着服・横領は、これまでに明らかになっているだけでも、社保庁職員によるものが52件(約1億7千万円)、市区町村職員等によるものが101件(約2億4千万円)、合計約4億1千万円となる。金額は少ないが、年金業務の遂行におけるずさんさを象徴している。
年金積立金の運用面においても、国民の拠出金であり、財産権でもある資金が適正且つ有利に運用されてきたか否かにつき、年金給付以外への転用と共に、価値の増殖が適正に行なわれて来たか否かにつき点検する必要があろう。
シンガポールや最近始めた中国の外貨準備の国家運用を例に引き、年金資金の国家運用を提唱する向きがあるが、年金資金は国民や企業・組織の拠出金で成り立っており、外貨準備や税金とは異なる性格のものである。また、これまでの年金業務のずさんさを考えると、民間の金融・証券投資企業にコンソーシアムなどを組ませ運用を委託するなど、民間の専門知識・経験を活用することを検討すべきではないか。その場合、運用益は非課税とし、運用額の一定比率に政府保証を付与するなど、価値の保全策を講じる必要がある。
ところで、納付記録漏れの救済については、最近、関係閣僚による会議なども持たれるようであるが、福田内閣として、08年3月までにどこまで出来るかの見通しを具体的に示すべきであろう。約5千万件(社保庁推定2兆3千億円相当)の内、524万件は「氏名なし」であり、約1割については是正困難なことが既に明らかになっている。また、記録回復のために設けられた総務省の下での「第三者委員会」での救済作業も、約1万6千件の申し立てに対し、9月末で190人程度しか記録救済できておらず、記録回復のためのシステムが開発されても、救済率は低く、明年3月までの是正、救済は何処まで出来るのか疑問視され始めている。「3年ほどじっくり掛ければきっちりしたものを出せる」等の発言も聞かれるが、これ以上問題の先送りをすべきではない。早急に手順を示すべきだ。
3.健保・介護保険の負担
健康保険についても、少子高齢化の中で制度を維持するため、自己負担を増やすことは仕方がないが(受益者負担原則)、65歳以上の年金対象者については、単に年齢に基づき一律に引き上げるのではなく、年金を含む総所得が例えば800万円以上については現役時同様の負担、それ以下は70%負担、年収300万円以下は50%負担など、年収、支払能力の実態に沿った負担にすべきなのであろう。現在与党が検討しているのは、老齢者負担増の一定期間の猶予であるが、衆院総選挙を念頭に置いた目先の対応でしかない上、所得機会が少なくなる75歳以上の負担を一律に引き上げるのは酷な話だ。
更に、健康保険料の他に、いつの間にか介護保険料が付け加えられたが、実質的な健康保険料の値上げであり、年間7万円以上の追加支払いは国民年金1ヶ月分以上の場合もあり、年金生活者には負担が大きい。加えて、介護保険料が国民年金から自動的に差し引かれる仕組みとなっているため、実質的な年金給付額の引き下げに等しく、年金生活者にとっては深刻であろう。老齢者が介護福祉のために困窮することになるのは皮肉だ。
これでは、将来への年金不安に加え、所得の低い者の負担感が高くなることになり、「国民福祉」ではなく「国民酷祉」と言われても仕方がない。
年金の問題にしても、健保問題にしても、その多くは行政側の責任が大きい。また、社保庁や厚労省だけの問題に限らず、国交省や防衛庁、海外援助その他の活動において、談合等による割高な経費が支弁され、抜本的な経費節減が可能であろう。更に、各種の名目でのばら撒きや不適正な使用など、多くの浪費や不適正が報道されており、総じて見れば、財政問題は行政側の責任で引き起こされている。従って、社保庁や厚労省のみでなく、全省庁の責任の問題として、財源不足を増税により国民に転嫁するのではなく、歳出削減に取り組むべきであろう。
101にも及ぶ独立行政法人への補助金は、総額3兆5千億円に及ぶが、その整理・民営化は行政側の抵抗で作業が進んでいないなど、行政改革は遅々として進んでいない。これら独法の役員約650名の内、公務員出身者は3割弱を占めており、行政組織と一体化して「官業」ビジネスとなっているからであろうか。だからと言って、そのツケを増税により国民に転嫁することは安易な選択肢と言えよう。
また、長期の経済停滞から脱し、景気回復の兆しが見え始めているが、米国のサブプライム・ローン問題の影響が懸念されているところに、消費税増税が行なわれれば、個人消費は更に抑制され、景気の足を引っ張ることになり、税収増も望めなくなろう。
今、世代を問わず、年金問題や医療負担増が将来不安の最大の要因になっていることを理解すべきなのであろう。